最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「【チキ本さん】呪われしモザイク」動画発信者情報開示請求事件

東京地裁平成26.3.14平成25(ワ)26251発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2014.4.11
*キーワード:著作物性、氏名表示権、発信者情報開示、プロバイダ責任制限法

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■事案

ニコニコ動画サイトに改変され無断掲載された動画の発信者に係る情報の開示を求めた事案

原告:映像制作会社
被告:プロバイダ

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、プロバイダ責任制限法4条1項

1 権利侵害の明白性(法4条1項1号)
2 発信者情報の開示を受けるべき正当理由(法4条1項2号)

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■事案の概要

『「takuya」こと氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は,株式会社ニワンゴ(以下「ニワンゴ」という。)が開設・運営する動画投稿サイト「ニコニコ動画」(以下「本件サイト」という。)に,動画タイトルを「【チキ本さん】呪われしモザイク」と題する別紙投稿動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を,同「投稿日時」欄記載の日時(以下「本件タイムスタンプ タイムスタンプ タイムスタンプ」という。)に,同「投稿時IPアドレス」欄記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を使用して,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して投稿した(甲2〜4,9)。
本件動画は,その後,本件サイトから削除された(乙3,弁論の全趣旨)。』

<経緯>

H12.03 原告が本件ビデオ映像1を創価学会に著作権譲渡
H15.03 原告が本件ビデオ映像2を創価学会に著作権譲渡

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■判決内容

<争点>

1 権利侵害の明白性(法4条1項1号)

(1)本件ビデオ映像の著作物性

本件ビデオ映像1、2いずれも原告従業員であるディレクターにより製作された映画の著作物であると認定されています(6頁)。

(2)本件ビデオ映像の著作者

本件ビデオ映像1、2いずれも職務著作として原告が著作者と認定されています(6頁以下)。
なお、本件ビデオ映像の著作権は、創価学会に譲渡されています。

(3)氏名表示権侵害性

本件動画は本件ビデオ映像に依拠してその一部を抽出し、モザイク加工して他の映像・音楽と合成するなどの改変を加えた動画であり、一覧表の1番、2番、4番、5番、8番に対応する本件動画の映像から本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できることが認められるとした上で、本件ビデオ映像を複製ないし翻案した本件動画には原告の氏名が表示されていないとして氏名表示権侵害性(19条)が肯定されています(7頁以下)。

(4)本件動画の利用に正当化事由がないこと

本件発信者による本件動画への本件ビデオ映像の利用は、「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」(著作権法19条3項)に当たらないことが明らかであり、また、他に著作権法上の正当化事由がないことも明らかであると判断されています(13頁)。

結論として、本件動画の投稿は、原告の氏名表示権を侵害していることが明らかであると判断されています。

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2 発信者情報の開示を受けるべき正当理由(法4条1項2号)

原告は本件発信者に対して著作者人格権に基づき不法行為による損害賠償請求等を行うために被告に対して本件発信者情報の開示を求めるものであるとして、プロバイダ責任制限法4条1項2号の「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(正当理由)の要件を充足すると判断。

結論として原告に対する発信者情報目録記載の発信者情報開示請求が認容されています(13頁)。

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■コメント

ニコニコ動画で問題となった動画を検索すると、現在削除されていることがわかります(http://www.nicovideo.jp/watch/sm20813760)。同じ映像と思われる別事件については、後掲事件参照。

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■過去のブログ記事

ニコニコ動画発信者情報開示請求事件