最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自動車用プラスチックデータ図表事件

東京地裁平成25.7.18平成24(ワ)25843著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      高橋 彩
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2013.7.19
*キーワード:図表、著作物性、アイデア

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■事案

自動車用プラスチックのデータ図表の著作物性が争点となった事案

原告:自動車用プラスチック研究開発業者
被告:執筆者、出版社ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号

1 本件書籍の各表の著作物性の有無

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■事案の概要

『原告が,被告らに対し,被告らが共謀して被告書籍を作成・販売し,インターネット上に掲載している行為が,別紙書籍目録記載1の書籍(以下「本件書籍」という。)に掲載された14個の表(別紙対照表の左側に記載されたもの(ただし,ピンク色及び緑色の着色はされていない。)。以下「本件書籍の各表」と総称する。)についての原告の著作権(複製権,譲渡権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していると主張して,(1)著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,84万円及びこれに対する不法行為の後である平成24年10月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,(2)著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告Bに対し100万円,被告リサーチに対し100万円,被告出版に対し50万円及びこれらに対する平成24年10月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,(3)著作権法112条1項に基づき,被告らに対し,被告書籍の複製,譲渡あるいは公衆送信の差止めを,(4)同条2項に基づき,被告らに対し,被告書籍の廃棄及びその電子データを記憶した媒体の廃棄を,(5)同法115条に基づき,被告らに対し,別紙告知文のとおりの告知文の掲載を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H22.03 原告が本件書籍刊行
H22.05 被告書籍刊行

本件書籍:
「プラスチック自動車部品 Plastic Automotive Parts ケーススタディから読み解く現状と近未来」

被告書籍:
「自動車用プラスチック部品のメーカー分析と需要予測 Analysis on The Mfrs. & Demand for Automotive Plastic Parts 世界の完成車・部品メーカー分析/HEV・EV時代のプラスチック需要予測」

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■判決内容

<争点>

1 本件書籍の各表の著作物性の有無

原告が執筆した書籍は、自動車用プラスチックの20世紀後半から21世紀初頭までの発展の経緯を統計データをもとに振り返り、また近未来を検討する内容でしたが、そこで掲載されいる図表14点の著作物性が争点となっています(11頁以下)。

原告は、図表の著作物性について、本件書籍の各表は自動車に用いられるプラスチック部品につき最適の選択と配列を行い、その採用プラスチックについて原告の実務経験に基づく情報を掲載していることから、他の資料にはない正確かつ詳細な最新情報が記述され、読者に今後の技術開発・市場開発の将来展望を与えるものとして原告の個性と独創性が発揮されていると主張しました。

この点について裁判所は、著作物性(2条1項1号)の意義に関して言及した上で、
「原告の上記主張は,本件書籍の各表を作成するに当たってのアイデアの独創性や,本件各表に記載されている情報そのものの価値を主張するものにすぎず,これらは著作権法による保護の対象となるものではない。」
と判断。原告の主張を認めていません。

また、「同表は,本件書籍の執筆段階において自動車に用いられていたプラスチックの種類,採用部位,成形法等を当該分類項目に従って整理したものであること,このような事項を整理した表は本件書籍の発行以前にも多数みられたことが認められ,この点は本件書籍の各表のうち他のものについても同様ということができる。そうすると,本件書籍の各表は,自動車に採用されているプラスチックに関する事実をごく一般的な表の形式に整理したものにすぎないから,その表現自体は平凡かつありふれたものというべきであって,これに著作物性を認めることはできないと判断するのが相当」であると判断しています。

結論として、各表の著作物性が否定され、被告らによる著作権侵害性が認められず請求は棄却されています。

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■コメント

アマゾンで原告書籍を検索して、内容の一部を見てみると、「普通・小型乗用車における原材料構成推移」(表1)が掲載されているのが分かります(3頁)。
そこでは、1973年から2001年までのプラスチック系の原材料、それ以外の高分子材料、その他の非金属材料、金属材料といったものの割合と推移が表でまとめられています。
この表は、本件訴訟で争点となった表(別紙対照表)ではないと思われますが、こうしたデータの図表については、事実やアイデアは保護しないという観点から、過去の裁判例からみても著作権法での保護の対象とはなりにくいものとなります。
図表に関する最近の裁判例としては、住宅ローン商品金利情報図表事件(控訴審)、「月刊ネット販売」編集著作物事件(対著者)(控訴審)がありますが、ここでも図表の著作物性は否定されています。
本件訴訟とこれらの先行事例を比較すると、争点として一般不法行為論(民法709条)が挙げられていない点が異なるところです。なお、本件の図が原告単独の制作物ではないことから、著作者性についても、別途争点となる余地があります。

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■過去のブログ記事

「月刊ネット販売」編集著作物事件(対著者)(控訴審)
知財高裁平成23.3.22平成22(ネ)10059損害賠償請求控訴事件


住宅ローン商品金利情報図表事件(控訴審)
知財高裁平成23.4.19平成23(ネ)10005損害賠償等請求控訴事件

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■参考判例

学位請求論文取消事件(控訴審)
知財高裁平成17.5.25平成17(ネ)10038著作権侵害差止等請求控訴事件