最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

似顔絵画像無断利用事件

東京地裁平成25.7.16平成25(ワ)24571損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2013.7.24
*キーワード:公衆送信権、名誉声望保持権、名誉毀損

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■事案

漫画家が制作した似顔絵を許諾の範囲を超えた態様で利用したとして紛争となった事案

原告:漫画家
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法23条、113条

1 本件行為1についての違法性及び責任
2 本件行為2についての違法性及び責任
3 損害額

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■事案の概要

『漫画家である原告が,被告に対し,(1)被告が原告の描いた似顔絵を無断で画像投稿サイトに投稿したことは,原告の著作権を侵害し,かつ,その名誉又は声望を害する方法で著作物を利用する行為として原告の著作者人格権を侵害するものであり,また,(2)被告がその削除を求めた原告からあたかも殺害予告を受けたかのような記事をツイッターのサイトに投稿したことは,原告に対する名誉毀損に該当するものであると主張して,不法行為に基づき400万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である平成24年9月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件行為1についての違法性及び責任

原告漫画家は、読者サービスの一環として被告の要望に応じて昭和天皇及び今上天皇の似顔絵各1点を制作し提供しました。被告が、原告の許諾を得ずに画像投稿サイトTwitpicに似顔絵の画像をアップロードした点について、裁判所は公衆送信権(23条)侵害性を認めています(6頁以下)。
また、被告によるツイッターへの投稿内容(文章とともに画像投稿サイトへのリンク先を掲示)が、原告が一定の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴、賛同しているとの評価を一般人が受け得るものであり、原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものといえるとして、原告の著作者人格権を侵害するものとみなされる(113条)と裁判所は判断しています。
結論として、被告による画像投稿及びテキスト投稿(本件行為1)は、原告の公衆送信権及び著作者人格権を侵害するものであると認められています。

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2 本件行為2についての違法性及び責任

被告がツイッターに「Aさんにも○害予告されました」とする記事を掲載した行為(本件行為2)について、裁判所は、上記投稿に接した通常のネットユーザーは原告が被告に対して文字どおり殺害予告をし、又は常軌を逸した攻撃的言動ないし危害の告知をしたと受け取るものと考えられると判断。本件行為2は、被告が原告からそのような危害の告知を受けたとの事実を摘示する記事を投稿するものであり、原告の社会的評価を低下させるものであるとして、原告の名誉を毀損する行為であると裁判所は認めています(8頁以下)。

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3 損害額

損害論として、裁判所は、公衆送信権侵害部分について20万円、著作者人格権侵害部分について15万円、名誉毀損部分について15万円の合計50万円を認定しています(9頁以下)。

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■コメント

漫画家さんが読者サービスとして提供した似顔絵を政治的信条の表現のために流用されるという想定外の事態が起こり、また漫画家さんやそのご家族へ危害が及ぶ恐れもあったということで、単なる著作権侵害事案にとどまらない事件でした。