最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

山野草DVD事件

東京地裁平成25.8.29平成24(ワ)32409等損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      志賀 勝
裁判官      藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.8.30
*キーワード:映像製作契約、著作権譲渡、写真家

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■事案

山野草や高山植物の動画DVDの製作契約について紛争となった事案

原告(反訴被告):フリーカメラマン
被告(反訴原告):デジタルコンテンツ制作販売会社

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■結論

請求一部認容(本訴、反訴)

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■争点

条文 著作権法21条、26条、112条2項、114条3項

1 本件風景映像動画の削除請求に係る訴えの適否(本訴)
2 原告が本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾したか(本訴)
3 原告の受けた損害(本訴)
4 本件映像動画1及び2が本件契約1条2項にいう本件成果物に当たるか(反訴)
5 被告のした解除が効力を生じたか(反訴)

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■事案の概要

『本件は,本訴において,原告が,被告に対し,被告がその販売するDVD商品等に原告に無断で原告の撮影した風景の映像動画を複製して頒布したとして,著作権法112条に基づき,DVD商品等からの映像の削除を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金225万円及びこれに対する平成24年3月21日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,反訴において,被告が,原告に対し,原告が契約の条項に違反したことを理由に,原告との間の製作委嘱契約を解除したとして,上記契約に基づき,原告の撮影した山野草の映像動画について,被告が著作権を有することの確認,これらを収録した映像素材(原版)の引渡し並びに原告に対する既払金合計153万6465円及びこれに対する同年6月12日(解除の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(3頁)

本件作品:「virtual trip 花 Flowers 四季の山野草と高山植物」(DVD/Blu−rayDISC)

<経緯>

H21.11 原被告間で動画製作契約締結
H24.03 被告が本件作品を販売
H24.05 被告が原告に素材利用に関する催告書通知
H24.06 被告が解除通知

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■判決内容

<争点>

1 本件風景映像動画の削除請求に係る訴えの適否(本訴)

原告は、著作権法112条2項に基づき侵害の停止又は予防に必要な措置として本件作品からの本件風景映像動画((「春」「夏」「秋」「冬」及び「高山植物」との字幕が付されたものを除く風景映像動画)の削除を請求しました。
この点について裁判所は、同項ではこの請求は独立してすることはできず、侵害の停止又は予防の請求に附帯してしなければならないところ、原告は複製、頒布の停止又は予防を請求していないとして、独立して行われた上記請求に係る訴えは不適法であると判断しています(12頁)。

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2 原告が本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾したか(本訴)

本件作品に収録された山野草の映像動画等は点数で448点(尺数で58分4秒)、そのなかに挿入されている風景の映像動画となる本件風景映像動画は、点数で52点(尺数で9分8秒)でした。
原告が本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾していたかどうかについて、次に検討されています(12頁以下)。
この点について裁判所は、製作委嘱契約書に風景の映像動画を含むような記載は格別していないこと、原告は、被告担当者に対してかねてから本件作品とは別の企画を提案していたこと、また、原告は、本件作品での「扉」としての使用について、各々の季節を意味するものと理解し、これに4点の風景の映像動画を使用することを承諾したものということができると判断。
他に原告が各々の季節の「扉」に使用するものを除いて風景の映像動画を収録することを承諾して本件契約を締結したことを認めるに足りる証拠はなく、原告がこれを超えて風景の映像動画を使用することを承諾するとは考え難いとして、原告が「扉」に使用するものを除いて風景の映像動画を収録することを承諾したと認めることもできないと認定。
被告は、本件作品に本件風景映像動画を収録することによって、原告の本件風景映像動画に対する著作権(複製権及び頒布権)を侵害するものと認められると判断されています。

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3 原告の受けた損害(本訴)

本件風景映像動画に対する著作権侵害に関する損害について、裁判所は、製作委嘱契約で著作権譲渡を含め150万円の対価を原告は被告から得ていたことを基準として、山野草の映像動画1点に対し3348円(円未満切捨て)の支払を受けたことになるため、点数としてみれば52点で計算することになるが(合計17万4096円)、映像動画には長短があるため尺数を基準に算定することが相当であるとした上で、9分8秒分に相当する23万5935円(円未満切捨て)の支払を受けることができたと判断。
原告は、本件風景映像動画の著作権の行使について23万5935円を受けることができたとして、これを自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるとしています(114条3項 15頁以下)。

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4 本件映像動画1及び2が本件契約1条2項にいう本件成果物に当たるか(反訴)

原告は、本件納品映像動画と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影した素材を、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」に提供して(本件映像動画1)、上記ライブラリーにおいてこれらを販売し、また、株式会社アマナイメージズが運営する動画素材販売ウェブサイトにおいても素材を販売していました(本件映像動画2)。
これに対して被告は反訴において、本件映像動画1及び2は本件納品映像動画と同様に本件契約に基づいて製作された原版に当たるものと認められる(仮に本件納品映像動画のみが原版に当たるものとしても、本件映像動画1及び2はその原版を製作する過程で生じた中間成果物に当たる)と主張しました(17頁以下)。

製作委嘱契約書 1条(目的)
「前項に基づき製作された原版(全ての収録素材を含む)及び原版を製作する過程で生じた中間成果物(以下,併せて,本件成果物という)に関する所有権並びに著作権法上の一切の権利(著作隣接権,並びに著作権法第27条,28条の権利を含む),産業財産権及びその他一切の権利は甲に帰属するものとする。」(2項)

この点について、裁判所は、製作契約に基づく録音録画物の製作として撮影をした以上、これと同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものは本件契約に基づき制作した録音録画物に当たるといわなければならないとして、本件成果物に当たると判断しています。

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5 被告のした解除が効力を生じたか(反訴)

本件映像動画1が本件契約に基づいて製作された原版であるか、又は少なくても原版を製作する過程で生じた中間成果物であることから、その著作権は本件契約1条2項により原告から被告に譲渡され、被告に帰属することとなります。
そして、原告は、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」において本件映像動画1を販売したことから、原告は本件契約1条2項に違反したことになるため、被告のした解除は有効であり、これにより本件契約は終了したと判断されています(18頁以下)。

10条(解約の効果)
「甲が,前条の解約により本契約を終了させたときは,乙はそれまでに甲より受領した金員を甲に返還しなければならない。」(1項)
「甲は,本契約を解約した場合においても,本契約によって取得した著作権,及び乙がそれまで取得した本件成果物の素材の所有権はすべて甲に独占的に帰属するものとする。」(2項)

本件契約10条には、原告帰責事由による解除の際の金員返還義務及び著作権の帰属不変更が規定されており、結論として、反訴については、被告が本件映像動画1及び2の著作権を有することの確認請求及びこれらを収録した映像素材(原版)の引渡請求並びに既払金返還請求には理由があると判断されています。

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■コメント

「日本の四季の風景とともに映し出すリラクセーション目的の映像コンテンツ」の制作発注を受けたフリーカメラマンが、同じ撮影機会を利用して類似内容の別素材を制作し、動画素材販売ウェブサイトで販売をしたという事案です。

DVD販促映像はこちらです(音が出ます)。
virtual trip 花 Flowers 〜四季の山野草と高山植物

クライアント側からすれば、制作機会を利用して別素材を受注者が制作しても、それはそれで許す場合もある(たとえば、編プロ発注で旅行ガイドブック制作の際の海外ロケハンでの素材収集、別企画への流用など)反面、クライアントの制作費で交通費その他諸経費などが出ている訳で、少なくとも流用によって他社で販売されることでDVDの販売に影響が生じる可能性がある場合は、契約の趣旨に反することになって認められるところではありません。
双方において、制作費の多少も含めて言い分があるのかもしれませんが、納品した成果物の範囲や何が禁止事項なのかは、それこそ契約で事前に取り決めておくべきこととなります。
そもそも本件契約は成果物の著作権譲渡を内容とする契約ですが、クリエーター側としては全部譲渡の意味(同一あるいは類似の素材を利用できなくなる=自然写真家としての活動の範囲を狭める可能性を持つ)の重さの認識を深める必要があるのではないかと感じる事案です。