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2013年10月18日

獄中絵画展示事件−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

獄中絵画展示事件

知財高裁平成25.9.30平成25(ネ)10040損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      西 理香
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2013.10.8
*キーワード:展示権、複製権、譲渡権、氏名表示権、同一性保持権、プライバシー権

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■事案

受刑者が獄中で描いた絵画の展示やパンフレット掲載、氏名表示に関して受刑者の許諾があったかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(一審原告):受刑者
被控訴人兼控訴人(一審被告):被拘禁者支援団体

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■結論

一審原告控訴一部変更、一審被告控訴棄却

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■争点

条文 著作権法25条、21条、26条の2、19条、20条、113条6項

1 本件展示会で展示したことが展示権を侵害するか
2 パンフレットに本件絵画の複製を掲載頒布したことが複製権及び譲渡権を侵害するか
3 パンフレットに氏名を表示したことが氏名表示権を侵害するか等
4 パンフレット等に氏名を受刑者として記載したことがプライバシーを侵害する不法行為に当たるか
5 絵画を紛失して返還しなかったこと等が債務不履行又は不法行為に当たるか
6 損害論

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■事案の概要

『本件は,刑務所に被収容中の第1審原告が,第1審原告制作に係る複数の絵画を第1審被告に預けていたところ,(1)第1審被告が第1審原告の許諾なく,そのうち1枚の絵画(本件絵画)を,第1審被告主催のギャラリーでの展示会(本件展示会)で展示するとともに,同展示会のパンフレット(本件パンフレット)に同絵画の複製を掲載して頒布したことが,第1審原告の同絵画に係る展示権,複製権及び譲渡権等を侵害する不法行為に当たる,(2)本件パンフレットに本件絵画とともに第1審原告の氏名を掲載したことが,第1審原告の同絵画に係る氏名表示権を侵害する不法行為に当たる,(3)本件パンフレット及び本件案内文書(本件パンフレット等)に第1審原告の氏名を受刑者として記載したことが,第1審原告のプライバシーを侵害する不法行為に当たる,(4)第1審被告が第1審原告から預かった絵画を紛失して返還しなかったことが,債務不履行又は不法行為に当たる,(5)本件訴訟における第1審被告の不当な応訴態度が不法行為に当たる,とそれぞれ主張して,第1審被告に対し,著作権侵害に係る損害として100万円,氏名表示権侵害に係る慰謝料として100万円,プライバシー侵害に係る慰謝料として150万円,絵画の紛失に係る損害として100万円及び不当な応訴態度に係る慰謝料として100万円の,合計550万円並びにこれに対する本件展示会の初日である平成22年9月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,(1)第1審被告が本件絵画を本件展示会で展示したことは第1審原告の本件絵画に係る展示権を侵害しないが,同展示会のパンフレットに同絵画の複製を掲載して頒布したことは第1審原告の本件絵画に係る複製権及び譲渡権を侵害する,(2)本件パンフレットに本件絵画とともに第1審原告の氏名を掲載したことは,第1審原告の本件絵画に係る氏名表示権を侵害しない,(3)本件パンフレット等に第1審原告の氏名を受刑者として記載したことが,第1審原告のプライバシーを侵害する不法行為に当たる,(4)第1審被告が第1審原告から預かった絵画を紛失して返還しなかったことが,債務不履行又は不法行為に当たる,(5)本件訴訟における第1審被告の応訴態度が不法行為に該当するとはいえない,とした上で,(1)につき損害金9000円,(3)につき損害金20万円,(4)につき損害金合計6万円及びこれらに対する平成22年9月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で第1審原告の請求を認容した。
 これに対し,第1審原告及び第1審被告の双方がその敗訴部分につきそれぞれ控訴した。なお,第1審原告は,当審において,遅延損害金請求の一部につき請求を拡張し,減縮したほか,著作権侵害,著作者人格権侵害及びプライバシー権侵害の点に関する主張を追加した。』(2頁以下)

<経緯>

H22.08 パンフレット頒布、ネット掲載
H22.09 展示会開催、絵画紛失
H23.12 本件訴訟提起

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■判決内容

<争点>

1 本件展示会で展示したことが展示権を侵害するか

第1審原告は、本件展示会の開催前に第1審原告の絵画がギャラリーで公に展示されることを知りながら展示自体には何ら異議を述べなかったとして、裁判所は第1審被告の行為に第1審原告の本件絵画に係る展示権侵害性はないと判断しています(11頁以下)。

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2 パンフレットに本件絵画の複製を掲載頒布したことが複製権及び譲渡権を侵害するか

第1審被告が本件絵画のカラーコピーを本件パンフレットに掲載してこれを頒布したことは、第1審原告の本件絵画に係る複製権及び譲渡権を侵害するものであると判断されています(11頁以下)。

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3 パンフレットに氏名を表示したことが氏名表示権を侵害するか等

第1審被告が本件絵画のカラーコピーを掲載した本件パンフレットに著作者として第1審原告の氏名を表示したことは、本件絵画の公衆への提供に際して著作者名を表示しないとすることを内容とする第1審原告の氏名表示権を侵害すると裁判所は判断しています。
なお、パンフレットに転写された本件絵画の下部に記載された「X 有期懲役受刑者 府中刑」が題号であるとの錯覚を与えるものであるとして、第1審原告は同一性保持権侵害性も争点としましたが、他の掲載絵画の状況を勘案して第1審原告の主張を裁判所は認めていません(15頁以下)。
さらに、本件絵画の転写された本件パンフレットの頒布について、著作権法113条6項の著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為として著作者人格権の侵害とみなされる旨の第1審原告の主張についても裁判所は認めていません。

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4 パンフレット等に氏名を受刑者として記載したことがプライバシーを侵害する不法行為に当たるか

第1審被告が本件パンフレット等に受刑者として第1審原告の氏名を記載、頒布し、また、ギャラリーのウェブサイトに受刑者として第1審原告の氏名が掲載されたことは第1審原告のプライバシーを侵害する不法行為にあたると判断されています(17頁以下)。

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5 絵画を紛失して返還しなかったこと等が債務不履行又は不法行為に当たるか

第1審被告が第1審原告の絵画を紛失したことは不法行為に該当するものの、第1審被告の第1審原告の絵画返却請求等への対応の態様が不法行為を構成するような違法なものであるとまでいうことはできないと判断されています(18頁以下)。

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6 損害論

(1)複製権及び譲渡権侵害 9000円
(2)氏名表示権侵害 5万円
(3)プライバシー侵害 20万円
(4)絵画紛失 6万円

合計31万9000円

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■コメント

絵画を公表する際に氏名表示や掲載媒体をどうするかの確認が著作者と展示会主催者側との間で詰められておらず、齟齬が生じた事例となります。
原審では、氏名表示権侵害が認定されていませんでしたが、控訴審では侵害を認め、慰謝料5万円が認定されています(21頁)。
written by ootsukahoumu at 08:04│TrackBack(0)知財判決速報2013 

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