最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

コンビニ漫画本原稿料事件(控訴審)

知財高裁平成25.6.27平成25(ネ)10013損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 土肥章大
裁判官      田中芳樹
裁判官      齋藤 巌

*裁判所サイト公表 2012.7.2
*キーワード:漫画、原稿料、印税、使用料相当額、コンビニコミック

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■事案

コンビニ漫画本作画に関して原稿料以外に増刷の際に漫画家へ印税支払の必要があったかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審原告):漫画家
被控訴人(一審被告):出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、114条3項

1 被控訴人による著作権(複製権)の侵害の成否

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■事案の概要

『別紙目録1ないし13記載の漫画各話(各全体目次を含む。以下「本件漫画各話」という。)の作画(以下「本件各作画」と総称し,それぞれを「本件作画1」などという。)を制作した控訴人が,本件漫画各話を掲載した各コミック(本件各コミック)の初版及び増刷を発行した被控訴人に対し,被控訴人が本件各コミックを増刷して発行した行為は本件各作画について控訴人が保有する著作権(複製権)の侵害に当たる旨主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として508万6000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年11月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,被控訴人が本件各コミックを増刷して発行することについて,控訴人の利用許諾があったものと認められるから,被控訴人の行為が本件各作画について控訴人が保有する複製権の侵害に当たる旨の控訴人の主張は理由がないとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として,前記第1の2の金員の支払を求める限度で,本件控訴に及んだものである。 』(1頁以下)

原作:関暁夫「ハローバイバイ関暁夫の都市伝説」ほか

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人による著作権(複製権)の侵害の成否

控訴審は、まず、作画料の支払いに関する合意内容は、いわゆる印税払いではなく、作画原稿1枚当たりでの算定であるとしています。

『被控訴人は,本件コミック1については作画原稿1枚当たり1万円の原稿料を,本件コミック2ないし6については作画原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を支払うとの条件で,控訴人に対し,本件各作画の制作を順次依頼し,控訴人は,その都度これを了承して,控訴人と被控訴人との間で,本件各合意が成立したものである。本件各合意により,控訴人は本件各作画の制作を行うとともに,被控訴人が本件各コミックに本件各作画を掲載して出版及び販売することについての利用許諾を与えたものであるが,本件各合意で定められた控訴人の原稿料は,上記のとおり,作画原稿の1枚当たりの所定金額に枚数を乗じて算出されるものであって,本件各コミックの発行部数はその額を定めるための直接的な要素とされていない。実際,本件各合意に当たり,控訴人と被控訴人との間では,原稿料以外の条件や本件各コミックの発行予定部数,流通期間等について話題となることもなかったものである。以上のような原稿料の定め方は,書籍等の単価に印刷部数又は販売部数を乗じ,更に一定割合(印税)を乗じて著作権者に支払われるべき対価を算出する,いわゆる印税契約とは異なり,著作物が掲載された出版物の発行部数の多寡によってその金額が左右されるものではない。そして,本件各コミックの出版において,初版時の発行部数やその後に増刷を実行するか否かは,いずれも出版社である被控訴人において適宜決定すべき事項であるところ,被控訴人との間で,作画原稿の1枚当たりの所定金額に枚数を乗じて算出される金額をもって当該作画原稿の制作や出版及び販売についての利用許諾の対価とすることに合意した控訴人にとっては,増刷によって本件各コミックの発行部数が増加することは,初版における発行部数の多寡とその性質において異なる意味を有するものではない。』

また、コンビニコミックの流通期間の部分については、

『また,原判決が認定したとおり,被控訴人においては,本件各コミックと同種のコンビニコミックについては,雑誌扱いの不定期の刊行物として,主にコンビニエンスストアで発売後2週間程度販売された後,売れ残ったものは返品されるのが通常であり,初版の発売時にあらかじめ増刷することは予定されていないが,これは事実上の取扱いであり,初版が返品された後であっても,需要があれば,増刷して発行することもあり得るというのであるから,コンビニコミックの流通期間が性質上当然に初版から2週間程度に限定されているということもできない。 』

として、2週間に期間が限定されているとは限らないと判断。

『さらに,前記のとおり,本件各合意に当たり,控訴人と被控訴人との間では,原稿料以外の条件や本件各コミックの発行予定部数,流通期間等について話題となることはなかったのであるから,控訴人の制作した作画原稿の出版及び販売に係る利用許諾を初版の発行から2週間程度に限定するとの明示的な合意があったとは認められないし,また,被控訴人においては,本件各コミックのように,需要によっては,コンビニコミックを増刷することも行われているものである以上,たとい控訴人において増刷を想定せず,また,被控訴人においても増刷は例外的なものであるとの認識を持っていたとしても,それによって直ちに控訴人と被控訴人との間で本件各合意による利用許諾の効果を本件各コミックの初版の発行から2週間程度に限定するとの黙示的な合意があったということもできない。 』(9頁以下)

当事者間に黙示的な合意もないとして、本件各合意により生じた控訴人の利用許諾の効力は、本件各コミックの初版の発行から約2週間程度に限定されるものではなく、その増刷分についても及ぶものと認めるのが相当であるとしています。
結論として、原審同様、控訴人の請求を棄却しています。

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■コメント

コンビニ漫画本原稿料事件の控訴審判決となります。
漫画家が出版社に対して漫画作画原稿料のほかに増刷された際の印税を別途要求しましたが、原審同様、控訴審でも漫画家の主張は認められませんでした。
後掲雑誌の大家重夫先生のご見解にもあるように、コンビニコミックの取扱いについて、もう少し漫画家の属性や他の出版社、編プロの対応に関して実態を知りたいところでした。
いずれにしても、出版社には漫画家に対して契約に関して丁寧な説明が求められます。

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■過去のブログ記事

原審

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■参考文献

大家重夫「コンビニコミックの原稿料は、1回払いか、印税か−「『都市伝説』の作画者事件」−」『マーチャンダイジングライツレポート』631号(2013)58頁以下