最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

書籍「週刊ホンダCB750FOUR」事件(控訴審)

知財高裁平成25.12.25平成25(ネ)10076著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      西 理香
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2014.1.14
*キーワード:写真、出版、著作者、職務著作、譲渡、包括許諾、複製権、公衆送信権、著作者人格権、損害論、差止

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■事案

バイクエンジン部分の写真についての二次利用に関する包括許諾の有無などが争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(一審原告):写真家
被控訴人兼控訴人(一審被告):出版社
一審被告補助参加人     :制作会社

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、15条1項、21条、23条、61条、63条、18条、19条、20条、114条3項、112条1項、2項

1 一審原告が本件写真の著作者(創作者)であるか
2 本件写真の創作が職務著作に当たるか
3 本件写真に係る著作権の譲渡の有無
4 包括的利用許諾の合意の有無
5 複製権及び公衆送信権の侵害の有無
6 公表権の侵害の有無
7 氏名表示権の侵害の有無
8 同一性保持権の侵害の有無
9 著作者人格権不行使の合意の有無
10 一審被告の過失の有無
11 損害額
12 差止の要否

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■事案の概要

『本件は,職業写真家である第1審原告が,出版社である第1審被告に対し,別紙写真目録1記載の写真(写真番号QP3K4517。以下「本件写真」という。)の著作権が第1審原告に帰属するのに,第1審被告は,第1審原告の承諾なく,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に本件写真を掲載し,第1審原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害したなどと主張して,(1)不法行為に基づく損害賠償請求として790万円(附帯請求として本件書籍の発行日である平成22年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,(2)著作権法112条1項に基づく差止請求として,ア本件写真の複製,公衆送信又は改変の禁止,イ本件写真を複製した本件書籍の出版,販売又は頒布の禁止,(3)同法2項に基づく廃棄請求として,ア被告の運営するウェブサイト内のウェブページからの本件写真の削除,イ本件書籍の廃棄を求めた事案である。』
『原判決は,本件写真の著作権は第1審原告に帰属し,第1審被告が本件書籍に本件写真を掲載した行為は,第1審原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害するものであるとした上で,上記(1)の請求につき59万8757円及びこれに対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じる限度で,上記(2)及び(3)の請求につき全部,第1審原告の請求を認容した。
 これに対し,第1審原告及び第1審被告の双方がそれぞれの敗訴部分につき控訴した。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 一審原告が本件写真の著作者(創作者)であるか
2 本件写真の創作が職務著作に当たるか

一審原告が本件写真の著作者(創作者)である点、また、本件写真の創作の職務著作性否定の点について、原審の判断が維持されています(10頁)。

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3 本件写真に係る著作権の譲渡の有無
4 包括的利用許諾の合意の有無

元補助参加人従業員Bや補助参加人代表者Cの供述及び証言から、一審原告に対して、写真に関する権利の「買取り」、あるいは写真に関する権利は全て補助参加人のものになり、二次利用をしようがどのように使おうが補助参加人の自由であることを説明したと認められるとして、一審被告補助参加人と一審原告両者間で同趣旨の合意があったものと推認されると控訴審は判断。
これが口頭による合意であり書面による明確な合意ではないこと、及び補助参加人がやや不明瞭な対応をしたこともあったことなどの事情を総合的に考慮して、包括的合意の内容としては、著作権譲渡の合意は認められないものの、包括的利用許諾の合意があったと認定されています(10頁以下)。

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5 複製権及び公衆送信権の侵害の有無
6 公表権の侵害の有無
7 氏名表示権の侵害の有無

包括的利用許諾の合意が認定され、複製権及び公衆送信権、公表権侵害性が否定されています(17頁以下)。
氏名表示については、一審原告が撮影写真の二次利用に当たってその方法(氏名表示の有無や氏名表示方法を含む)が制限されないことを承諾していたと認めることはできないとして、氏名表示権侵害性を肯定しています。

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8 同一性保持権の侵害の有無
   
少なくとも一審原告は、一審原告の名誉・声望を害しない限りにおいて写真を切り出したり、あるいは写真上に説明のための文章等を追加する等、出版される書籍における写真の利用目的に応じて必要な限度での写真の改変については同意をしていたものと認めるのが相当であるとして、同一性保持権侵害が否定されています(18頁以下)。

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9 著作者人格権不行使の合意の有無

一審原告に対して、撮影した写真について「買取り」である旨の説明はしているものの、著作者人格権の説明はしていないことなどから、一審原告と一審被告補助参加人との間で著作者人格権(氏名表示権)不行使の合意があったとまでは認めるには足りないとして、不行使合意は認められていません(20頁)。

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10 一審被告の過失の有無

原審同様、一審被告の過失が認められています(20頁以下)。

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11 損害額

氏名表示権侵害について慰謝料10万円、弁護士費用相当額1万円の合計11万円が損害額とされています(21頁)。

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12 差止の要否

一審被告は、一審原告の氏名を表示することなく本件写真を本件書籍や一審被告のウェブサイトのウェブページに掲載しており、一審原告の氏名を表示しない限り、本件写真の複製又は公衆送信について差止めの必要があると認められています。
また、一審原告の氏名を表示しない限り、本件写真を複製した本件書籍の出版、販売又は頒布についても同様であるとしています。
さらに、一審被告ウェブサイトのウェブページからの本件写真の削除(ただし、一審原告の氏名を表示していないものに限る。)についても、その必要があると認められています。
なお、本件書籍の上記頁中、一審原告の氏名を表示することなく本件写真を複製して掲載した部分の廃棄を認めることで十分であり、本件書籍全体の廃棄を認める必要はないと判断されています(21頁以下)。

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■コメント

写真撮影の際の「買取り」発言等によって、写真著作物の著作権譲渡や包括的利用合意が認定できるかが争点とされた事案の控訴審です。
控訴審では写真家さんが一審よりも不利な判決となりました。
一審と異なり、控訴審では写真利用に関して包括的な二次利用合意が認定され、結果として複製権、公衆送信権侵害が否定され、また、公表権、同一性保持権侵害が否定され、氏名表示権侵害のみ肯定される結果となっています。

「買取り」の説明や二次利用の合意状況を証言等を踏まえどう捉えるかによって、認定が大きく違うこととなり、微妙な判断となりました。

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■過去のブログ記事

原審記事