最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自炊代行サービス事件(控訴審)

知財高裁平成26.10.22平成25(ネ)10089著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2014.10.24
*キーワード:自炊、複製、主体、スキャン、私的使用

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■事案

自炊代行業者による出版物の電子ファイル化サービスの適法性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審被告):自炊代行業者、代表者
被控訴人(一審原告):小説家、漫画家、漫画原作者ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項15号、21条、30条1項、112条1項

1 控訴人ドライバレッジによる複製行為の有無
2 著作権法30条1項の適用の可否
3 差止めの必要性
4 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

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■事案の概要

『本件は,小説家,漫画家又は漫画原作者である被控訴人らが,控訴人ドライバレッジは,顧客から電子ファイル化の依頼があった書籍について,著作権者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(以下,このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あるいは「スキャニング」という場合がある。),その電子ファイルを顧客に納品しているところ(以下,このようなサービスを依頼する顧客を「利用者」という場合がある。),注文を受けた書籍には,被控訴人らが著作権を有する原判決別紙作品目録1〜7記載の作品(以下,併せて「原告作品」という。)が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれる蓋然性が高いから,被控訴人らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,(1)著作権法112条1項に基づく差止請求として,控訴人ドライバレッジに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに,(2)不法行為に基づく損害賠償として,控訴人らに対し,弁護士費用相当額として被控訴人1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔控訴人ドライバレッジにつき平成24年12月2日,控訴人Xにつき同月7日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。
 原判決は,控訴人ドライバレッジの行為は被控訴人らの著作権を侵害するおそれがあり,著作権法30条1項の私的使用のための複製の抗弁も理由がなく,同控訴人に対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらないとして,被控訴人らの控訴人ドライバレッジに対する著作権法112条1項に基づく差止請求を認容するとともに,被控訴人らの控訴人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求を被控訴人1名につき10万円及び遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容したため,控訴人らがこれを不服として控訴したものである。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人ドライバレッジによる複製行為の有無

「スキャポン」の名称で控訴人事業者により提供されていた自炊代行サービスに関して、裁断書籍をスキャナーで読み込み電子ファイル化する行為(本件サービス)の複製行為主体性について、裁判所は、複製行為の主体とは、複製の意思をもって自ら複製行為を行う者をいうと説示した上で、控訴人事業者は、利用者と対等な契約主体であり、営利を目的とする独立した事業体として複製の意図をもって自ら複製行為を行っているとして、控訴人事業者が本件サービスにおける複製行為の主体であると認定しています。
控訴人らは、手足論などいくつかの点から反論をしていますが、結論としては、原審同様、「本件サービスにおける複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度や本件サービスの実態,私的領域が拡大した社会的状況の変化等の諸要素を総合考慮しても,控訴人ドライバレッジが本件サービスにおける複製行為の主体ではないとする控訴人らの主張は理由がない。」として、ロクラク2最高裁事件判決で示された判断基準を踏まえた上で控訴人らの主張を認めていません(25頁以下)。

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2 著作権法30条1項の適用の可否

控訴人事業者に対する30条1項の適否について、裁判所は、私的使用目的の点と使用する者による複製の点のいずれの要件も欠くとして、その適用を否定しています(32頁以下)。

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3 差止めの必要性

控訴人事業者は、今後も本件サービスにおいて原告作品をスキャナで読み取って電子ファイルを作成し、被控訴人らの著作権を侵害するおそれがあるというべきであるとして、控訴人事業者に対して第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することを差し止める必要性があると裁判所は判断しています(35頁以下)。

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4 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

控訴人事業者及びその代表者には少なくとも過失があるとした上で不法行為に基づく損害賠償請求の成立を肯定。差止請求に係る弁護士費用相当額の損害として、被控訴人1名につき10万円の損害額が認定されています。

結論として、原審の判断が維持されています。

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■コメント

一審で被告だった自炊代行業者のサンドリームは控訴審では外れています。
複製行為の主体性論などについては、後述の「企業法務戦士の雑感」さんの記事をご覧いただけたらと思います。

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■過去のブログ記事

原審記事

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■参考サイト

[企業法務][知財]これが解釈論の限界なのか?〜自炊代行訴訟・知財高裁判決への落胆と失望
企業法務戦士の雑感(2014-10-25)

控訴人事業者プレスリリース
控訴審の判決及び今後の対応についてPDF(平成26年10月22日)

MIAU Presents ネットの羅針盤 メールマガジン(有料配信)
自炊代行訴訟裁判傍聴レポート / 香月啓佑(MIAU事務局長)
【自炊代行裁判控訴審速報】MIAUメールマガジン「ネットの羅針盤」 Vol.14(2014-05-28)

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■追記(2014.11.6)

被告プレスリリース(2014.11.4)
上告のご報告