最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スーパーファミコンパッチプログラム発信者情報開示請求事件

東京地裁平成26.11.26平成26(ワ)7280発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      西村康夫
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2014.12.12
*キーワード:プログラム、著作物性、発信者情報開示、プロバイダ責任制限法

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■事案

スーパーファミコン用ゲームのパッチプログラムが無断でサイトにアップロードされたとして発信者情報開示請求を行った事案

原告:プログラム制作者
被告:プロバイダ事業者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、10条1項9号、プロバイダ責任制限法4条1項

1 本件パッチが「プログラム」に該当するか
2 著作物性の有無
3 発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか
4 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

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■事案の概要

『本件は,原告が,別紙ウェブページ目録記載1のURLにより表示されるウェブページ(以下「本件サイト」という。)において氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がアップロードした同目録記載2のファイルに含まれるプログラムとされる制作物(以下「発信者プログラム」という。)は,原告の創作に係るプログラムとされる制作物(以下「本件パッチ」という。)の複製物ないし翻案物であり,本件発信者の行為は原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかであるから,本件発信者に対し損害賠償請求権を行使するために本件発信者に係る発信者情報の開示を受ける正当な理由があると主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件パッチが「プログラム」に該当するか

スーパーファミコン用ゲーム「SDガンダム GNEXT」のプログラムに関して、原告がそのバグ等を改善するために作成したパッチプログラムが第三者によってウェブサイトにアップロードされ、だれでもダウンロードできる状態にされました。
発信者情報開示に関するプロバイダ責任制限法4条1項の権利侵害の明白性の有無の判断について、まず、パッチプログラムのプログラム性(著作権法2条1項10号の2)が検討されています(6頁以下)。
この点について、被告は、あくまでプログラムとして動作するのは「SDガンダム GNEXT」プログラムであって、このプログラムとは別個に本件パッチ自体を表現するなら「SDガンダム GNEXT」プログラムを改変するためのデータ列というほかないとして、そもそも本件パッチは「プログラム」に該当しないと反論しました。
しかし、裁判所は、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチは、複数の指令を組み合わせて電子計算機を機能させ所定の場合には色の切替動作を行い、所定の場合にはこれを行わないという1つのまとまった仕事ができるように構成されているものと認められるとして、「プログラム」に該当すると判断しています。

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2 著作物性の有無

次に、本件パッチの著作物性について、被告は、原告が創意工夫をしたとする箇所の多くが別の著作物である「SDガンダム GNEXT」プログラムを前提として、そのソースコード等を入手することなくそのオブジェクトコードを改変するという、通常であれば無理な作業を行うことから生じているものであって、著作物における制作者の個性の表現ともいわれる創作性とはおよそ異なるものであるとして、その著作物性を欠くと反論しました。
この点について、裁判所は、「プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する」(8頁)とプログラムの著作物性の意義について言及した上で、本件色切替パッチの著作物性を検討しています。
そして、本件色切替パッチは、情報の読み出し、加工、データベースとの照合などの処理を行うものであり、そのために種々のコマンドを組み合わせて表現していると判断。また、本件色切替パッチと同じ目的を達成するためのコマンドやその組み合わせ、その順序にはほかにも多様な選択肢があると認定しています。
その上で、原告は、それだけの選択の余地がある中で工夫を凝らして本件色切替パッチを作成したものであるとして、本件色切替パッチはありふれた表現ではなく、何らかの作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていると裁判所は判断。
結論として、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチは、プログラムの著作物であると認定しています。

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3 発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか

本件色切替パッチと発信者プログラムの当該部分をオブジェクトコードレベルで対比すると、両プログラムのコードは完全に一致すると認められるなどとして、発信者プログラムのうち、少なくとも本件色切替パッチに対応する部分は、本件パッチの一部である本件色切替パッチの複製物に該当すると裁判所は判断しています(12頁)。

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4 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

前述のとおり本件発信者の行為は原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかであり、また、原告は、本件発信者に対して著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するために被告の保有する本件発信者情報の開示を受けることが必要であると認定。
原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると裁判所は判断しています(12頁以下)。

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■コメント

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求にあたっては、権利侵害の明白性要件の具備が求められますが、その要件の検討に際してマジコンで吸い出したプログラムを改造するパッチの権利性が争点となりました。