最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「Shall we ダンス?」振り付け事件

東京地裁平成24.2.28平成20(ワ)9300損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門 優
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2012.3.15
*キーワード:ダンス、振り付け、舞踏、著作物性

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■事案

映画「Shall we ダンス?」のダンスシーンで用いられたダンスの振り付けの著作物性が争点となった事案

原告:ダンス振付け師
被告:映画会社
被告補助参加人:映画制作会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項3号

1 本件映画のダンスの振り付けに著作物性が認められ、同振り付けが本件映画に複製されているといえるか

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■事案の概要

『映画「Shall we ダンス?」のダンスシーンで用いられたダンスの振り付けを創作したと主張する原告が,被告による上記映画のビデオグラムの販売・貸与,テレビでの放映等の二次利用によって,原告の有する上記ダンスの振り付けに係る著作権(複製権,上映権,公衆送信権及び頒布権)が侵害されたと主張して,被告に対し,主位的に民法709条に基づく損害賠償を請求し,予備的に民法703条に基づく不当利得の返還を請求する事案』(2頁)

<経緯>

H8.01 映画の劇場公開
H8.09 レンタル開始
H8.12 レーザーディスク販売開始
H9.01 ビデオ販売開始
H9.03 地上波放送
H20.04本件訴訟提起

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■判決内容

<争点>

1 本件映画のダンスの振り付けに著作物性が認められ、同振り付けが本件映画に複製されているといえるか

アマチュアの社交ダンスを題材とした劇場映画「Shall we ダンス?」(本件映画)において原告が考案し指導した振り付けについて、原告はその著作物性を前提として著作権を主張しました(25頁以下)。

社交ダンスの振り付けの著作物性(著作権法2条1項1号、10条1項3号)について、裁判所は、既存のステップの著作物性をごく短いものでありかつ、ごくありふれたものであるとして否定した上で、

『社交ダンスの振り付けとは,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには,それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。なぜなら,社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは,既存のステップの組合せに加えて,アレンジを加えたステップや,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。』(28頁)

と判示。そして、原告の振り付け(21点)を詳細に検討した上で、そのうちの本件映画に再製されていないもの(1点)のほかは、いずれも独創性がなく著作物性が認められないとしています。

また、原告はダンス同士の組合せに関して、いくつかの振り付けの組合せ等についての著作権を主張しましたが、裁判所は、振り付け自体などにおいて原告が主張するそれぞれの振り付けの印象が表現されているとは認められず、著作物性の認められない振り付けや著作物性が認められない振り付けの一部分の組合せや配列によって、独創性が認められるほどの顕著な特徴を有することになるということも困難であるとして、原告の主張を容れていません。

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■コメント

バレエ作品の振付師を著作者と認定した事案としては、後掲ベジャール「アダージェット」事件がありますが、より身近な舞踏である社交ダンスの振付けの著作物性を争点とした事案として先例的価値があるものと思われます。

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■参考判例

振り付けの創作性にかかわる過去の判例としては、以下のようなものがあります。

・バレエ作品振付け著作権事件(ベジャール「アダージェット」事件)
東京地裁平成10.11.20平成8(ワ)19539損害賠償等請求事件

・日本舞踊家元事件
福岡高裁平成14.12.26平成11(ネ)358著作権確認等請求控訴事件
判決文
福岡地裁小倉支部平成11.3.23平成7(ワ)240、1126

・手あそび歌出版差止事件
東京地裁平成21.8.28平成20(ワ)4692出版差止等請求事件
判決文

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■参考文献

田村善之「上演権侵害の主体―バレエ作品振付け著作権事件」『著作権判例百選3』(2001)130頁以下
著作権法令研究会編『著作権関係法令実務提要1』265頁以下
知的所有権問題研究会編「最新著作権関係判例と実務」(2007)533頁以下[團 潤子]

下記の論文では、著作権法第10条1項3号の立法趣旨や「固定」と「演劇性」の要件性、舞踏のアイデアと創作性、「パ」(バレエのステップ)の著作物性について述べられています。

藤本 寧「「舞踊の著作物」の立法経緯とバレエの創作性について」『大学院研究年報 法学研究科篇』(中央大学 2006.2)35号337頁以下