最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

文具シール絵柄事件

東京地裁平成26.10.30平成25(ワ)17433損害賠償等請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2014.11.7
*キーワード:著作物性、複製

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■事案

文具用品であるシールの図柄の無断複製が争点になった事案

原告:文具デザイン卸販売会社
被告:文房具関連製品企画製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、114条2項

1 複製権侵害の成否
2 差止請求等の当否
3 損害論

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■事案の概要

『本件は,原告代表者から別紙原告著作物目録記載(1)〜(9)の絵柄(以下「原告著作物」と総称し,それぞれを「原告著作物(1)」などという。)の著作権の譲渡を受けた原告が,被告に対し,被告商品の製造及び販売は原告の著作権(複製権)を侵害する行為であると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき被告商品の販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,著作権(複製権)侵害の不法行為に基づく損害賠償金の支払を求める事案である。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 複製権侵害の成否

被告は、平成24年6月20日頃以降、被告著作物の絵柄のシールを含む1セット32枚のシールセットである被告商品の製造販売をしましたが、被告著作物と原告著作物の類否が争点となっています(6頁以下)。

原告著作物
(1)睡蓮
(2)ひさご
(3)金魚鉢
(4)百合
(5)招き猫
(6)雪うさぎ
(7)ぶどう
(8)千鳥
(9)撫子

被告は、原告著作物がいずれも単色の絵柄であるのに対して、被告著作物はいずれも様々な色彩のヴィベールという特殊な素材に黒箔及び金箔を使用して制作されていること、また、個別の著作物についてみると、原告著作物と被告著作物とでは表現上の特徴に大きな相違があると反論しました。
この点について、裁判所は、複製(著作権法2条1項15号)の意義について言及した上で、
「複製には,表現が完全に一致する場合に限らず,具体的な表現に多少の修正,増減等が加えられていても,表現上の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるが,誰が作成しても似たような表現にしかならない場合や,当該思想又は感情を表現する方法が限られている場合には,同一性の認められる範囲は狭くなると解される。」
そして、
「上記の素材はそれ自体ありふれたものである上(乙7〜9,11〜45),限られたスペースに単純化して描かれることから,事柄の性質上,表現方法がある程度限られたものとならざるを得ない。そうすると,本件において複製権侵害(複製物に係る譲渡権侵害とみても同様である。)を認めるためには,同種の素材を採り上げた他の著作物にはみられない原告著作物の表現上の本質的な特徴部分が被告著作物において有形的に再製されていることを要すると解すべきである。」(7頁)
と説示し、その類否について検討しています(なお、色自体は複製の成否の判断に影響しないと判断しています)。

結論としては、(2)線描のひさごの絵柄については複製性を肯定しましたが、その他は「ありふれた表現」、「酷似するものではない」などとして表現上の本質的な特徴部分での再製ではないとして複製性を否定しています。
(2)については、依拠性、過失も認定されて、複製権侵害性が肯定されています。

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2 差止請求等の当否

被告著作物(2)の絵柄のシールを含む被告製品の販売の差止め及び廃棄の主張が認められています(17頁)。

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3 損害論

販売枚数 1万0827枚
販売合計額225万4707円
製造原価 102万7656円
利益率  30%
1セット32枚のうちの1枚が侵害品

利益額67万6412円×1/32=2万1137円

結論として、2万1137円が損害額として認定されています(17頁以下)。

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■コメント

文具製品は個人的にも好きで、10代の頃から被告製品のシールやグリーティングカードを利用してきました。被告製品のイメージにも繋がるかと思われる、シートの素材感や色彩の特徴を被告は強調しましたが、裁判所はその点については類否判断の要素としては認めませんでした。

問題となったシール絵柄(別紙参照)をみてみると、モノトーンと色彩がある絵柄とでは、ずいぶんと印象が異なるものの、複数の作品を全体としてみると、原告デザインに依拠して被告はデザインをしており、個々の図柄も原告デザインの特徴を再製していると感じさせるものがいくつかあります(似せないように、左右を反転させるといった、稚拙な改変がかえって目に留まります)。
もっとも、別紙にあるように、被告は他のデザイン作品(対照図案)について詳細な調査を行っており、結果として「和物柄のデザインアイデアの盗用に過ぎない」といったレベルの裁判所の判断に落ち着いていて、被告側の訴訟対策が功を奏したとも思われます。