最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「今日の治療薬 解説と便覧2007」編集著作物事件(控訴審)

知財高裁平成25.4.18平成24(ネ)10076出版差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 土肥章大
裁判官      睇眞規子
裁判官      齋藤 巌

*裁判所サイト公表 2013.05.01
*キーワード:編集著作物性、選択、配列、創作性、複製、翻案

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■事案

薬剤情報に関する書籍の編集著作物としての著作権を侵害したかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :出版社
被控訴人(一審被告):医療情報サービス会社

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法12条1項、21条、27条、114条2項

1 控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
2 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列について
3 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列について
4 損害論

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■事案の概要

『1 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が「治療薬ハンドブック2008 薬剤選択と処方のポイント」(被控訴人書籍)を印刷及び販売する行為は,「今日の治療薬 解説と便覧2007」(控訴人書籍)について控訴人が有する著作権(複製権及び譲渡権。いずれも著作権法28条に基づくものを含む。)の共有持分の侵害に当たる旨主張して,不法行為に基づく損害賠償及び弁護士費用を除く損害に対する遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原判決は,被控訴人書籍は,編集著作物としての控訴人書籍を複製又は翻案したものとはいえないとして,控訴人の請求を棄却した。そこで,控訴人が,これを不服として控訴した』事案(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について

(1)薬剤の選択について

控訴人(一審原告)は、控訴人書籍の薬剤便覧の一般薬に係る掲載部分と漢方薬に係る掲載部分について、被控訴人による被控訴人書籍の出版行為等に関して編集著作物(著作権法12条1項)の著作権侵害性を争点としました。
裁判所は、まず、控訴人書籍と被告訴人書籍の編集方針や内容について検討し、両者の一般薬便覧部分の具体的薬剤の選択での相違点に言及しています(34頁以下)。
複製(著作権法21条)、翻案(27条)そして編集著作物(12条1項)の意義に触れた上で、結論としては、控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択について、全体としてみて同一又は類似であるとはいえず、共通する部分についてもその選択に創作性が認められないものであるなど、薬剤の選択について控訴人書籍の表現上の本質的特徴を直接感得することができるとはいえないとして、複製にも翻案にも当たらないと判断しています。

(2)薬剤の配列について

控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列についても、裁判所は、
「控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は,選択された薬剤が,本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され,その分類項目ごとに控訴人及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されたものであるものの,被控訴人書籍をみる者がその一般薬便覧部分の個々の薬剤の具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり,その本質的特徴を直接感得させることはできない」
として、複製ないし翻案に当たらないと判断しています(54頁以下)。

以上、控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について、複製又は翻案を認めていません。

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2 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列について

(1)薬剤の選択

漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名などについては、同一性があるとし、特に「ヨクイニンエキス」を漢方製剤として選択したことには、控訴人らの創作活動の成果が表れ、その個性が表れているということができると裁判所は判断しています(59頁以下)。

(2)薬剤の配列

裁判所は、「歴史的,経験的な実証に基づきあえて50音順の原則を崩して配列をした控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の配列には,控訴人らの創作活動の成果が表れ,その個性が表れているから,一定の創作性があり,これと完全に同一の選択及び配列を行った被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は,控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ない」と判断しています(61頁以下)。

結論として、依拠性も肯定した上で、被控訴人書籍漢方薬便覧部分は、薬剤の選択及び配列について編集著作物である控訴人書籍に係る控訴人の複製権を侵害するものであると判断しています。

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3 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列について

控訴人書籍と被控訴人書籍の漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列について、裁判所は、いずれも表現上の創作性のない部分において共通するにすぎないなどとして、複製又は翻案該当性を否定しています(65頁以下)。

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4 損害論

被控訴人の過失を認めた上で、被控訴人書籍の印刷出版行為による複製権及び譲渡権侵害の損害賠償額として81万2430円(114条2項)と弁護士費用相当額20万円が損害額として認定されています(68頁以下)。

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■コメント

原審では全部棄却の判断でしたが、控訴審では、漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列の部分についてだけですが、著作権侵害性が肯定されました。
この点について、被控訴人プレスリリースでは、「医療用漢方製剤市場シェアの約99.5%を占め、医療関係者には漢方三社として広く認識されているツムラ、クラシエ、コタローの商品名を主に選択した等の点で創作性が認められるとの控訴審判決は、当社として受け入れがたく、また当社のみならず医薬品情報出版業界全体にも多大の悪影響を及ぼすもの」(後掲サイト参照)として、懸念を表明しており、著作権法で保護する反面としてのデメリットが生じないか注視されます。
30年に亘る出版の歴史がある良書に依拠して類似書籍を刊行する場合、利用許諾契約をするといった権利処理(6頁以下)の検討が求められるところです。

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■過去のブログ記事

2012年9月12日記事
原審

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■参考サイト

被控訴人プレスリリース
株式会社南江堂との訴訟に係る知的財産高等裁判所の判決について
(平成25年4月18日株式会社じほう)