最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

漫画「彼女の告白」映画翻案事件

東京地裁平成25.11.22平成25(ワ)13598著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2014.1.31
*キーワード:漫画、映画、翻案、上映、同一性保持権

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■事案

漫画原作を無許諾で映画化したかどうかが争点となった事案

原告:漫画家
被告:映画プロデューサー

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■結論

請求一部認容(確定)

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■争点

条文 著作権法27条、22条の2、20条、112条、115条

1 本件映画が本件漫画を翻案(映画化)したものであるか
2 著作権法112条に基づく差止・廃棄請求の成否
3 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額
4 著作権法115条に基づく名誉回復等の措置請求の成否

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■事案の概要

『本件は,漫画家である原告が,映画プロデューサー,映画監督等として活動している被告に対し,被告の製作・監督に係る短編映画「帰省」(以下「本件映画」という。)について,原告の許諾なく,原告の短編漫画である「彼女の告白」(以下「本件漫画」という。)を映画化し,映画祭において上映したなどと主張して,(1)著作権(二次的著作物に係る上映権)侵害のおそれを理由とする著作権法112条に基づく差止・廃棄請求として,本件映画の上映禁止,本件映画が記録された映画フィルム及び電磁的記録媒体の廃棄,(2)著作権(翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として,118万8000円(許諾料相当額8万円,慰謝料100万円及び弁護士費用10万8000円の合計額。また,附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成25年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)の支払,(3)著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害を理由とする同法115条に基づく名誉回復等の措置請求として,被告の運営するウェブページ等において,別紙謝罪文目録記載の文章の掲載を求めた事案である。』(2頁)

本件漫画:短編漫画「彼女の告白」
本件映画:短編映画「帰省」

<経緯>

H14 本件漫画が講談社「週刊モーニング」掲載
H15 講談社イブニングKC「週刊石川雅之」収録
H22 被告が本件映画を製作、映画祭に出展
H24 原告が和解案提案。被告が示談書提案

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■判決内容

<争点>

1 本件映画が本件漫画を翻案(映画化)したものであるか

本件映画が本件漫画を翻案(映画化)したものであるかについて、裁判所は翻案に関する最高裁判決(江差追分事件 最高裁平成13年6月28日)に言及した上で、本件映画が本件漫画を翻案(映画化)したものであるといえるためには、被告が本件漫画に依拠して本件映画を製作し、かつ、本件映画に接する者が本件漫画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることが必要であると説示。その上で、 本件映画は、登場人物やストーリー展開が本件漫画と同じであり、台詞も本件漫画と多くの部分が同じであると判断。相違点はあるものの、表現上の本質的特徴部分において本件映画は本件漫画と同一であるとしています。
併せて、依拠性も肯定されており、本件映画は、本件漫画を翻案(映画化)したものであると認められています(9頁以下)。

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2 著作権法112条に基づく差止・廃棄請求の成否

(1)上映権侵害性の肯否

被告が本件映画の原著作物(本件漫画)の著作者である原告の本件映画に係る上映権を侵害したか否かについて、裁判所は、映画祭の主催者が上映行為をしており、被告が上映の枢要な行為をしたとは認め難いとして、被告による上映権侵害性を否定しています(12頁以下)。

(2)被告が原告の本件映画に係る上映権を侵害するおそれの有無

交渉の経緯から双方の歩み寄りが認められなかったことから、被告が自ら本件映画を上映するおそれがあると認めるのが相当であると判断されています(13頁以下)。

結論として、本件映画の上映禁止や本件映画が記録された映画フィルム及び電磁的記録媒体の廃棄について、その必要性を否定する事情は見当たらないとして、原告の著作権法112条1項に基づく差止・廃棄請求はいずれも理由があると裁判所は判断しています。

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3 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

被告は、著作権(翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任があるとしたうえで、損害額について、裁判所は以下の内容を認定しています。

・著作権(翻案権)侵害に係る損害額(許諾料相当額) 8万円
・著作者人格権(同一性保持権)侵害に係る損害額(慰謝料額) 50万円
・弁護士費用相当額 6万円
 合計64万円

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4 著作権法115条に基づく名誉回復等の措置請求の成否

被告の同一性保持権侵害によって具体的に原告の社会的名誉・声望が害されたことを認めるに足りる証拠はなく、その他損害賠償とともに名誉回復等の措置が必要であることを肯定する事情は見当たらないとして、謝罪文掲載といった名誉回復等の措置請求を裁判所は認めていません(16頁)。

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■コメント

漫画家の石川雅之さんが映画プロデューサーである黒木敬士さんを著作権侵害を理由に提訴した事案となります。
ストーリー展開だけが同じであっても、台詞が違えば別作品とも言えますが、登場人物名にも同一のものがあり、台詞も多くの部分が同一だったということで、どうして映画化の際に、原作使用許諾に関する権利処理をしなかったのか疑問が残る事案です。15分の短編映画で自己資金、自主製作、趣味の範囲で製作したという理由(6頁)は、およそ職業人としては理解できない対応です。
なお、映画祭出展による上映については、被告は上映行為の主体とは判断されていませんが、積極的に複数の映画祭に出展、上映の機会を利用している被告の態度からすれば、主催者ではないからといって上映権侵害とならない判断には違和感を覚えるところです。

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■参考サイト

『週刊石川雅之』収録作品『彼女の告白』著作権侵害裁判の結果報告(2013/12/25 20:00)
講談社モーニング編集長 島田英二郎

原告「日記」
初期作品についてつらつらと(2012年9月20日)
『週刊石川雅之』収録作品『彼女の告白』著作権侵害裁判の結果報告(2013年12月25日)

東葛映画祭2010

山形国際ムービーフェスティバル YMF2011監督・作品「帰省」

したまちコメディ大賞2012 - 第5回したまちコメディ映画祭in台東

映像制作ユニットCineBlocks