最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

Eラーニング著作物制作業務委託契約違反事件

東京地裁平成26.9.30平成25(ワ)14689使用許諾料請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      藤田 壮
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2014.10.16
*キーワード:Eラーニング、高校入試問題、使用許諾契約、相殺、訴権の濫用

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■事案

学習支援コンテンツ配信サービスにおいて第三者の編集物を配信したことから、契約違反の事後処理として相殺の範囲が争点となった事案

原告:図書教材制作販売会社
被告:教育ソフト開発販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法505条

1 本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権の成否
2 本訴の提起に係る不法行為に基づく損害賠償債権の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,原告と被告との間の問題集等の使用許諾契約に基づき,未払使用許諾料の支払を求める事案である。被告は,請求原因事実を全て認め,被告の原告に対する損害賠償債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張して,原告の請求を争っている。』(2頁)

<経緯>

H17.11 原被告間でEラーニング使用許諾契約締結
       原被告間で高校入試問題編集業務委託契約締結
H23.10 被告が訴外アート工房から著作権侵害の指摘を受ける
H24.9  被告がアート工房と電子出版契約締結
H24.10 被告が原告に対して相殺の意思表示

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■判決内容

<争点>

1 本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権の成否

(1)債務不履行の成否

原告と被告は、平成17年11月1日に原告が平成15年度以降の全国公立高等学校入試問題の問題及び解答を編集してWordに入力し、Word及びPDFデータとして納品する業務委託契約(本件契約)を締結しましたが、納品物の大部分が訴外アート工房の製品である問題集のデッドコピーでした。
裁判所は、原告が全国公立高校入試問題の問題及び解答、解説を編集してデータ化したとはいえないとして、本件納品物は債務の本旨に従った履行とはいえないと判断。原告は、被告に対して本件契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を負うと認定しています(7頁以下)。

(2)損害額について(8頁)

(ア)利用許諾料 582万7500円

被告がアート工房に対して支払った本件問題集の平成17年版から平成22年版までの利用許諾料合計金額全額が損害額として認定されています。

(イ)弁護士費用 52万5000円

アート工房との契約交渉等に係る弁護士費用相当額が損害額として認定されています。

合計 635万2500円

(3)相殺

被告は、原告に対して本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権635万2500円を有しており、これを自働債権とする相殺によって同額の教材使用許諾料債権が消滅したと裁判所は認定しています(9頁)。

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2 本訴の提起に係る不法行為に基づく損害賠償債権の成否

被告は、相殺の抗弁に理由があることは明らかであって、原告の主張は事実に反するのみならず、背信的なものと言わざるを得ないとして、原告による本訴の提起は訴権を濫用した不法行為に該当すると主張。少なくとも訴額の10%に当たる63万5250円が不法行為と相当因果関係のある弁護士費用となるとして、被告は、原告に対して本訴の提起に係る不法行為に基づいて63万5250円の損害賠償債権を有すると主張しましたが、裁判所は、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権の損害額については、原告がこれを争うことに一応の合理性がある点などを踏まえ、本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまではいえないとして、原告の主張を認めていません(9頁以下)。

結論として、原告が被告に対して有するの教材使用許諾料698万7750円のうち、被告が原告に対して有する債務不履行に基づく損害賠償債権635万2500円を対当額で相殺した残額の63万5250円についてのみ、請求が認められています。

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■コメント

小中学校や自治体施設向けの学習支援コンテンツ配信サービスで、コンテンツとして配信される高校入試問題と解答、解説が第三者の編集物であったことから、権利クリアランスのための事後処理が必要となり、許諾料請求と損害賠償請求での相殺額の範囲が争点となった事案となります。
6年にも亘って第三者の著作物を無断流用していたというのも驚きですが、不誠実な取引先が訴訟提起したことに対して、訴権の濫用という反論をするキモチも分からないではないところです。