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2012年12月25日

eco検定eラーニング講座原稿事件−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

eco検定eラーニング講座原稿事件

知財高裁平成24.12.11平成24(ネ)10061損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 芝田俊文
裁判官      西 理香
裁判官      知野 明

*裁判所サイト公表 2012.12.20
*キーワード:著作物性、債務不履行、準委任、請負、調査義務、一般不法行為論

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■事案

eco検定eラーニング講座用の学習教材原稿の作成にあたってウィキペディアなどからの転載が制作委託契約違反にあたらないかどうかが争点となった事案

原告(控訴人) :コンサルティング会社ら
被告(被控訴人):土地利用調査研究計画会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、民法709条

1 著作権侵害の存否
2 調査報告義務違反
3 一般不法行為論

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■事案の概要

『原告らは,平成21年1月20日,被告及び株式会社同友館(以下「同友館」という。)との間において,東京商工会議所等が主催するeco検定(環境社会検定試験)対策のためのeラーニング講座「eco検定最短合格講座」(以下「本件商品」という。)の制作・販売事業に関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。原告らは,被告が作成した原稿(以下「本件原稿」という。)に第三者の著作権を侵害する記載があり,また,被告が著作権侵害に関する調査及び報告義務を果たさなかったとして,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害金の支払を求めた。これに対し,被告は,納品した原稿の一部に第三者が作成したインターネット上の記事(ウィキペディア等)などを転用した部分はあるものの,これらは著作権侵害に当たらない,また,被告は上記契約において,具体的な調査報告義務を負うものではなく,仮にこれを負うとしても,その義務を果たしていると主張して,争った。』事案(2頁)

<経緯>

H21.01 原被告間で制作販売事業契約締結
H21.05 原告が被告にウィキペディアの取扱いに関して通知
H24.06.26 東京地裁民事23部平成22(ワ)33497判決

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の存否

eco検定(環境社会検定試験)対策のためのeラーニング講座用に制作発注された教育教材原稿に第三者の著作権を侵害する記載があるかどうかについて、原審では、
「ア 本件商品のような教材では,既存の著作物やこれに依拠して創作された著作物と同一性を有する部分が,関連する法令や概念の意味内容,これから当然に導かれる一般的な解釈や知見,実務上の運用,歴史的事実等から当然に導かれる事柄であったり,客観的事実についての摘示・説明にすぎない場合やありふれた表現の場合には,個性を表出することができず,表現上の創作性のない部分というべきであり,創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,これらの説明や解説等が独自の観点からの説明や解説,あるいは整理要約がなされていたり,個性的な表現があるといった場合でないかぎり,既存の著作物の複製権あるいは翻案権侵害には当たらない,
イ 本件原稿の表現についてみると,インターネット上の記事の表現を引用している部分があるものの,いずれも1環境関連法令などの目的・由来や成立の経緯等,2法令の内容や定義,3化学物質等の定義,特性・特質,用途,影響,4統計や数値,客観的な事実,5書籍の著者や概要,6その他環境用語の定義を,図表などを用いることなく簡潔に記載したもので,これらの表現はありふれた表現であり,第三者の著作物の著作権を侵害していると認めることはできない」(2頁以下)
といった内容で著作権侵害性の成立を否定していました。
控訴審では、原告らは、たとえば、原判決別紙著作対比表13、31の「ダイオキシン」に関する記載について、執筆者の主観ないし考えによって結論が異なることが示唆されており、表現の幅が広がることにより創作性が肯定される旨の主張をしました。
この点について、裁判所は、
「用語の解説や,化学物質の特性,人体に対する影響等についての一般的な知見に関する部分であって(上記著作対比表),仮に執筆者の主観ないし考え,あるいはこれに基づく結論に幅があり得るとしても,それ自体は思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でない部分であり,表現自体が創作性のない既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合に著作権侵害が成立しないことに変わりはない」
として、原審同様、その他の部分も含め創作性を否定し著作権侵害性を認めていません(5頁以下)。

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2 調査報告義務違反

原告らは、原稿にウィキペディアなどの記事をそのまま引用することは、何らその信用性について担保されていないことを意味するから、被告が調査義務を懈怠することは本件商品に対する信用性も毀損することになるとして、民法645条あるいは請負契約上の当事者意思解釈に基づく調査義務に違反することを根拠として債務不履行を主張しました(6頁以下)。
しかし、裁判所は、
「本件契約には,被告は,本件商品の原稿データについて,「他の類似物の著作権に関わらないように・・作成しなければならない」(本件契約第6条2項)と規定されているのみであり,本件契約が民法上の準委任契約や請負契約に当たると認めることもできないから,上記契約条項や民法上の規定に基づき,被告が原告らに対し,執筆者がインターネット上の記事をそのまま原稿に記載したか否かについて包括的な調査義務を負っているものと解することはできない。また,本件全証拠によるも,本件原稿の記載自体に誤りがあると認めるに足りる証拠は存在しない。」
として、原告の主張を容れていません。

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3 一般不法行為論

原告らは、予備的主張として、インターネット上の記事をそのままコピー・ペーストしただけの教材を販売することが、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合、公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成することとなり、その結果、原告らの信用が毀損されるところ、その責任は本件原稿を作成した被告が負うべきである旨主張しました(7頁)。
しかし、裁判所は、原告らが本件契約を解除したとする時点において、本件商品を販売したことが他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価され、これが公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとなっていた、あるいは、これにより原告らの信用が毀損されたと認めるに足りる証拠は存在しないとして、一般不法行為論(民法709条)についてもその成立を認めていません。

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■コメント

教育教材用原稿の執筆を依頼した際に、その内容にウィキペディアといったネット上の記事からの転載が散見(本事案では31箇所)された場合の原稿の品質について争われた事案です。
客観的なデータや歴史的な事実に関する記述については著作物性がありませんが、発注者としては、正確な内容の執筆を業務委託契約の前提としており、コピー・ペーストは論外として、そもそもウィキペディア等の正確性、信用性を含めフリー事典を出典として利用することが妥当だったのかどうかが問われるところです。
ネット社会の発展で利用者が自由に執筆できるネット上のフリー事典を商用目的でも使う場面は益々増えてくるわけですが、資料収集も楽になる反面、その情報の信頼性が問われ、裏付け作業も必要になります。
今回の判決から学ぶとすれば、細かくなりますが、業務委託契約書にウィキペディア等の利用について、たとえば原典を確認するなどの作業取決め、コピー・ペーストの禁止を明記するといった配慮の必要が出てきます。

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■追記(2012/12/26)

12月25日に最高裁宛に上告受理申立

written by ootsukahoumu at 06:37│TrackBack(0)知財判決速報2012 

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