最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「甘露の法雨」録音物使用契約事件

東京地裁平成25.11.7平成23(ワ)37319損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.11.29
*キーワード:著作権譲渡、著作権使用契約、著作権表示

   --------------------

■事案

生長の家創始者故谷口雅春氏の著作物に関する著作権の帰属や録音物使用契約を巡って争われた事案

原告:公益財団法人
被告:財団法人

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 民法415条

1 原告がAから本件原著作物の著作権の譲渡を受けたか
2 原被告間に本件契約書写に記載された内容の著作権使用契約が成立したか
3 原告が被告に対し本件カセットテープの複製、頒布を許諾したか
4 被告が本件カセットテープの複製、頒布により法律上の原因なくして印税に相当する額を利得したか
5 本件CDの(C)表示が著作物使用契約(CD)に違反するか

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,(1)被告によるカセットテープの複製,頒布について,主位的に,著作権使用契約に基づき,昭和61年8月から平成23年10月までの印税合計2098万8000円及び各印税に対する支払時期の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,予備的に,原告の著作物の著作権を侵害するとして,著作権法112条に基づき,カセットテープの頒布の差止及びその廃棄並びに不法行為による損害賠償請求権に基づき,平成23年10月までに受けた損害2250万円,弁護士費用相当損害金200万円合計2450万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,又は,被告が法律上の原因なく利得し,そのために原告に損失を及ぼしたとして,不当利得返還請求権に基づき,平成23年10月までの被告の利得2250万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被告によるコンパクト・ディスクの販売について,表示が著作権使用契約により定められたものと異なるとして,同契約に基づき,その表示(訴状別紙「表示」に「1986」とあるのは,その趣旨に照らして,「2006」の誤記と認める。)の削除を求める事案である。』
(2頁)

<経緯>

S11 Aが本件原著作物(「聖経 甘露の法雨」「聖経 天使の言葉」「聖経 續々甘露の法雨」)を著述
S59 Aと被告が録音物著作権使用契約
S60 A死亡
S61 A相続人代表Cと被告が著作権使用契約
S61 原被告間で著作権使用契約書写作成
H18 原被告間でCD著作物使用契約

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告がAから本件原著作物の著作権の譲渡を受けたか

本件原著作物の著作権の帰属について、裁判所は、A(谷口雅春氏)は、原告の財団法人設立に当たり、A著述の「生命の實相」の著作権を、これに関連する「聖経 甘露の法雨」の著作権とともに譲渡し、さらに「聖経 天使の言葉」及び「聖経 續々甘露の法雨」についてそれぞれこれを公表した際にその著作権を原告に譲渡したものと認められると判断しています(6頁以下)。

   --------------------

2 原被告間に本件契約書写に記載された内容の著作権使用契約が成立したか

複写機により複製された原被告間の契約書の写しが存在したため、裁判所は、特段の事情がない限り、著作権使用契約が成立したものと認められるとした上で、Aの著作物の著作権の帰属や印税等の扱いが明確にされていなかったこと、お互いに原本を所持していないこと、作成の経緯を明らかにする証拠が全くないこと、被告とCとの間で著作権使用契約を締結したこと、被告の原告に対する印税の支払いがないこと等から、本件契約書写に記載された内容の著作権使用契約が成立したと認めるのを相当としない特段の事情があるというべきであると判断。原被告間における本件契約書写に記載された内容の著作権使用契約の成立は否定されています(8頁以下)。

   --------------------

3 原告が被告に対し本件カセットテープの複製、頒布を許諾したか

裁判所は、原告は、昭和61年8月頃、Aの相続人代表であるCらに印税に相当する額を支払うことを条件に本件カセットテープの複製、頒布を被告に許諾したものと認められるとして、被告による本件カセットテープの複製、頒布は、原告の本件原著作物の著作権を侵害しないと判断しています(11頁)。

   --------------------

4 被告が本件カセットテープの複製、頒布により法律上の原因なくして印税に相当する額を利得したか

裁判所は、原告は、印税に相当する額をCらに支払うことを条件に本件カセットテープの複製、頒布を被告に許諾しており、被告はCらに印税に相当する額を支払っているため、被告がこれを利得したということはできないと判断しています(11頁)。

   --------------------

5 本件CDの(C)表示が著作物使用契約(CD)に違反するか

本件CDの著作権表示について、「C”,D”,2006」の部分は、著作権の帰属を不明確にする記載であるとして、著作物使用契約(CD)に違反すると裁判所は判断。表示の削除請求を認めています(11頁以下)。

   --------------------

■コメント

生長の家の基本聖経『甘露の法雨』といった谷口雅春氏の著作物をカセットテープやCDで聴くことができますが、基本聖経の著作権の帰属や録音物使用許諾契約について紛争となった事案です。
複写機による契約書の写しが存在したものの、諸事情から当該契約書の内容での契約の成立が否定されています。

   --------------------

■過去のブログ記事

「生命の實相」を巡る他の訴訟
「生命の實相」書籍著作権事件
「生命の實相」書籍著作権事件(控訴審)