最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パチンコ用呼出ランプ「デー太郎ランプシリーズ」プログラム事件

東京地裁平成25.12.25平成22(ワ)42457損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2014.3.11
*キーワード:不正競争行為、営業秘密、プログラム著作物、複製、翻案

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■事案

退職従業員によるパチンコ・スロット用呼出ランプのプログラムや回路図の持ち出しの有無などが争点となった事案

原告:遊技場向け電子制御機器製造販売会社
被告:パチンコ・スロット用呼出ランプ等製造販売会社、原告元従業員ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、不正競争防止法2条6項

1 被告らの不正競争行為の有無
2 原告ソースプログラムに係る著作権侵害の有無
3 雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告会社及び原告の従業員であった被告甲,被告乙及び被告丙(以下,当該3名を併せて「被告元従業員ら」という。)に対し,パチンコ・スロット用の呼出ランプ「デー太郎ランプシリーズ」(以下,併せて「原告製品」という場合がある。)を開発・製造するための技術情報として,「デー太郎ランプX(エックス)」を機能させるために作成されたソースプログラム(以下「原告ソースプログラム」という。),「デー太郎ランプMZ(メガゼータ)」の電気設計図面(パチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図,代表灯中継器回路図を含む。以下「原告図面」という。)及び電子部品データベース(以下「原告データベース」という。また,原告ソースプログラム,原告図面及び原告データベースを併せて「原告技術情報」という。)を有しており,原告技術情報が営業秘密に当たると主張した上で,被告会社は,被告甲が指示し,被告乙が原告ソースプログラムを,被告丙が原告図面及び原告データベースを原告の承諾なく持ち出したことを知って,原告技術情報を取得したものであって,被告会社の製造・販売に係る別紙製品目録記載1(1)及び(2)の製品(以下,併せて「被告製品」といい,個別に特定する場合には「イ号製品」などという。)は,原告ソースプログラムの一部を改変して作成した別紙製品目録記載2(1)及び(2)のプログラム(以下,併せて「被告プログラム」といい,そのソースプログラム及びオブジェクトプログラムを「被告ソースプログラム」「被告オブジェクトプログラム」という。また,個別に特定する場合には「イ号プログラム」などという。)をインストールし,原告図面及び原告データベースを使用して開発されたものであるから,被告会社は,原告の営業秘密を不正取得行為が介在したことを知って取得・使用するとともに,原告ソースプログラムの著作権(複製権・翻案権)を侵害し,また,被告甲は,雇用契約上の信義誠実義務に違反して引抜行為を行ったなどと主張して,(1)被告会社に対し,(ア)不正競争防止法3条1項に基づく差止請求として,被告製品の製造,販売又は販売の申出の禁止(請求1項),(イ)同法3条2項に基づく廃棄請求として,被告製品の廃棄(請求2項),(2)被告会社に対し,(ア)著作権法112条1項に基づく差止請求として,被告プログラムの複製の禁止(請求3項),(イ)同法112条2項に基づく廃棄請求として,被告プログラムを記憶させた記憶媒体の廃棄(請求4項),(3)被告会社,被告甲及び被告乙に対し,原告ソースプログラムに係る損害賠償請求(不正競争防止法4条〔同法5条2項による推定〕又は不法行為〔著作権法114条2項による推定〕,更に被告乙につき債務不履行に基づく)として,4億9000万円の一部である5000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である被告会社につき平成23年1月28日,被告甲及び被告乙につき同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払(請求5項),(4)被告会社,被告甲及び被告丙に対し,原告図面及び原告データベースに係る損害賠償請求(不正競争防止法4条〔同法5条2項による推定〕,更に被告丙につき債務不履行に基づく)として,4億9000万円の一部である5000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である被告会社につき平成23年1月28日,被告甲及び被告丙につき同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払(請求6項),(5)被告甲に対し,雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求として,4億円の一部である1億円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年1月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払(請求7項)を求めた事案である。』(2頁以下)

<経緯>

H20 被告甲が原告を退職後、被告会社を設立
    被告乙、丙が原告を退職後、被告会社で就業
H21 被告がイ号製品販売

原告製品:パチンコ・スロット用呼出ランプ「デー太郎ランプシリーズ」

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■判決内容

<争点>

1 被告らの不正競争行為の有無

(1)原告技術情報が営業秘密に当たるか

まず、原告ソースプログラム及び原告図面が営業秘密に該当するかどうかが検討されています(23頁以下)。
原告は、原告技術情報については出入りが制限された事業所内で守秘義務を負う技術者等の特定の従業員のみがアクセス可能な状態で保管されており、また、従業員は原告技術情報を含む技術上の情報が秘匿性を有する性質のものであることを認識していたなどと主張しました。
しかし、裁判所は、原告ソースプログラム及び原告図面について、秘密として管理されていたことを認めることは困難であるとして、秘密管理性を否定。原告の主張を認めていません。
また、原告データベースについては、その内容の有用性及び非公知性が具体的に主張、立証されていないとして、原告データベースの営業秘密性は認められていません。

(2)被告らが原告技術情報を不正に取得したか

念のため、として、被告らが原告技術情報を不正に取得したかについても検討されています(25頁以下)。
この点について、裁判所は、被告乙のプログラマとしての経験年数や原告製品に係るプログラムの開発年数を考慮した上で、本件12桁の文字列が一致することにより直ちに被告乙の持ち出しが推認されるものではないなどとして、結論としては、被告乙が原告ソースプログラムを持ち出し、使用したことを認めることはできないと判断しています。
また、被告丙が原告図面を持ち出したかについては、回路図の対比においてランニング入出力部、代表灯出力部、書き込み回路は類似しており、外部装置であるパチンコ用及びスロット用入出力装置、代表灯中継器も同様であるものの、上記以外の図面は相違する点が多い上、被告丙は、本人尋問において回路や部品を記憶していた旨供述しており、丙の原告における担当業務に照らすと被告丙の供述を信用できないものということはできず、上記図面の類似点があるとしても直ちに被告丙が回路図を持ち出し、使用したと認めることができないと裁判所は判断。被告丙による原告図面の持ち出し、使用についても否定されています。

結論として、被告らによる不正競争行為性は否定されています。

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2 原告ソースプログラムに係る著作権侵害の有無

原告は、原告ソースプログラムのLED発光パターンに関わる本件12桁の文字列について創作性を主張しましたが、このような文字列を組み込むことはアイデアであると解されるとして、プログラム著作物としての創作的な表現とはいい難いと裁判所は判断。また、原告はリモコンの制御の時間判定の定数やポート制御の処理部分の創作性を原告は主張しましたが、定数については創作性が認められず、また、ポート制御の処理部分についても、創作性がないか、仮に認められるとしても原告と被告のプログラムの対応部分を比較すると、表現方法が異なるものであるとして、結論として複製権侵害及び翻案権侵害を裁判所は認めていません(32頁以下)。

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3 雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

原告は、被告甲が組織的かつ計画的な引き抜きを行ったなどと主張しました(35頁以下)。
しかし、裁判所は、被告甲が原告を退職後、6名が原告を退職し、被告会社に在籍しているものの、上記6名の退職が被告甲の勧誘に端を発したものであったとしても被告乙及び被告丙は、本人尋問において、原告退職の理由として待遇面を挙げており(他の4名は転職理由不明)、その勧誘の目的が積極的な加害目的であったとは認められず、その勧誘の方法も社会的相当性を欠くものであることなどを認めるに足りる証拠はないとして、被告甲の勧誘行為に違法性はないと判断。結論として、原告の雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求は認められていません。

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■コメント

遊技機周辺機器の開発製造で競合する他社へ1割弱の従業員が移籍したという事案で、退職従業員による引き抜きや営業秘密の持ち出しが争点となりました。原告にとっては、技術畑の人員を中心に移籍がされてしまい、開発業務において痛手だったのかもしれません。
なお、被告会社サイトを拝見しますと、被告会社製品の液晶画面のデザイン性、技術力の高さが見てとれます。

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■参考サイト

原告製品情報
デー太郎ランプ11

被告製品群
製品情報