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2012年10月25日

資格試験予備校講師競業避止義務事件−著作権 著作権侵害停止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

資格試験予備校講師競業避止義務事件

東京地裁平成24.9.28平成23(ワ)14347著作権侵害停止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.10.12
*キーワード:著作権譲渡、著作物性、公序良俗、競業避止義務、一般不法行為論

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■事案

受験予備校と講師との間の講座資料に関する著作権譲渡契約条項の有効性や著作権侵害性、競業規制規定の有効性が争点となった事案

原告:資格試験受験予備校
被告:講師

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、民法709条、90条、独禁法2条9項5号

1 原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否
2 原告書籍マーカー部分の著作物性の有無
3 被告事業は本件競業避止義務条項に反し又は不法行為を構成するか

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■事案の概要

『本件は,原告が,
(1)別紙2被告書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)のうち,別紙3対比表の黄色マーカーで特定した部分(以下「被告書籍マーカー部分」という。)は,別紙1原告書籍目録記載1ないし3の書籍(以下,それぞれ「原告書籍1」などといい,これらを併せて「原告書籍」という。)中,別紙3対比表の黄色マーカーで特定した部分(以下「原告書籍マーカー部分」という。)の複製に当たるものであるから,被告が,被告書籍を販売,頒布する行為は,原告の複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2)を侵害し,かつ,被告が,その管理するインターネットサイト上で被告書籍マーカー部分を表示・配信する行為は,原告の複製権(同法21条),自動公衆送信権及び送信可能化権(同法23条)を侵害するものであると主張して,著作権法112条1項に基づき,被告書籍の販売・頒布及び上記サイト上における被告書籍マーカー部分の複製,自動公衆送信又は送信可能化の差止めを求めるとともに,(2)侵害の停止又は予防に必要な措置(同条2項)として,被告書籍から,被告書籍マーカー部分を削除するよう求め,
(2)被告が,原告との業務委託契約期間満了後1年以内に,インターネットサイト上における司法書士試験受験対策講義配信等を内容とする事業を開始したことは,上記業務委託契約所定の競業避止義務に違反するものであり,かつ,原被告間の従前の関係も考慮すれば,不法行為にも該当すると主張して,上記(1)の著作権侵害による不法行為責任に加え,競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為責任に基づき,合計1202万円(著作権侵害による損害2万円,競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為による損害〔合計6200万円を下らない。〕のうち1000万円,弁護士費用200万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,
(3)原告の被った損害は金銭で評価できるものではないとして,別紙4謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H7.01 被告が講師業務等に従事
H10   平成10年以降の業務委託契約に著作権譲渡条項
H22.06原告が各講師に対して情報漏洩禁止文書を送付
H22.08原告が被告に契約更改依頼文書送付
       被告は原告に更改辞退をメール通知
H23.03被告が受験対策サイトを開設、被告書籍を配信、販売

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■判決内容

<争点>

1 原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否

原告書籍は、被告が平成9年頃から順次作成した講義ノートの一部で、原告書籍は平成22年から23年にかけて原告において開講された講義で使用されたもので、講義は原被告間の業務委託契約に基づいて行われたものでした。
この契約書には、テキスト、レジュメ等の著作権の全部譲渡条項がありましたが、被告は、本条項の有効性や対象となる制作物の範囲を争点としました(39頁以下)。
この点について裁判所は、著作権譲渡条項は、その目的及び内容において不当又は不合理なものであるとは認められず、強行法規に反するものであるとも認められないこと、また、被告が本条項を不当に強制されたなどの事情も認めることができないとして本条項の有効性を肯定。さらに、本条項の対象についても本件講義ノートが含まれると判断。結論として原告書籍に関する著作権譲渡の成立を認めています。

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2 原告書籍マーカー部分の著作物性の有無

被告は、民法の基本的概念を説明する司法書士試験受験者向け書籍を作成し、業務委託契約関係終了後の平成23年3月16日、サイト配信や通信販売事業を開始しました。被告書籍が原告書籍のマーカー部分を抜粋していたことから、その著作物性、著作権侵害性が次に争点となりました(50頁以下)。
この点について裁判所は、創作性(2条1項1号)の意義について言及した上で、
『原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で民法の基本的概念を説明するものであるから,民法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈等を簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避であるというべきであり,その記載内容,表現ぶり,記述の順序等の点において,上記のとおり民法の該当条文の内容等を簡潔に整理した記述という範囲にとどまらない,作成者の独自の個性の表れとみることができるような特徴的な点がない限り,創作性がないものとして著作物性が否定されるものと解される』(54頁以下)
として法律資格試験受験対策本に関する解釈指針を提示。
その上で、別紙対比表の各項目を検討。対比表1の部分の著作物性については、
『内容において,該当条文(ここでは民法32条)の規定内容,趣旨,効果等として一般的に理解されるところを記載したものにすぎない。また,表現ぶりにおいても,簡潔かつ平易な表現であるということができるものの,上記イでみた原告書籍の性質上,このような表現ぶりは,ありふれたものであるというべきである』
としてその著作物性を否定しています。

また、原告は、太字、アンダーライン、付点等による強調、枠囲み、矢印の使用、余白の取り方、イラストの使用等に表現上の特徴があると主張しましたが、裁判所は、
『強調のために太字,アンダーライン等を使用し,区切りやまとまりを示すために枠囲みや矢印を使用するということ自体はありふれたものである。また,具体的に強調されている部分等をみても,原告書籍は,「ただし,現存利益で足りるのは善意者のみ」との記述中の「善意者」の部分を強調するなど,作成者において,司法書士試験対策として重要であると考えた記述部分を強調していると思われるものであるところ,どの部分を重要であると考え,強調するかという点は思想又はアイデアに属するものであると考えられる上,これを表現であるとみたとしても,原告書籍の性質上,その記述の一部を強調するということはありふれたものであるというべきである』
として、この点についても原告の主張を容れていません。
結論として、15の対比部分について、いずれもありふれたものであるとかアイデアの部類に属するものであるとして、その著作物性を認めませんでした。

以上から、原告書籍マーカー部分の著作物性が否定され、被告による著作権侵害は成立せず、原告の差止、削除、損害賠償請求はいずれも認められていません。

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3 被告事業は本件競業避止義務条項に反し又は不法行為を構成するか

原被告間の業務委託契約には競業避止義務条項が規定されていました。その内容としては、業務委託契約期間終了後1年間は原告と競合関係に立つ企業等への一切の関与及び競業事業の開業を禁ずるものでした。

この点について、裁判所は、被告は原告との間で業務委託関係にあった者にすぎず、業務委託関係終了後は本来、他企業への関与又は事業の実施を自由に行うことができるべきものであるが、本件競業避止義務条項は業務委託関係終了後における被告の職業選択の自由に重大な制約を新たに加えようとするものということができるから、このような条項が有効とされるためには原告が確保しようとする利益の性質及び内容に照らして、競業行為の制約の内容が必要最小限度にとどまっており、かつ、これにより被告が受ける不利益に対して十分な代償措置が執られていることを要するものと解するのが相当であると説示。
その上で、原告の主張するノウハウといった保護利益については、いずれも競業避止義務により保護されるべきものと認めるだけの主張立証がなく、また、制約が広範にすぎ、かつ、被告に対して重大な不利益を課すものであるということができる。それにもかかわらず、被告に対して契約関係終了前後を通じて何らの代償措置も執られていないと判断。
本件競業避止義務条項による制約は、必要最小限度のものとは認められず代償措置も執られていない以上、本件競業避止義務条項は合理的理由なく過大な負担を被告に一方的に課すものとして、公序良俗に反し無効であると認められるとしています(63頁以下)。

また、原告は一般不法行為の成立を主張しましたが、裁判所は、被告の事業が自由競争の範囲を逸脱し、原告に対する不法行為を構成するとみるべきような事情は認められないとして原告の主張を容れていません。

結論として、被告に本件競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為の成立は認められず、原告の損害賠償請求は認められませんでした。

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■コメント

法律制度の解説文書等については、その表現の著作権法上での保護の幅が狭い点については、法律書籍(通勤大学法律コース)事件や過払い金回収マニュアル本事件といった事案で示されています。
講師業をされるかたが、作成資料について著作権全部譲渡条項を含んだ契約を締結すればどのような結果となるかがよく分かる事案です。また、予備校としても講師から提供されたノウハウを保持するための競業規制規定等としてどのような規定を契約書で整備するべきか示唆を与える判決として参考になります。
私事ですが、某予備校の実務研修講師をスポットで担当した際に業務委託契約を締結しましたが、著作権条項については、担当者と数度のやりとりをした経験があります。手間は掛りますが、やはり納得いくまで契約交渉は重ねるべきところです。

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■参考判例

法律書籍事件(控訴審)
知財高裁平成18.3.15判決 平成17(ネ)10095PDF

過払い金回収マニュアル本事件(原審)
名古屋地裁平成23.9.15平成21(ワ)4998PDF

written by ootsukahoumu at 10:57│TrackBack(1)知財判決速報2012 

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