最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

韓国楽曲通信カラオケ事件

東京地裁平成24.5.31平成21(ワ)28388損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      上田真史
裁判官      大西勝滋

*裁判所サイト公表 2012.6.1
*キーワード:準拠法、信託譲渡契約、約款、音楽著作権管理団体、KOMCA

   --------------------

■事案

韓国楽曲の日本での通信カラオケ利用に関して、作家と韓国音楽著作権協会(KOMCA)との間の信託譲渡契約の内容が争点となった事案

原告:大韓民国(韓国)国籍を有する作詞家、作曲家9名
被告:業務用カラオケ事業者ら(日本企業)

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、23条

1 本件の準拠法
2 本件相互管理契約発効前における本件各楽曲の著作権の信託譲渡の有無

   --------------------

■事案の概要

『本件は,別紙目録1の「曲名」欄記載の各楽曲(以下「本件各楽曲」と総称する。)を作詞又は作曲した原告らが,被告らが,本件各楽曲のデータを作成し,これを被告らの製造に係る業務用通信カラオケ装置の端末機に搭載されたハードディスクに記録し,又は上記端末機を通信カラオケリース業者等に対して出荷した後に発表された本件各楽曲(新譜)のデータを被告らの管理するセンターサーバに記録し,上記端末機にダウンロードさせた行為が,本件各楽曲について原告らが有する複製権(著作権法21条)又は公衆送信権(同法23条1項)を侵害する旨主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

S47 原告らが作詞、作曲
S48 KOMCA(韓国音楽著作権協会)が著作権信託契約約款制定
S55 原告らがKOMCAと信託契約
H19 KOMCAとJASRAC(日本音楽著作権協会)が相互管理契約締結

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件の準拠法

まず、韓国人である原告9名の作詞、作曲した音楽著作物について、裁判所はベルヌ条約3条(1)(a)及び著作権法6条3号によりわが国の著作権法により保護されるとした上で準拠法を検討しています。
この点について原告らの著作権侵害に基づく損害賠償請求を不法行為と法性決定し、法の適用に関する通則法(新法)附則3条4項、旧法例11条により原因事実発生地である日本の法律が準拠法となると判断。
そして、信託譲渡に伴う著作権の帰属について適用されるべき準拠法に関して、信託譲渡の原因行為である法律行為の成立及び効力については、新法附則3条3項、旧法7条に基づき韓国の法律によると判断し、本件著作権の譲渡の第三者に対する効力に係る物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は、保護国の法令である我が国の著作権法によると判断しています(37頁以下)。

   ------------------------------------

2 本件相互管理契約発効前における本件各楽曲の著作権の信託譲渡の有無

KOMCAの著作権信託契約約款について、裁判所は本件には平成14年約款が適用されるとした上で、原告ら各信託契約によりKOMCAへ信託譲渡された著作権の対象範囲について検討しています(38頁以下)。
平成14年約款は、信託譲渡の対象となる信託財産の範囲について、地域的なものを含めて何らの制限をすることなく、委託者が現に保有するすべての音楽著作物及び将来保有することになるすべての同著作権をその対象とすることを定めたものであると裁判所は解釈。
結論として、原告らが、KOMCAとの間で著作権信託契約約款(昭和48年約款、昭和61年約款、昭和62年約款、平成11年約款又は平成14年約款)に基づいて本件各信託契約をそれぞれ締結したことにより、本件相互管理契約発効前の各契約締結時点で、原告らが保有するすべての音楽著作物の著作権及び将来保有することになるすべての同著作権が原告らからKOMCAへ信託譲渡されたものと認められ、その信託譲渡の対象には本件各楽曲の著作権も含まれるとして、本件各楽曲の著作権は、本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡されたものと認められるとしています。

以上から、原告らは本件相互管理契約発効前に本件各楽曲の著作権を保有していなかったとして、その余の点について判断するまでもなく原告らの被告らに対する本件各楽曲の複製権又は公衆送信権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がないと判断されています。

   --------------------

■コメント

KOMCAとジャスラックが相互管理契約を締結(2008年1月1日発効)する以前の韓国音楽著作物の利用に関する権利関係が争点となりました。
ジャスラックの約款でいえば、外国地域における管理委託範囲の特例として著作権信託契約約款附則4条2項1号にあるような留保規定がKOMCAの約款にも従前明記されていれば解釈上は問題がなかったわけですが、裁判所は約款規定の不備(46頁)を指摘して、明確な規定を欠くと判断しました。
なお、KOMCAの約款をサイト掲載のもの(英語版)で見てみると、2009年(平成21年)改訂のもので、現状でも外国地域における管理委託範囲の特例規定はないようです。
KOMCAの主務官庁である韓国文化体育観光部の見解書は、この場面では個別の権利者に著作権が留保されているとの行政解釈を示しており(48頁以下)、果たして控訴審ではどうなるか、その判断が注目されるところです。

   --------------------

■過去の韓国楽曲関連事案のブログ記事

「冬のソナタ」主題歌著作権管理事件(控訴審) 
知財高裁平成24.2.14平成22(ネ)10024損害賠償請求控訴事件
「冬のソナタ」主題歌著作権管理事件 
東京地裁平成22.2.10平成16(ワ)18443損害賠償請求事件

   --------------------

■参考サイト

「KOMCA(韓国音楽著作権協会)との相互管理契約を締結」
2007年12月10日ジャスラックプレスリリース

KOMCA約款
英語版