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2013年08月09日

書籍「週刊 ホンダ CB750FOUR」事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

書籍「週刊 ホンダ CB750FOUR」事件

東京地裁平成25.7.19平成23(ワ)785著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2013.8.6
*キーワード:写真、出版、著作者、職務著作、譲渡、包括許諾、複製権、公衆送信権、著作者人格権、損害論

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■事案

バイクエンジン部分の写真についての二次利用に関する包括許諾等の有無が争点となった事案

原告:写真家
被告:出版社
被告補助参加人:制作会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、15条1項、21条、23条、61条、63条、18条、19条、20条、114条3項、112条1項、2項

1 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか
2 本件写真の創作が職務著作に当たるか
3 本件写真に係る著作権の譲渡の有無
4 包括的利用許諾の合意の有無
5 複製権及び公衆送信権の侵害の有無
6 公表権の侵害の有無
7 氏名表示権の侵害の有無
8 同一性保持権の侵害の有無
9 著作者人格権不行使の合意の有無
10 被告の過失の有無
11 損害額
12 差止の要否

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■事案の概要

『職業写真家である原告が,出版社である被告に対し,別紙写真目録1記載の写真(写真番号QP3K4517。以下「本件写真」という。)の著作権が原告に帰属するのに,被告は,原告の承諾なく,別紙被告書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に本件写真を掲載し,原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害したなどと主張して,(1)不法行為に基づく損害賠償請求として790万円(附帯請求として本件書籍の発行日である平成22年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,(2)著作権法112条1項に基づく差止請求として,(ア)本件写真の複製,公衆送信又は改変の禁止,(イ)本件写真を複製した本件書籍の出版,販売又は頒布の禁止,(3)同法2項に基づく廃棄請求として,(ア)被告の運営するウェブサイト内のウェブページからの本件写真の削除,(イ)本件書籍の廃棄を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H18.08 補助参加人の依頼で原告が撮影
H20.02 補助参加人が書籍「HONDA CB750Four FILE.」発行
H22.08 被告が「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズ創刊号(本件書籍)発行、ウェブページに掲載

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■判決内容

<争点>

1 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか

本件写真の著作者(創作者)について、補助参加人は、本件写真における被写体の選択・配置、構図・カメラアングルの選択、ライティング・背景の決定等は、全て補助参加人が行っており、原告は補助参加人の指示に従って物理的な撮影行為を行ったのみである旨主張しました(37頁以下)。
しかし、裁判所は、補助参加人は写真の創作的内容について具体的指示をしていないとして、原告が著作者(創作者)であると認定しています。

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2 本件写真の創作が職務著作に当たるか

補助参加人は、原告が補助参加人の業務に従事する者であって、補助参加人のために本件写真を撮影し、また、本件写真は補助参加人名義のもとに公表するものであるから、本件写真は職務著作に該当し、本件写真の著作者は補助参加人である旨主張しました(39頁以下)。
この点について、裁判所は、職務著作(15条1項)における「法人等の業務に従事する者」の意義について言及した上で、原告と補助参加人との間に雇用関係は認められない本件において、本件写真の撮影当時、原告が補助参加人の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価できるかについて検討しています。
そして、撮影機材は原告が自ら準備している点、写真撮影に当たっても自らの判断でその創作的内容を決定していた点や補助参加人は原告に対して報酬を書籍発行後に支払っている点、原告の補助参加人の依頼による撮影日数は108日にすぎないといった業務の態様や報酬の支払状況から、本件写真の撮影当時において補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価することは困難であり、また、原告が補助参加人の指揮監督下にあったことを認めるに足りる証拠もないとして、本件写真の創作の職務著作性を否定しています。

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3 本件写真に係る著作権の譲渡の有無

補助参加人は、原告に対して撮影された写真の著作権が全て補助参加人に帰属することを説明し、原告はこれを了承していた旨主張しました(40頁以下)。
しかし、裁判所は、補助参加人から著作権譲渡について説明があったとはいい難い、第三者への複製物交付の際に承諾を原告に求めていた、契約書を作成することが困難であった事情が見当たらない、といった諸事情から、原告と補助参加人との間で原告撮影の写真について著作権の譲渡の合意があったとは認められないとして、本件写真に係る著作権の譲渡があったとはいえないと判断しています。

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4 包括的利用許諾の合意の有無

補助参加人は、補助参加人と原告との間で原告撮影の写真について、他の書籍の内容に合わせて改変した上で掲載することを許諾する旨の包括的利用許諾の合意があった旨主張しました(42頁以下)。
しかし、裁判所は、補助参加人が自社発行の書籍での二次利用に際して書籍を原告に贈呈し、その際に原告が異議を述べたことがなかったという事情があったものの、こうした状況があったとしても補助参加人以外の第三者が二次利用する場合にまで原告が許諾していたと認めることは困難であるとして、包括的利用許諾の合意の成立を否定しています。

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5 複製権及び公衆送信権の侵害の有無

本件写真のうちの本件エンジン本体撮影部分についての本件掲載写真の利用行為の複製権(21条)侵害性と被告運営のウェブサイトへの掲載行為の公衆送信権(23条)侵害性が肯定されています(43頁以下)。

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6 公表権の侵害の有無

原告の同意を得ることなく未公表の著作物である本件掲載写真を本件書籍に掲載しており、公表権(18条)侵害性が肯定されています(44頁)。

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7 氏名表示権の侵害の有無

本件書籍に原告の氏名が表示されておらず氏名表示権(19条)侵害性が肯定されています(44頁以下)。

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8 同一性保持権の侵害の有無

本件掲載写真は、本件写真に原告の意に反する改変が加えられているとして同一性保持権(20条)侵害性が肯定されています(45頁)。

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9 著作者人格権不行使の合意の有無

補助参加人は、原告に対して著作権「買取り」を説明、合意しており、著作者人格権を行使しないとの趣旨も当然に含まれる旨主張しました(45頁以下)。
しかし、裁判所は、「買取り」と説明があったとしても著作者人格権(その不行使)の説明があったとはいえないとして、著作者人格権不行使の合意があったとはいえないと判断しています。

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10 被告の過失の有無

裁判所は、被告出版社には、本件写真を利用するに当たって本件写真に係る著作権の帰属等を調査・確認する義務があったと認められると判断。その上で被告は原告の許諾を得ることなく本件写真を利用したとして上記調査・確認義務を怠った過失があると認定しています(46頁以下)。

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11 損害額

(1)使用料相当額(114条3項)

本件写真の本件書籍に対する寄与率5%
本件写真の利用料率15%
販売価格690円(税込)
販売数5万7731部

(計算式)690円×5万7731部×5%(寄与率)×15%(利用料率)=29万8757円(1円未満切捨て)

(2)著作者人格権侵害関連

20万円

(3)弁護士費用相当額

10万円

合計 59万8757円

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12 差止の要否

本件写真の複製、公衆送信又は改変について差止めの必要があると認められています(50頁)。
また、本件写真を複製した本件書籍の出版、販売又は頒布についても同様に差止めの必要性が認められています(112条1項)。
さらに、本件書籍の廃棄と被告ウェブサイトのウェブページからの本件写真の廃棄についても、その必要があると認められています(112条2項)。

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■コメント

制作単価が下げられ、デジタル化で感材費も支払われず、撮影と同程度に重要なレタッチといった作業も負担させられる(別途、レタッチ代が支払われるのであれば良いのですが)厳しい取引環境にある写真家さんにとって、二次使用の範囲まで包括的な無償使用許諾が認められてしまう、とされるのは許されがたい事態です。
ボツとなったショットを含め、著作権譲渡であるならばその旨を事前に明確にしておくこと、また、ライセンスであれば二次使用に関する取決めをして、別途使用料を支払うのが出版社を始め、発注先の下請け制作会社や代理店の責務(下請法等法令遵守は言わずもがなとなります)です。
なお、出版社の過失等が問われた著作権事案で最高裁判所サイトで公表されたものでは、ぐうたら健康法事件(東京地裁平成7.5.31平成5(ワ)2444謝罪広告等請求事件)、江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー事件(東京地裁平成18.5.11平成17(ワ)26020損害賠償請求事件)、共同執筆論文著作権侵害事件(東京地裁平成19.1.18平成18(ワ)10367著作権侵害差止等請求事件)以外はすべて出版社側の過失あるいは責任が認められています。出版社の外部への制作丸投げの際の安易な責任逃れは、通用しない状況です。

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■追記(2013.12.14)

損害論(被告の利益額に基づく損害(著作権法114条2項))関連(47頁以下)での特許法との調整の要否

特許法102条2項について、知財高裁平成25年2月1日大合議判決(判時2179号36頁、判タ1388号77頁)参照。

・同項を適用するための要件としては、殊更厳格なものとする合理的な理由はない
・特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮すべき。
・特許権者において、当該特許発明を実施していることを要件とするものではない。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130225102808.pdf

written by ootsukahoumu at 07:51│TrackBack(0)知財判決速報2013 

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