最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

クレジットカード決済承認用ソフト事件(控訴審)

知財高裁平成24.9.26平成24(ネ)10039損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      井上泰人
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2012.10.23
*キーワード:利用許諾契約

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■事案

ソフトをインストールしたサーバを無断譲渡したとして著作権侵害が争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :通信機器開発製造販売会社
被控訴人(一審被告):電気通信事業会社、システム開発会社、クレジットカード決済情報配信会社

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■結論

追加請求棄却

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■争点

条文 著作権法63条

1 許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無
2 被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無
3 控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備
4 被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無
5 予備的請求

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■事案の概要

控訴人は、原審においてサーバコンピュータ用ソフトウェア(本件プログラム)の無断譲渡等を主張して、被控訴人らによる著作権侵害等を根拠とする損害賠償請求を主張した。
『原判決は,本件プログラムが著作物に該当するか否かを判断することなく,(1)第1次請求について,被控訴人NTTコムの被控訴人GPネットに対する本件サーバの譲渡が,公衆に提供する行為には該当せず,本件プログラムに係る譲渡権を侵害するものということはできない,(2)第2次請求,第3次請求及び第5次請求について,本件プログラムがDSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的で本件サーバにインストールされたことを認めることができないから,その前提を欠く,(3)第4次請求について,被控訴人GPネットが本件プログラムを独自の決済認証サービスに使用することができることは当然であり,そのことを控訴人に明示に説明したことがなかったからといって,これが控訴人に対する関係で詐欺に当たるということはできない,と判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。』
『控訴人は,当審において,原審における第1次請求ないし第5次請求について,以下の不法行為に基づく損害賠償請求及び著作権に基づく差止請求並びに不当利得返還請求に,訴えを交換的に変更した。
ア 主位的請求
 控訴人は,本件プログラムについて,著作権者であったKDEから著作権及び損害賠償請求権を譲り受けたところ,(1)被控訴人NTTコムが,被控訴人らの構築する前記クレジットカード決済システムの製品・機能評価のための試験運用という範囲を超えて,平成17年11月30日,控訴人に無断で本件プログラムがインストールされた本件サーバを被控訴人GPネットに譲渡したことが,著作権者が他人に著作物の利用を許諾できるとする著作権法63条1項及び許諾に係る著作物を利用する権利が著作権者の承諾を得ない限り譲渡できないとする同条3項に違反する不法行為に該当すると主張して,同被控訴人に対し,同法114条2項により算出される損害賠償として合計6億2288万円の支払を求め,(2)被控訴人GPネットが,本件プログラムを使用する以上,これに権利制限がかかっていないかどうかを著作権者(KDE)に問い合わせて確認すべき商取引上の義務を負っていたのにこれを怠ったため,許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において著作物を利用することができるとする同法63条2項に違反する不法行為を行い,被控訴人INSソリューションが,当該譲渡に関して被控訴人GPネットに加担したことにより民法719条2項所定の共同不法行為を行ったと主張して,被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対し,著作権法114条2項により算出される損害賠償として合計168億1575万円ないし171億2703万円の一部である8億7712万円の支払を請求するとともに,(3)被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムの許諾を受けずに使用していると主張して,同被控訴人らに対し,本件プログラムに係る著作権に基づき,その使用の差止めを求める(著作権法112条1項)。
イ 予備的請求
 控訴人は,仮に,本件プログラムに係る著作権について被控訴人NTTコム及び同GPネットが利用許諾を受けているとしても,控訴人及び被控訴人NTTコムが,平成22年7月14日,被控訴人NTTコムが本件サーバを破壊して以後は本件プログラムを使用しないことを合意したのに,被控訴人NTTコム及び同GPネットが現在も本件プログラムの許諾を受けずに使用していると主張して,被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムを使用して法律上の原因を欠く利益を得た(控訴人が当該利益に相当する額の損失を被った)と主張して,不当利得返還請求権に基づき,被控訴人NTTコムに対しては,被控訴人NTTコムが同GPネットから受領した報酬1億1840万円の支払を,被控訴人GPネットに対しては,本件プログラムを使用した利益合計31億9740万円ないし32億5660万円の一部である13億8160万円の支払を請求する』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無

裁判所は、控訴人が、被控訴人NTTコムとの間で本件プログラムの本件サーバへのインストールの時点において、被控訴人NTTコムに対して本件プログラムの利用を有償で許諾する一方、その利用許諾料を含む対価を被控訴人NTTコム、NTT−DCS、被控訴人INSソリューション、岩通SS、東京ソフト及び控訴人の順番で決済して受領することに合意しており、かつ、その段階で、被控訴人GPネットが本件プログラムを利用するものであって、本件プログラムが全ての決済端末に対応できる被控訴人GPネットの標準仕様となることを認識しており、したがって、被控訴人GPネットによる本件プログラムの利用を許諾していた一方、本件プログラムの使用について期限や条件等を観念してはいなかったと認定。
本件プログラムについて著作物性が認められるか否かにかかわらず、また、著作権法63条の解釈について論じるまでもなく、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、控訴人が主張する条件が付されていたとはいえないから、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も、何ら違法なものではないというべきであると判断。
結論として、控訴人の被控訴人NTTコムに対する損害賠償請求を認めていません(40頁以下)。

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2 被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無

裁判所は、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も何ら違法なものではないというべきであるから、被控訴人GPネットは、控訴人に対して何ら損害賠償義務を負わず、被控訴人INSソリューションも本件プログラムに関して何らかの違法行為に及んだと認めるに足りる証拠はないと認定。控訴人に対して何ら損害賠償義務を負うものではないと判断しています。
結論として、控訴人の被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対する損害賠償請求を認めていません(51頁)。

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3 控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備

裁判所は、控訴人が平成19年10月8日にIKLが開発した本件プログラムに関する権利をKDEを経て取得したと認定した上で、被控訴人らはいずれも本件プログラムに関して何らの違法行為も行っていないとして、KDEは控訴人による上記権利取得以前に被控訴人らに対して損害賠償請求権を有していたものとは認められないと判断。
また、仮にKDEが被控訴人らに対して本件プログラムに関して何らかの債権を取得しており、控訴人がその譲渡を受けていたとしても、KDEが被控訴人らに対して当該債権譲渡に関する通知等をしたと認めるに足りる証拠はないと併せて判断しています。
結論として、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求を認めていません(51頁以下)。

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4 被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無

裁判所は、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、現時点において本件プログラムを使用しておらず、これを使用するおそれも認め難いと判断しています(52頁以下)。

以上、主位的請求について、いずれも認められていません。

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5 予備的請求

予備的請求に関して、控訴人は被控訴人NTTコムが控訴人との間で平成22年7月14日に本件プログラムを使用しないことについて合意した(本件不使用合意)にもかかわらず、被控訴人NTTコム及び同GPネットが現時点でも本件プログラムを使用している旨を主張しました。
しかし、裁判所は、本件不使用合意を裏付けるに足りる的確な証拠はなく、また、被控訴人NTTコム及び同GPネットが平成22年7月15日以降において本件プログラムを使用していないとして、控訴人の予備的請求を認めていません(54頁)。

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■コメント

クレジットカード決済認証用SSL/GWサーバ・アプリケーションソフトウェアの利用関係について、控訴審でも利用許諾契約に違反する事実は認定されませんでした。

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■過去のブログ記事

2012年04月04日記事 原審