最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

祈願経文返還請求事件

東京地裁平成25.12.13平成24(ワ)24933損害賠償等請求本訴事件等PDF
平成25(ワ)16293損害賠償請求反訴事件

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2014.2.12
*キーワード:経文、著作物性、口述権、公衆、頒布、所有権

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■事案

祈願経文の著作物性などが争点となった事案

原告(反訴被告):宗教法人
被告(反訴原告):原告元信者ら

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■結論

本訴一部認容、反訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項1号、24条、民法719条

1 被告らに対する本件経文原本返還請求の成否
2 本件経文の著作物性
3 被告Bに対する本件経文(1)ないし(3)の口述差止請求及び本件経文(1)ないし(3)の複製物の廃棄請求の可否
4 被告Aに対する本件経文(4)ないし(6)の複製・頒布の差止請求及び本件経文(4)ないし(6)の複製物の廃棄請求の可否
5 被告らによる共同不法行為の成否
6 損害額
7 反訴請求の成否

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■事案の概要

『1 本訴事件
本件は,宗教法人である原告が,
(1)別紙動産目録記載の祈願経文(以下,同目録記載(1)ないし(6)の標題毎に,それぞれ「本件経文原本(1)」などといい,これらを併せて「本件経文原本」という。)の所有権に基づき,被告Bにつき本件経文原本(1)ないし(3)の,被告Aにつき本件経文原本(4)ないし(6)の各返還を求め,
(2)本件祈願経文原本に記載された祈願経文であって,別紙動産目録記載(1)ないし(6)の標題を有するもの(以下,同目録記載(1)ないし(6)の標題毎に,それぞれ「本件経文(1)」などといい,これらを併せて「本件経文」という。)の著作権(複製権,口述権)に基づき,(1)被告Bにつき本件経文(1)ないし(3)の口述の差止め(著作権法112条1項)及び同経文の複製物の廃棄(同条2項)を,(2)被告Aにつき本件経文(4)ないし(6)の複製及び上記複製によって作成された物の頒布(同法113条1項2号)の差止め(同法112条1項)並びに同経文の複製物の廃棄(同条2項)を各求め,
さらに,
(3)被告らが,共謀して,原告の法具及び袈裟を使用し,本件経文を読誦して祈願模倣行為を執り行うとともに,上記祈願模倣行為が原告の許可の下でなされたものである旨の発言を行ったこと等は,原告の名誉・信用を毀損するものであり,かつ,本件経文に係る原告の著作権(口述権)及び上記法具等に係る原告の所有権を侵害するものであって,被告らの共同不法行為(民法719条前段)を構成すると主張し,上記不法行為に基づく損害3300万円(名誉毀損等による無形損害等3000万円及び弁護士費用300万円)(附帯請求として,被告に対する各訴状送達日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案である。
2 反訴事件
本件は,被告らが,本訴事件は,原告が,被告らに対する報復のために提起したものであり,本来であればおよそ法律問題となり得ない事実につき,成立し得ない法律構成で不当な主張をするものであるから,被告らに対する不法行為を構成すると主張し,上記不法行為に基づく損害賠償として,被告ら各自につき1000万円(附帯請求として,反訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案である。』(3頁以下)

<経緯>

H22 被告Aらがカウンセラー検定協会設立
H23 協会名称を心検に変更
H24 被告らが除名処分
H24 原告が本訴提起、Eについては和解成立

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■判決内容

<争点>

1 被告らに対する本件経文原本返還請求の成否

(1)被告Bに対する本件経文原本(1)ないし(3)の返還請求の成否

裁判所は、被告Bが原告の所有に係る本件経文原本(1)ないし(3)を保有していたとは認められないとして、被告Bに対する本件経文原本(1)ないし(3)の返還請求を否定しています。(20頁以下)。

(2)被告Aに対する本件経文原本(4)ないし(6)の返還請求の成否

被告Aが保有していた本件経文(4)ないし(6)の記載物が原告の所有に係るものであると認められず、かつ、被告Aが上記経文を現在も保有している点についても認められないとして、被告Aに対する本件経文原本(4)ないし(6)の返還請求は認められないと裁判所は判断しています。

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2 本件経文の著作物性

本件経文の著作物性(著作権法2条1項1号)について、原告代表役員が天上界により降ろされた聖なる祈りの言葉として創作したもので、原告における宗教的儀式の中で読誦して用いられるものであるとされる本件経文に関して、裁判所は、本件経文の上記内容に照らし、本件経文には原告代表役員の個性が表現されているものといえるのであって、その思想又は感情を言語によって創作的に表現したものであると認められると判断。本件経文の著作物性を肯定しています(23頁以下)。

なお、原告は、原告代表役員から本件経文の著作権の譲渡を受けたものと認められ、原告は本件経文に係る著作権(口述権、複製権)を有するものと認定されています。

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3 被告Bに対する本件経文(1)ないし(3)の口述差止請求及び本件経文(1)ないし(3)の複製物の廃棄請求の可否

被告Bに対する本件経文(1)ないし(3)の口述差止請求及び本件経文(1)ないし(3)の複製物の廃棄請求の可否について、裁判所は、まず口述権における「公衆」の意義について言及。
「著作者は,その言語の著作物を公に口述する権利を専有するところ(著作権法24条),「公に」とは,その著作物を,公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とすることをいい(同法22条),「公衆」には,不特定の者のほか,特定かつ多数の者が含まれる(同法2条5項)。そして,当該著作物の利用が公衆に対するものであるか否かは,事前の人的結合関係の強弱に加え,著作物の種類・性質や利用態様等も考慮し,社会通念に従って判断するのが相当である」旨説示しています。

そして、被告Bが「心検」の受講者等のうち、Eの勧めを受けて被告Bのもとを訪れた者の一部に対して本件経文(1)ないし(3)を読み上げたことがあり、また、本件経文(1)ないし(3)を一人で又は被告Cとともに読み上げたことがあるが、上記行為はいずれも、言語の著作物である本件経文(1)ないし(3)を口頭で伝達するものとして、「口述」(著作権法2条1項18号)に該当すると判断。
しかし、上記口述のうち、被告Bのみ又は被告Cと2人による読上げについては、自宅内において被告Bのみで又はその妻である被告Cと二人で行われたものであるから、上記口述が公衆に直接聞かせることを目的として行われたものとは認められないと認定。
上記読上げが「公に」なされたものと認められない以上、上記読上げが本件経文(1)ないし(3)に係る原告の口述権を侵害するものとは認められないとしています。
また、被告Bが同被告のもとを訪れた者に対して本件経文(1)ないし(3)を読み上げた点についても、被告Bが祈願を行った人数は5、6名にとどまるとみるべきであって、被告Bが多数人に対して祈願を行い、本件経文(1)ないし(3)を読み上げたものと認めることはできないと判断。原告の口述権侵害性を否定しています(26頁以下)。

結論として、被告Bについて本件経文(1)ないし(3)の口述権侵害は成立せず、被告Bに対する本件経文(1)ないし(3)の口述の差止請求及び専ら口述権侵害行為に供された器具としての本件経文(1)ないし(3)の複製物の廃棄請求はいずれも認められていません。

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4 被告Aに対する本件経文(4)ないし(6)の複製・頒布の差止請求及び本件経文(4)ないし(6)の複製物の廃棄請求の可否

裁判所は、被告Aが、本件経文(4)ないし(6)の複製物を頒布(著作権法2条1項19号)、すなわち公衆に譲渡したものとは認められず、また、原告の祈願経文を全て廃棄したものと認められるとした上で、被告Aが今後、本件経文(4)ないし(6)を複製するおそれがあるものとは認められないし、また、被告Aが廃棄の対象となる本件経文(4)ないし(6)の複製物を所持しているものとも認められないとして、被告Aに対する本件経文(4)ないし(6)の複製及び頒布の差止め並びに本件経文(4)ないし(6)の複製物の廃棄はいずれも認められないと判断しています(31頁以下)。

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5 被告らによる共同不法行為の成否

裁判所は、原告の主張する不法行為のうち、宗教法人としての本質の侵害、名誉・信用毀損、口述権侵害を理由とする部分については不法行為の成立を否定。もっとも、Eが原告から無断で持ち出した本件法具等について、被告B及び被告CはEが本件法具等を権原なく持ち出したことを認識し又は認識し得た上で共同して本件法具等を占有していたとして、本件法具等の占有につき、被告B及び被告Cに所有権侵害の共同不法行為が成立すると判断しています(32頁以下)。

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6 損害額

被告B及び被告Cの本件法具等の所有権侵害の共同不法行為による損害について6万円、弁護士費用相当額1万円の合計7万円を損害額として認定しています(34頁以下)。

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7 反訴請求の成否

被告らは、本訴事件は原告が被告らに対する報復のために提起したものであり、本来であればおよそ法律問題となり得ない事実につき成立し得ない法律構成で不当な主張をするものであるから、被告らに対する不法行為を構成すると反訴で主張しました(37頁以下)。
しかし、裁判所は、本訴請求について一部認容する部分があること等を考慮の上、原告が本訴請求の原因として主張する事実が事実的、法律的根拠を欠くものとはいえず、本件訴訟の提起が裁判制度の趣旨に反し著しく相当性を欠くものと評価することはできないとして、被告の主張を認めていません。

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■コメント

経文の著作物性が正面から争点となり、また、その経文を読誦して祈願模倣行為を行うことが口述権侵害にあたるかどうかなどが争われました。
なお、原告宗教法人が関わった最近の別件事件としては、「霊言」DVD複製頒布事件(後掲 東京地裁平成24.9.28平成23(ワ)9722損害賠償等請求事件)があります。

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■過去のブログ記事

「霊言」DVD複製頒布事件

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■参考サイト

除名処分
混ぜるな危険! ブログ・サンポール 「『心検(こころけん)』に関する流れ」(2012-05-11)