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2013年01月21日

仏画復原模写画事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

仏画復原模写画事件

東京地裁平成24.12.26平成21(ワ)26053著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2013.01.11
*キーワード:模写、復原、著作物性、複製、翻案、氏名表示権、名誉回復措置、時効

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■事案

東大寺大仏蓮弁毛彫といった仏画を復原模写した作品の著作物性や複製権、翻案権侵害性が争点となった事案

原告:仏画家F相続人ら
被告:仏画家

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、60条、114条2項、115条、116条、民法724条

1 原告仏画1の著作物性
2 被告仏画1は原告仏画1を複製翻案したものか
3 被告仏画2は原告仏画2に依拠したか
4 被告仏画2は原告仏画2を複製翻案したものか
5 許諾の有無
6 差止め及び廃棄請求の可否
7 著作権侵害による損害賠償請求権は消滅時効又は除斥期間の経過により消滅しているか
8 損害論
9 著作権法116条1項に基づく名誉回復等の措置請求の可否

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■事案の概要

『仏画家であるF(雅号はF’。以下「F氏」という。)の相続人である原告らが,被告に対し,別紙被告仏画目録1記載の各仏画(以下,それぞれ「被告仏画1(1)」などといい,これらを併せて「被告仏画1」という。)及び同目録2記載の各仏画(以下,それぞれ「被告仏画2(1)」,「被告仏画2(5)1」などといい,これらを併せて「被告仏画2」という。なお,(3),(4),(8)及び(9)は欠番である。以下,被告仏画1と被告仏画2を併せて「被告各仏画」という。)は,F氏の制作に係る別紙原告仏画目録1記載の各仏画(以下,それぞれ「原告仏画1(1)」などといい,これらを併せて「原告仏画1」という。)及び同目録2記載の各仏画(以下,それぞれ「原告仏画2(1)」などといい,これらを併せて「原告仏画2」という。なお,(3),(4),(8)及び(9)は欠番である。以下,原告仏画1と原告仏画2を併せて「原告各仏画」という。)を複製又は翻案したものであるから,被告各仏画を販売し,頒布し,展示し,又は上記被告各仏画を使用した書籍,パンフレット,塗り絵用下絵,ホームページ画像を制作することは,原告らが相続により取得した原告各仏画の著作権(複製権,譲渡権,展示権又は著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を侵害すると主張し,著作権法112条に基づき,被告各仏画の販売,頒布,展示の差止め,これらの仏画を使用した書籍等の制作の差止め及び同書籍等の廃棄を求めるとともに,原告仏画1及び原告仏画2の著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為責任に基づく損害賠償として,原告らそれぞれに対し,各922万4500円(4名合計3689万8000円)及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成21年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求め,さらに,被告が,原告各仏画を無断で複製又は改変した上,これを被告の作品であると表示して展示等をした行為は,F氏の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害となるべき行為であると主張し,F氏の死後における人格的利益の保護のための措置(著作権法60条,116条1項,115条)として,謝罪広告の掲載を求める事案』(3頁以下)

<経緯>

S16〜
S44 F氏が原告仏画1、2を制作、書籍に収録発行
S50 被告が被告仏画1、2を制作
S57 被告仏画を収録した書籍が発行
S59 F氏死亡
H07 被告が仏画美術館開設
H21 被告仏画を美術館パンフレット、ホームページに使用

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■判決内容

<争点>

1 原告仏画1の著作物性

F氏が制作した原告仏画1は、国宝又は重要文化財として指定されている仏画又は曼荼羅を原図として、これを復原する意図で制作されたものでしたが、原告仏画1の著作物性について、これが原画の二次的著作物として新たな創作的表現が付与されているかどうかが検討されています(63頁以下)。

裁判所は、「復原過程において,原図の具体的表現に修正,変更,増減等を加えることにより,F氏の思想又は感情が創作的に表現され,これによって,原告仏画1に接する者が,原告仏画1から,各原図の表現上の本質的特徴を直接感得できると同時に,新たに別の創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には,原告仏画1は,各原図の二次的著作物として著作物性を有するものと解される。」
「原告仏画1の復原画としての性質上,原告仏画1において,各原図の現在の状態における具体的表現に修正等が加えられているとしても,上記修正等が,各原図の制作当時の状態として当然に推測できる範囲にとどまる場合には,上記修正に係る表現は,各原図の制作者が付与した創作的表現の範囲内のものとみるべきであり,上記修正等をもって,新たな創作性の付与があったとみることはできない。」(64頁)と説示。

結論としては、(1)「大仏蓮弁毛彫」ないし(9)「訶梨帝母像」については、各原画に新たな創作性が付与された点がないとして各原画の二次的著作物としての著作物性が認められませんでしたが、(10)「高雄曼荼羅胎蔵法曼荼羅」についてのみ、新規に描かれた外縁装飾などの諸点から著作物性が認められています。

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2 被告仏画1は原告仏画1を複製翻案したものか

次に、被告仏画1(10)「紺紙金泥画」が原告仏画1(10)を複製翻案したものかどうかが検討されています(83頁以下)。
結論としては、被告仏画1(10)は、原告仏画1(10)と相違しており、原告仏画1(10)において著作物性が認められる部分について、原告仏画1(10)とその表現において実質的に異なるものとなっているというべきであるとして、原告仏画1(10)を有形的に再製したものとは認められないと判断、複製を否定しています。また、原告仏画1(10)の本質的特徴を直接感得することもできないとして、翻案も否定しています。

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3 被告仏画2は原告仏画2に依拠したか

被告仏画2(5)1及び2、2(13)、2(16)ないし(19)については、原告仏画2(5)、2(13)、2(16)ないし(19)に依拠して作成されたものかどうかについて争点となりましたが、作品の類似点の検討などから依拠性が肯定されています(84頁以下)。

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4 被告仏画2は原告仏画2を複製翻案したものか

次に、被告仏画2が原告仏画2を複製又は翻案したものに当たるかどうかについて、裁判所は、複製及び翻案の意義に関して江差追分事件最高裁判決(最判平成13.6.28)を踏まえた上で、仏教絵画(仏画)の著作物性について言及しています。
描かれる菩薩や如来の種類に応じて印相、衣装、装飾品、持物、光背、台座等につき一定のルールが存在するものの、厳格なルールではなく表現に選択の幅があり具体的表現において創作性を認めることができると説示。
そして、「創作性の構成要素としては,(1)絵画の構造的要素(菩薩又は如来とその周辺の台座,光背,背景等の位置関係,菩薩又は如来の姿態,印相,足の組み方・配置,持物の種類・配置,装飾品の形状・配置,着衣・光背・台座の形状等),(2)色彩,(3)菩薩又は如来の顔の表情等が考えられるところであるが,これらの要素のうち,どの点を創作性の要素として重視するかについては,描かれる対象である菩薩又は如来の種類等,個々の絵画の具体的表現の内容によって異なるものと考えられる」(88頁)と示しています。
その上で、原告仏画2の具体的創作的表現の内容を検討。被告仏画2において、原告仏画2と表現上実質的に同一のものが再製されているか、又は、原告仏画2の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物かどうかを検討しています。
結論として、被告仏画2(1)1、2(5)1、2(7)、2(12)、2(13)1、2(14)は、それぞれ原告仏画2(1)、2(5)、(7)、2(12)ないし(14)を翻案したものに当たると判断しています(87頁以下)。

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5 許諾の有無

被告は、被告仏画2(1)1、2(7)及び2(12)については、F氏に師事する中でF氏から原告仏画2(1)、2(7)及び2(12)に基づき描くよう指示を受けて描いたものであるなどとして、著作者、著作権者であるF氏から包括的許諾を受けていたと反論しました(116頁以下)。
しかし、結論としては、F氏からの包括的許諾があったものとは認められていません。

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6 差止め及び廃棄請求の可否

被告侵害仏画の販売、頒布、展示について、差止めの必要が認められています。また、被告侵害仏画を使用した書籍等の制作の差止め及び廃棄の可否については、被告侵害仏画を使用した書籍、パンフレット、ホームページ画像の制作の差止め、そして、被告侵害仏画を使用した別紙被告書籍目録記載の書籍における被告侵害仏画の掲載箇所の抹消及び被告侵害仏画を掲載したパンフレットの廃棄を各求める部分について認められています(118頁以下)。

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7 著作権侵害による損害賠償請求権は消滅時効又は除斥期間の経過により消滅しているか

著作権侵害に関して被告の過失が認められた損害賠償請求権について、被告は消滅時効の援用と除斥期間の経過を主張しました(121頁以下)。
結論としては、起算点から3年経過による時効消滅(民法724条前段)は認められないものの、平成元年7月27日前における行為に関する著作権侵害の不法行為責任に基づく損害賠償請求権については、除斥期間の経過により行使することができないと判断されています(同条後段)。

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8 損害論

損害論について、結論として損害額が下記のように認定されています(122頁以下)。

(1)著作権法114条3項(使用料相当額)関連

・被告書籍への掲載 相続人ら各5万7000円

・被告美術館のパンフレット掲載 各1万7500円

・被告美術館での展示 各1万4983円

合計 相続人ら各8万9483円

(2)慰謝料 相続人A、B、Cについてのみ各3万円

(3)弁護士費用 A、B、Cについて2万円、Dについて1万円

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9 著作権法116条1項に基づく名誉回復等の措置請求の可否

被告が被告侵害仏画を制作し、F氏の氏名を表示することなく被告各書籍に被告侵害仏画を掲載した行為について、裁判所は、著作者人格権の侵害となるべき行為(60条)にあたり、F氏の子である原告A、B、Cについては、名誉回復措置(115条)を請求する地位にあることを認めたものの、謝罪文掲載の必要性は認めていません(135頁)。

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■コメント

模写図の著作物性については、一連の江戸庶民風俗図絵模写事件に詳しいところですが、今回の事案では曼荼羅といった仏画の模写復原画の翻案が問題となりました。仏教美術での装飾性と著作物性については、仏壇彫刻事件(神戸地裁昭和54.7.9判決)が応用美術論として触れるところですが、本判決は、復原画の性質や仏教絵画の様式性を踏まえた著作物性判断に言及した点が注目されます。

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■参考判例

「江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー」事件(控訴審)

知財高裁平成18.11.29平成18(ネ)10057損害賠償請求控訴事件
written by ootsukahoumu at 09:21│TrackBack(0)知財判決速報2012 

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