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2012年11月05日

自衛隊百識図鑑事件−著作権 委託料請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自衛隊百識図鑑事件

東京地裁平成24.10.15平成22(ワ)28318委託料請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2012.10.29
*キーワード:出版編集委託業務、不完全履行、相殺

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■事案

ムック本の出版編集業務に著作権侵害疑義が生じて不完全履行が問題となった事案

原告(反訴被告):雑誌編集請負会社
被告(反訴原告):出版社

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■結論

本訴請求棄却、反訴一部認容

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■争点

条文 民法415条、505条

1 原告の委託手数料請求の可否
2 原告の債務不履行の有無
3 被告の損害の有無及び損害額

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■事案の概要

『本件は,(1)原告が,被告に対し,被告との間で「自衛隊百識図鑑」(以下「本件ムック本」という。)の編集委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結し,本件ムック本が発売されたにもかかわらず,被告が委託手数料を支払わない旨主張して,本件委託契約に基づく委託手数料として残金178万5000円(附帯請求として約定の支払日の翌日である平成21年1月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(本訴)のに対し,(2)被告が,原告に対し,著作権侵害の疑念がある本件ムック本の原稿データを編集・制作した旨主張して,本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償として570万6741円(附帯請求として反訴状送達の日の翌日である平成22年11月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(反訴)事案』(2頁)

<経緯>

H20.09 原被告間で編集委託契約締結
H20.10 原告が編集データ納品、被告がムック本発売
H21.02 財団法人防衛弘済会が被告に通知書送付
H21.07 弘済会が仮処分命令申し立て
H22.03 弘済会が損害賠償請求訴訟提起、和解

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■判決内容

<争点>

1 原告の委託手数料請求の可否

陸海空の自衛隊を解説するムック本の制作について、原被告間での編集委託契約では、委託手数料を250万円(消費税別)と定め、その支払について契約時に内金80万円を支払い、残額170万円は発売日の属する月の翌々々月25日に支払う旨が定められ、本件ムック本は、平成20年10月30日に発売されました。
裁判所は、被告は原告に対して、平成21年1月25日限り、残額178万5000円(消費税込み)の支払義務があったと判断。原告の本件委託契約に基づく委託手数料請求には理由があると認めています(7頁以下)。

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2 原告の債務不履行の有無

本件ムック本について、防衛弘済会発行書籍「自衛隊100科」に関して防衛弘済会と被告との間で著作権侵害の疑義が生じ紛争となりました。そこで、編集作業を受託した原告の債務不履行の有無が争点となっています(8頁以下)。
本件委託契約において原告と被告の担当者との間で初心者を読者として想定した陸海空の自衛隊が分かるような内容を基本線とし、マニアックな内容も入れたムック本を制作するという基本的な内容についての合意がされていました。
しかし、裁判所は、実際の編集・制作作業は専ら原告によって行われ、参照図書の選択及びその参照方法、本件ムック本の全体の構成、各章の編成方法等は原告によって決定され、校正作業も原告に委ねられたものと認定。
そして、本件ムック本の制作において当然行われるべき類似図書との対比による著作権侵害のおそれの回避作業については、原告が被告から委ねられていることを前提とした作業をしているものと認められ、本件委託契約において原告は、委託者である被告に対し合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍を編集・制作しない義務を負っていたものと認めるのが相当であると判断。
そして、本件ムック本と「自衛隊100科」は、いずれも自衛隊に関する情報を提供することを目的とする出版物であるから、「自衛隊100科」に記載された客観的な情報が本件ムック本において記述されていたとしても、それだけでは直ちに不自然であるとはいえないが、別紙対照表1を検討すると、本件ムック本の記載のうち「自衛隊100科」の著作権侵害と指摘された箇所は多数である上、表現が異なる部分もあるものの、語句を入れ替えた程度にすぎない部分も多く、著作権侵害と指摘された箇所の大部分が客観的な情報に関する記述であることを考慮したとしても、当該箇所は「自衛隊100科」に依拠したものと認めるのが相当であり、本件ムック本は合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であった、と判断しています。
そして、このような合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍については、紛争が生じるおそれがあるために、通常の形態での販売が困難であることは明らかであり、実際に本件ムック本については、防衛弘済会と被告との間で紛争が生じ、被告は本件ムック本の出荷を停止していました。
結論として、本件ムック本については、最終的に表現において類似性が認められないために著作権侵害とされない箇所があるとしても、合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であったから、本件ムック本の原稿データを編集・制作した原告は、本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしていない(不完全履行)というべきであると判断しています。

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3 被告の損害の有無及び損害額

被告の損害について、裁判所は、本件ムック本の1部当たりの利益の計算式は、「(搬入正味価格×印刷部数−〔費用合計−広告売上〕)/印刷部数」であり、搬入正味価格836円、費用合計487万1383円(印刷費用222万0593円、デザイン料1万2600円、その他経費1万3190円、本件委託契約に基づく委託手数料262万5000円)、広告売上8万円であり、これらを上記の計算式に当てはめると、本件ムック本の1部当たりの利益は526円(1円未満切捨て)となる。
そして、本件ムック本の販売見込みである印刷部数の60%は9300部であり、実売部数は5068部であるから、その差である4232部に526円を乗じると、222万6032円となると認定。
したがって、被告の損害額は222万6032円であると判断しています(14頁以下)。
さらに、被告は、原告に対し本件弁論準備手続期日において、本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権と原告の委託手数料請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしました。
本訴及び反訴が係属中に反訴請求債権を自働債権とし、本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解するのが相当であるとして(最高裁平成16年(受)第519号同18年4月14日第二小法廷判決 民集60巻4号1497頁参照)、原告の委託手数料請求権(178万5000円)は相殺により消滅したと認められると判断。
原告の本件委託契約に基づく委託手数料請求に対する相殺の抗弁は理由があるとしています。
結論として、被告の本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償請求は、相殺後の残額である44万1032円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成22年11月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるとしています。

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■コメント

編集作業を発注した出版社側としては、不完全履行を理由に編集委託業務契約の解除を主張しても良かったかと思われます。弘済会との和解内容やムック本分野での出版事情、訴訟提起に対する意識(本件では受託者側から提訴されています)も含め、出版社側にどのような思惑があったのか、さらに知りたい事案です。

written by ootsukahoumu at 09:20│TrackBack(0)知財判決速報2012 

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