最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

船舶情報管理システム事件(別訴)

東京地裁平成25.12.11平成24(ワ)33631著作権確認請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2014.2.4
*キーワード:訴訟物、既判力、信義則

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■事案

船舶情報管理システムの著作権確認の訴えについて実質的には前訴の蒸し返しとして却下された事案

原告:被告会社元従業員
被告:船舶用塗料製造販売会社、船舶塗装情報管理システム開発運用会社、塗料製造販売会社

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■結論

請求却下

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■争点

条文 民事訴訟法114条、115条

1 訴訟物の特定について
2 前訴確定判決の既判力について
3 被告中国塗料技研、被告大竹明新化学に対する訴えの適法性について
4 被告中国塗料に対する訴えの適法性について

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告らに対し,プログラムの著作物である船舶情報管理システムの著作権確認を求める訴訟である。』

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■判決内容

<争点>

1 訴訟物の特定について

原告は、請求の趣旨として「「船舶情報管理システム」に対する著作権」と記載していましたが、本訴において原告が被告らに著作権の確認を求める「船舶情報管理システム」とは、前訴において被告中国塗料に著作権の確認を求めていた別紙著作権目録記載の船舶情報管理システム(本件システム)を指していることが明らかであるとして、本訴の訴訟物は、本件システムの著作権として特定している、と裁判所は認めています(9頁以下)。

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2 前訴確定判決の既判力について

原告と被告中国塗料との間において、前訴の事実審の口頭弁論終結時である平成22年12月22日時点で原告が本件システムの著作権を有しないことは既判力をもって確定していると裁判所は認定。
原告は、信友又は被告中国塗料技研の「発意」は、原告が信友の取締役又は被告中国塗料技研の代表取締役として行ったもので原告と信友・被告中国塗料技研間の自己取引に当たるところ、前訴口頭弁論終結後に被告中国塗料技研は自己取引の承認を拒絶したから発意は無効であることが確定した、著作権法15条2項は憲法29条1項に違反するなどと主張しましたが、これらの主張はいずれも前訴口頭弁論終結前に主張することができた主張であるとして、被告中国塗料との関係では前訴確定判決の既判力に抵触し許されないと判断されています(10頁)。

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3 被告中国塗料技研、被告大竹明新化学に対する訴えの適法性について

被告中国塗料技研、被告大竹明新化学に対する訴えの適法性について、裁判所は、被告中国塗料技研、被告大竹明新化学は、前訴の当事者でもその承継人等でもないことから前訴確定判決の既判力が及ぶわけではないと説示(民事訴訟法115条)。
しかし、前訴と訴訟物や当事者が異なるなどして前訴判決の既判力が及ばないとしても、後訴が実質的に見て紛争の蒸し返しといえるときは、後訴の提起は信義則に照らして許されないと解するのが相当であると示した上で、本件について検討。
前訴における原告の請求のうち著作権確認請求の訴訟物は、本訴の訴訟物と同一である。また、被告中国塗料技研は被告中国塗料の100パーセント子会社であり、被告大竹明新化学も被告中国塗料の子会社であって、被告中国塗料と利害関係は共通している。 さらに、本件システムは原告が被告中国塗料技研あるいは信友に在籍中に作成したものというのであるから、原告は、前訴において被告中国塗料技研及び被告大竹明新化学に対しても著作権確認請求を求めること、前訴において本訴と同様の主張をすることに何の支障もなかった。
そして、被告らとしては前訴確定判決の確定により本件システムの著作権の帰属に関する原告との紛争は解決されたものと信じても無理はなく、本訴において本件システムの著作権の帰属を再び争うことは被告らの地位を不当に長く不安定な状態におくものといえる。
以上の点から、本訴は、実質的には前訴の蒸し返しというべきであり、本訴の提起は信義則に照らして許されないものと解するのが相当であると裁判所は判断しています(10頁以下)。

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4 被告中国塗料に対する訴えの適法性について

被告中国塗料に対する関係においても本訴の提起は信義則に照らし許されないものと解するのが相当であると裁判所は判断しています(11頁)。

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■コメント

船舶情報管理システムに関する著作権確認の訴えについて、前訴では対象としなかった被告子会社を本訴で被告として加えましたが、実質的には前訴の蒸し返しとして却下されました。

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■前訴に関する過去のブログ記事

大阪地裁平成20.7.22平成19(ワ)11502著作権確認等請求事件
船舶情報管理システム事件
知財高裁平成23.3.15平成20(ネ)10064著作権確認等請求控訴事件
船舶情報管理システム事件(控訴審)

*上告不受理 最高裁平成24年2月28日決定平成23年(オ)第1066号、同23年(受)第1203号

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■追記(2014.11.05/2016.03.08)

東京地裁平成26.10.15平成25(ワ)9989著作物使用差止等請求事件
別件訴訟

知財高裁平成28.2.24平成26(ネ)10117著作物使用差止等請求控訴事件
控訴審