最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」事件

東京地裁平成26.4.30平成24(ワ)964著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2014.5.29
*キーワード:パチンコ、映画、複製、翻案、頒布、商標的使用、独占的利用許諾

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■事案

パチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」に使用された映像が、映画会社の映像の著作権を侵害したかどうかなどが争点となった事案

原告:映画製作会社、キャラクター企画制作会社、遊戯用具機械製造会社
被告:広告代理店、遊技機器製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、26条、27条、114条2項、商標法2条3項1号、4条1項7号、38条2項

1 著作権侵害の成否
2 商標権侵害の成否
3 差止請求の可否
4 損害賠償請求の可否及び損害額

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■事案の概要

『本件は,テレビ放映用番組として製作された「遠山の金さんシリーズ」のうち,別紙著作物目録記載の合計3話(以下「原告著作物」という。)の著作権を有し,別紙商標目録記載の「遠山の金さん」の商標権(第4700298号。以下「本件商標権」という。)を有する原告東映が,別紙被告商品目録記載のパチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」(以下「被告商品」という。)を製造販売していた被告らに対し,著作権法112条1項又は商標法36条1項に基づき,被告商品の部品である別紙被告部品目録記載の部品(以下「被告部品」という。)の交換又は提供の差止めを求めるとともに,原告東映,原告東映から原告著作物の著作権及び本件商標権の独占的使用許諾を受けたとする原告BFK,原告BFKから原告著作物の著作権及び本件商標権の独占的使用再許諾を受けたとする原告大一商会が,原告らの連帯債権として,被告らに対し,連帯して,民法709条,719条,著作権法114条2項又は商標法38条2項に基づき,合計19億8000万円及びこれに対する被告商品の製造販売が終了した日である平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(3頁)

<経緯>

H20.05 被告サンセイ登録商標「名奉行金さん」に対して原告東映が無効審判請求
H21.11 被告らが「CR松方弘樹の名奉行金さんXX」発売
H21.12 原告東映が被告らに対して仮処分申立て
H22.02 被告らが「CR松方弘樹の名奉行金さんZZ」発売

原告商標:「遠山の金さん」(登録番号4700298)
被告標章:「CR松方弘樹の名奉行金さん」

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

原告の3点の映画著作物(テレビドラマ映像)と被告映像の類否の判断に関して、裁判所はまず創作性や類似性の判断手法について「釣りゲーム」事件(知財高裁平成24.8.8判決)や江差追分事件最高裁判決(最高裁平成13.6.28判決)に言及し(59頁以下)、その上で、構成要素を検討し類否を判断しています。

・被告金さん物語映像の全体のストーリー構成
・立ち回りシーン
・お白州シーン
・被告掛け声演出
・被告くのいちリーチ映像
・被告プロモーション映像
・お白州シーンにおける証人の懇願
・お白州シーンにおける遠山奉行の衣装

以上の諸点について、原著作物である脚本に由来する部分であるとか、ストーリー構成はアイデアにすぎない、創作性のある部分での類似ではない、などの点から類似性を否定する部分がある一方、立ち回り中及びお白州での桜吹雪披露シーンの表現については表現上の創作性が認められるとして、本件において著作権(複製権)侵害が認められるのは、一まとまりとしての立ち回りでの桜吹雪披露シーン(原告松方映像6−1の0:37:47付近から0:37:56付近まで、被告金さん物語映像のNo.31の00:39付近から00:47付近まで、被告立ち回りリーチ映像の00:33付近から00:40付近まで)及びお白州での桜吹雪披露シーン(原告松方映像6−1(甲52の1)の0:47:50付近から0:48:05付近まで、被告金さん物語映像(甲49の1)のNo.40の00:24付近から00:39付近まで)に限られると認定しています。

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2 商標権侵害の成否

(1)被告標章を商標的に使用したといえるか

被告らは、「名奉行金さん」は遠山金四郎の作品・物語を題材とするタイアップ機であることを表すために用いられたものであり、被告商品には被告標章とともに被告サンセイの商標として著名な「SanseiR&D」の文字が付されている、被告標章は被告商品に内蔵された被告映像の題号というべきである、などとして被告標章は自他識別機能を果たす態様で商標として使用されていないと主張しましたが、商標的に使用(商標法2条3項1号、2号)されていることは明らかであるとして、裁判所は被告らの主張を認めていません(76頁以下)。

(2)原告商標と被告標章の類否

原告商標「遠山の金さん」と被告標章(「CR松方弘樹の」「名奉行金さん」という筆書きの字体が概ね2段にわたって配置)の類否について、裁判所は、原告商標と被告標章とは「金さん」の部分の外観及び称呼において一致するものの、「遠山の金さん」「名奉行金さん」はそれぞれ一体として結合しており、「金さん」の部分を要部と見る余地はなく、原告商標と被告標章は外観及び称呼においては類似しないと判断。
もっとも、原告商標と被告標章は、「歴史上の人物である遠山金四郎」、時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」という観念を生じる点において同一又は類似であると判断しています(70頁以下)。

(3)原告商標の商標法4条1項7号違反の有無

被告らは、原告商標は周知・著名な歴史上の人物である遠山金四郎の著名性に便乗する行為であって、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するおそれがある商標であるとして、原告商標は商標法4条1項7号に該当し、46条1項1号又は5号により無効となるべきものであるから、39条、特許法104条の3により原告らは権利を行使することができないと主張しました(80頁以下)。
しかし、本件商標権の登録査定時である平成15年6月27日における著名性には、原告東映が昭和25年から昭和40年にかけて製作してきた映画シリーズ、昭和45年から基準時である平成15年まで放映してきたテレビシリーズが、かなりの程度寄与しているものと認められると裁判所は判断。
結論として、本件商標権の登録査定時においても本件口頭弁論終結時現在においても、原告商標に商標法4条1項7号の無効事由があるとは認められないとしています。

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3 差止請求の可否

原告らは、被告商品の販売が終了した後も被告映像が収載された被告部品が修理等の際に交換又は提供される蓋然性が高いとして、原告東映は著作権法112条1項に基づき被告部品の交換又は提供の差止請求権を有すると主張しました(83頁以下)。
この点について裁判所は、被告商品は平成25年1月27日をもって各都道府県の公安委員会による検定(風営法20条4項)の有効期間が全て終了し、被告商品の補修を行う必要もなくなったため、被告サンセイは平成25年2月19日までに被告部品を全て廃棄したことが認められるとして、被告サンセイが被告映像の収載された被告部品を交換又は提供するおそれは既に失われたものと認められ、差止めの必要性は認められないと判断しています。

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4 損害賠償請求の可否及び損害額

(1)被告らの著作権侵害の故意過失

被告映像は著作物であることが明らかな原告松方映像6−1に依拠したものと認められ、被告らには著作権侵害につき故意又は過失があったことは明らかであると判断されています(84頁)。

(2)原告東映の著作権法114条2項に基づく請求の可否

被告らによる著作権侵害行為がなかったならば原告著作物をパチンコ機に利用して利益が得られたであろうという事情があったものと認められるとして、原告東映の著作権法114条2項に基づく請求の余地を裁判所は認めています(84頁以下)。

(3)原告BFKの著作権法114条2項に基づく請求の可否

原告BFKについては、原告東映と本件松方作品について契約書を締結しておらず、原告BFKが原告著作物を含む本件松方作品について、あるいは本件松方作品を含む本件金さんシリーズについて独占的利用許諾を受けていると認めることはできないとして、著作権法114条2項に基づく請求を裁判所は認めていません(86頁以下)。

(4)原告大一商会の著作権法114条2項に基づく請求の可否

原告BFKが原告著作物について独占的利用許諾を受けていると認められない以上、原告大一商会が原告著作物について独占的利用再許諾を受けているとも認められないとして、著作権法114条2項に基づく請求を裁判所は認めていません(87頁以下)。

(5)原告東映の商標法38条2項に基づく請求の可否

被告らは、原告東映は自ら業として原告商標を使用しておらず、競合製品を販売していないとして商標法38条2項の適用を受けることはできないと主張しました(88頁)。
しかし、裁判所は、杉良太郎主演の「遠山の金さん」の著作物の取り扱いを踏まえ、「遠山の金さん」をパチンコ機の名称に商標的に使用することが想定されていたとして、本件商標権について原告東映は通常使用権を黙示に設定していたものと認められると判断。原告東映は、原告BFK、原告大一商会を通じて原告商標をその指定商品である第28類「遊戯用器具」に使用していたとして商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができると判断しています。

(6)原告BFKの商標法38条2項に基づく請求の可否

裁判所は、商品化に伴う原告商標の使用について独占的な通常使用権が設定されたと考えるのが自然であるとした上で、商標法38条2項は独占的通常使用権者にも類推適用されると解するのが相当であり、原告BFKは平成23年6月30日までの被告らの利益について、商標法商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができると判断しています(88頁以下)。

(7)原告大一商会の商標法38条2項に基づく請求の可否

原告大一商会の原告商標の使用についても原告BFKが原告東映から黙示に付与された独占的通常使用権再設定権に基づき、独占的通常使用権の再設定を受けていたものと認められるとして、原告第一商会は平成23年6月10日までの被告らの利益につき、商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができると裁判所は判断しています(89頁以下)。

(8)被告商品の販売数量及び利益率

販売数量4万2993台、被告商品の売上高は157億9484万6000円であり、被告らが被告商品により得た利益(貢献利益)は、被告商品の売上高から変動費と個別固定費(被告商品の製造販売に直接必要な経費)を控除した金額と認定しています(90頁以下)。

(9)原告著作物の寄与率

被告商品に内蔵されている被告映像のうちの著作権侵害部分、稼働時間、遊技者やパチンコ店にとって被告商品に「遠山の金さん」の映像(被告映像)が内蔵されていることが遊技者やパチンコ店等の需要者にとって重要な要素であること、立ち回りシーン及びお白州シーンでの桜吹雪披露シーンは最も関心の高いシーンであること等を総合考慮した上で裁判所は原告著作物の寄与率を算定。
著作権侵害により原告東映が被告らに請求できる損害賠償の額は1億6664万9166円と認定しています(94頁以下)。

(10)原告商標の寄与率

パチンコ機にいかなるキャラクターが使用されているかが遊技者が遊技するパチンコ機、パチンコ店が購入するパチンコ機を決定するときの重要な要素となっており、遊技者やパチンコ店にとって被告標章「CR松方弘樹の名奉行金さん」は、松方弘樹演じる「遠山の金さん」の映像が内蔵されているパチンコ機であることを一目で表す標章として重要な役割を果たしている、といった事情を総合考慮し、被告商品の貢献利益に対する被告標章の寄与率を算定。
商標権(及びその独占的通常使用権)侵害により原告らが被告らに請求できる損害賠償の額は5億5549万7220円と裁判所は認定しています(95頁以下)。

(11)弁護士費用

原告東映につき1400万円(著作権侵害につき600万円、商標権侵害につき800万円)、原告BFK、原告大一商会につき各800万円と認定されています(90頁以下)。

結論として、被告らの支払総額は合計7億5214万6386円及び遅延損害金と判断されています。

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■コメント

被告パチンコ遊技機メーカーのサイトを拝見すると、被告商品である「CR松方弘樹の名奉行金さん」のためだけのプロモーション映像を制作、松方弘樹さんらを出演させています。
商標を巡る一連の訴訟も踏まえ、結果的に東映を中抜きして、俳優の事務所との契約を根拠にパチンコ機の商品化を断行したものと思われますが、俳優のパブリシティに関する権利処理だけでは足りず、「遠山の金さん」コンテンツの権利処理も必要であるとして、裁判所の理解を得られませんでした。
事務所へ高額の出演料・パブリシティ使用料を支払い済みで、パチンコ機を販売しないわけにはいかないといった背景が、あるいはあったかもしれません。
ただ、結果だけみれば、売上高の5%程度の損害額(著作権侵害部分に限れば1%の1億6664万円余)であり、コンテンツに関する利用許諾を得られないなかでパチンコ機の製造、販売を断行した本事案に限っていえば、「やり得」感があったと言ってしまうのは、言い過ぎでしょうか(今後、コンテンツホルダーからの許諾が得られ難い場面は想定されますが)。

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■参考判例

グリー対DeNA「釣りゲータウン2」事件(控訴審)
知財高裁平成24.8.8平成24(ネ)10027著作権侵害差止等請求控訴事件

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■参考サイト

東映株式会社 プレスリリース(平成26年5月16日)
「CR松方弘樹の名奉行金さん」著作権侵害差止等請求事件について

株式会社サンセイアールアンドディ
製品情報 CR松方弘樹の名奉行金さん

プレスリリース(平成26年5月16日)
「CR松方弘樹の名奉行金さん」著作権侵害差止等請求訴訟について

株式会社大一商会
インフォメーション(平成26年5月16日)
「CR松形弘樹の名奉行金さん」著作権侵害差止等請求事件について

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■追記(2014.8.5)

《WLJ判例コラム》第30号「遠山の金さん」の見得を切る所為は誰のものか?
〜俳優のしぐさに対する著作権の所在が争われた事例〜
北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之(掲載日 2014年8月4日)
文献番号2014WLJCC012