最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「実話大報」風俗記事翻案事件

東京地裁平成25.11.28平成24(ワ)3677著作権侵害損害賠償等本訴、ブログ記事抹消等反訴請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.12.10
*キーワード:出版社、翻案権、氏名表示権、同一性保持権、名誉権

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■事案

ブログ掲載記事の雑誌への無断掲載等が争点となった事案

原告(反訴被告):フリーライター
被告(反訴原告):出版社、編集プロダクション

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法27条、19条、20条、115条

1 原告の著作権の侵害の成否
2 原告の著作者人格権の侵害の成否
3 被告らの故意又は過失の有無
4 原告が受けた損害の額
5 謝罪広告の要否
6 被告らの名誉、信用毀損の成否(反訴)
7 違法性の阻却及び原告の故意又は過失の有無(反訴)
8 被告らが受けた損害の額(反訴)

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■事案の概要

『本件は,本訴において,原告・反訴被告(以下「原告」という。)が,被告・反訴原告(以下「被告」という。)らが漫画を掲載した雑誌を編集,発行したことが原告の著作物の著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して,被告らに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づく131万円の連帯支払,被告株式会社ジーオーティー(以下「被告GOT」という。)に対し,著作権法115条に基づく謝罪広告の掲載をそれぞれ求め,反訴において,被告らが,原告がブログに記事等を掲載したことが被告らの名誉,信用を毀損したと主張して,原告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づく各100万円及びこれに対する不法行為の後である反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉権に基づく記事等の削除を求める事案である。』
(3頁)

<経緯>

H22 原告が原告記事1、2をブログに掲載
H23 被告出版社が雑誌に被告漫画1、2を掲載、発行

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■判決内容

<争点>

1 原告の著作権の侵害の成否

原告がブログに掲載した「混浴乱交サークル」と題する記事(原告記事1)及び「生脱ぎパンティオークション乱交」と題する記事(原告記事2)を被告出版社が被告編プロに依頼し漫画を作画した上で、被告出版社刊行の雑誌「実話大報」(本件雑誌)に掲載しました。

裁判所は、原告記事と被告漫画を対比の上、各記述等について、

・場面の流れは、あらすじという表現それ自体ではない
・同一性があるとしても、個性がない、あるいはありふれており、表現上の創作性がない部分である

とする一方で、一部については、創作的に表現された部分について表現上の本質的特徴を直接感得することができるとして翻案を肯定しています(9頁以下)。

結論として、被告らは、被告漫画1記述7及び11を不可分的に有する被告漫画1を掲載した本件雑誌平成23年1月号を編集、発行した点、また、被告漫画2記述5及び6を不可分的に有する被告漫画2を掲載した本件雑誌平成23年6月号を編集、発行した点について、これにより原告の原告記事1及び2の著作権(翻案権)を侵害したものと認められています。

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2 原告の著作者人格権の侵害の成否

原告の著作物を原著作物とする二次的著作物を含む被告漫画に原告の氏名が表示されていなかった点で氏名表示権侵害性が、また、文章を漫画にする方法で掲載されていた点で同一性保持権侵害性が肯定されています(12頁以下)。

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3 被告らの故意又は過失の有無

被告らに原告記事の著作権及び著作者人格権侵害について調査義務違反に関して過失が認定されています(13頁)。

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4 原告が受けた損害の額

財産的損害1万円、精神的損害5万円、弁護士費用相当額6000円の合計6万6000円が損害として認定されています(13頁以下)。

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5 謝罪広告の要否

被告らの著作者人格権侵害行為により、原告の社会的声望名誉が毀損されたことを認めるに足りる証拠はないとして、謝罪広告は認められていません(14頁)。

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6 被告らの名誉、信用毀損の成否(反訴)

原告がブログに掲載した著作権侵害行為を内容とする記事について、被告らは反訴として名誉、信用毀損行為性を争点としました(14頁以下)。
結論として、被告出版社についてのみ、名誉、信用毀損行為性が肯定されています。

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7 違法性の阻却及び原告の故意又は過失の有無(反訴)

違法性阻却事由について、原告記事等が出版社による著作権侵害行為を内容とするもので企業の社会的責任に関するものとして公共の利害に関する事実であるものの、その目的が専ら公益を図るものであるとはいえないとして、裁判所は違法性阻却を認めていません。また、故意も肯定されています(16頁以下)。

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8 被告らが受けた損害の額(反訴)

被告出版社の損害として40万円が認定されています。
また、被告出版社は、名誉権に基づき、原告記事等の記載の削除を求めることができると判断されています(17頁)。

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■コメント

風俗情報誌がライターの風俗情報を無断で漫画化して雑誌に掲載した事案です。
ライターは本訴で一部勝訴したものの、反訴では被告出版社を批判するブログ記事が名誉権侵害と認定されて、著作権、著作者人格権侵害よりも高い損害額が認定されてしまっています。