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2012年12月17日

学術論文共著者記載事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

学術論文共著者記載事件

大阪地裁平成24.12.6平成23(ワ)15588著作権侵害差止等請求事件等PDF

平成23年(ワ)第15588号著作権侵害差止等請求事件(第1事件)
平成24年(ワ)第57号共著名削除等請求事件(第2事件)

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松川充康
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2012.12.12
*キーワード:著作者、著作者人格権、複製権、翻案権、一般不法行為論

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■事案

コンピュータハードウェアに関する研究論文の著作者名義の記載などを巡って争われた事案

原告:被告大学元教授
被告:国立大学、同大学准教授、同大学教授

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■結論

訴え却下、請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、14条、21条、27条、19条、20条、民法709条

1 第2事件の1に係る訴えの適法性
2 論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権、著作者人格権の帰属
3 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無
4 著作者人格権侵害の有無
5 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『(第1事件)
 原告は,被告大学が,論文Cの受賞を発表した行為(前記15)について,原告の名誉,声望を侵害する行為であるとして,被告大学に対し,不法行為に基づき,損害賠償100万円及びこれに対する遅延損害金の支払と,著作権法115条に基づき,ウェブサイトに謝罪広告を掲載するよう求め,
(第2事件)
 原告は,被告2名が論文A〜論文Cの共著者に被告P3の氏名を記載した行為(前記14)が,原告の論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権及び公表権)を侵害する行為であるとして,被告2名に対し,著作権法112条に基づき,被告P3の氏名を共著者名から削除する手続等をするよう求め,不法行為に基づき,連帯して,損害賠償100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。
 また,原告は,被告2名の上記行為が,一般不法行為に該当するとして,上記と同様の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めている』事案(8頁以下)

<経緯>

S63 原告が被告大学教授に就任
H02 被告P3が助手に採用、H16教授就任
H12 被告P2が助手に採用、原告の指導を受ける
H18 被告P2が論文颪鯣表
H21 被告P2が論文鬚鯣表。原告が定年退職
H22 被告大学がP2らの受賞発表

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■判決内容

<争点>

1 第2事件の1に係る訴えの適法性

被告らは、出版物からP3の氏名を削除する変更手続等を求める第2事件の1に係る訴えは、法的実現性のないものであるから却下されるべきであると主張しました。
この点について裁判所は、論文からP3氏名の削除を求める第2事件の1予備的請求その2に係る訴えについては、被告2名において負担すべき給付の内容が不特定で、第三者である出版社の行為を介在させざるを得ないもので被告2名に対する判決のみでは実現することができない給付を求めるものであるとして、不適法と判断しています(17頁以下)。

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2 論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権、著作者人格権の帰属

原告は、「レジスタ指向設計」等についての研究成果を有しているが、論文餤擇嗜席厚鬚呂海譴蕕寮果を記載したものであるから、原告はこれらの著作物に関して著作権(複製権及び翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権及び公表権)を有していると主張しました。
この点について裁判所は、論文餤擇嗜席厚鬚龍γ者として原告の氏名が表示されていることから、著作権法14条により原告は論文餤擇嗜席厚鬚龍γ者と推定される。しかし、原告は上記各論文の執筆に直接関与していないことを自認していると認められ、また、東大大学院情報学環学際情報学府の学生(博士課程を含む)向け解説からすると、当該論文の執筆(創作行為)自体に実質的な関与がなくても指導教員や共同で研究した研究者を当該論文の共著者として表記することがあり得ること、さらに、実質的にみても原告が論文の執筆(創作行為)に関与していないことから、上記推定は覆滅されたというべきであると判断しています(18頁以下)。
結論として、原告の論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権、著作者人格権の帰属を否定しています。

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3 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無

裁判所は、論文餤擇嗜席厚鬚砲弔い童狭陲肪作権(共同著作権)が帰属することを認めることができず、被告2名の行為について原告の著作権(複製権又は翻案権)の侵害を認めることはできないと判断。また、仮に何らかの著作権(共同著作権)が発生し、原告に帰属したとしても、被告2名の行為によりこれらの権利が侵害されたことを根拠付ける具体的な主張立証はないとして、原告の主張を容れていません(22頁以下)。

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4 著作者人格権侵害の有無

裁判所は、論文餤擇嗜席厚鬚砲弔い童狭陲肪作者人格権が帰属しないことから、公表権、氏名表示権、同一性保持権いずれの点についても侵害性は認められないと判断しています(23頁以下)。

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5 一般不法行為の成否

論文鬚魃冖したり論文馘に実験データを追加した論文A〜Cの作成、公表自体が原告や原告研究室の研究成果を盗用するという原告の主張について、裁判所は、被告P3の氏名を論文A〜Cの共著者として表示したことが不法行為となるという主張であると考えて検討を加えています(24頁以下)。
被告P2は、論文A〜Cを作成、発表するに当たって、原告の承諾を得ることなく被告P3の氏名や原告の氏名を共著者として記載したことが認められるが、このことは、文部科学省科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会作成による「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて−研究活動の不正に関する特別委員会報告書−」や前記学生向け解説の記載に照らすと、不適切な行為であったといわざるを得ないと判断。
もっとも、共著者として自己の氏名が記載されるか否かの問題と他の共著者の氏名が記載されるか否かの問題については必ずしも同様に論じることはできず、論文A〜論文Cの第1著作者である被告P2が共著者として被告P3の氏名を記載することを同じく共著者としてその氏名を記載する予定である原告の同意を得なかったからといって、原告に金銭による慰謝料の支払をもって慰謝しなければならない程度の人格権の侵害があったということは困難であると判断。
結論として、不法行為の成立を否定しています。

以上から、原告の主張はいずれも容れられていません。

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■コメント

「被告P2の執筆した論文の内容が,原告の過去に研究していた分野の応用であったこともあり,被告P2は,原告への感謝の気持ちを込め,原告の退職後も,原告を論文の共著者として表示していた」(判決文13頁参照)という被告らの主張にあるように、所属する研究室の教授に礼を尽くすということでこうした著作者表示を論文にしていたことが問題の発端となります。
東大大学院情報学環学際情報学府学生(博士課程を含む)向け解説「アカデミックマナーの心得」(後掲サイト参照)にあるように、著者、共著者の表示については留意が必要です。
また、原告は研究成果自体の剽窃を問題としたかったようですが(22頁参照)、研究成果自体には著作権は成立しないですし、論文の利用については、引用(著作権法32条)が成立する限り何ら問題にはならないところです(21頁参照)。

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■参考サイト

アカデミックマナーの心得|東京大学大学院 情報学環・学際情報学府
アカデミックマナーの心得

文部科学省研究活動の不正行為に関する特別委員会編『研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて』(2006)
研究活動の不正行為に関する特別委員会 報告書PDF

written by ootsukahoumu at 07:07│TrackBack(0)知財判決速報2012 

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