最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンション設計図書事件

東京地裁平成24.2.28平成23(ワ)29828損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      志賀 勝
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2012.3.13
*キーワード:工事請負契約、解除、設計図書、完成予想パース、複製、創作性

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■事案

マンション工事請負契約が解除されたにも関わらず無断で設計図書などが複製されたとして不法行為の成否が争点とされた事案

原告:建築請負工事会社
被告:運送事業会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法709条、民事訴訟法114条1項

1 不法行為の成否

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■事案の概要

『本件は,建築の設計,請負工事及び工事監理等を業とする原告が,被告から店舗付きマンションの設計,建築工事及び監理を請け負い,設計図書や完成予想パースを完成させた上で,これらを被告に引き渡して着工したところ,被告が設計・監理の報酬を支払わないため,原告が請負契約を解除したにもかかわらず,被告が設計図書や完成予想パースを複製するなどして使い続けるとともに,各種検査申請書に原告の氏名・印影を使い,原告の著作権,著作者人格権,所有権及び名誉権が侵害されたとして,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H21後半  原被告間でマンション工事請負契約締結
H21.12 1050万円支払い
H22.02 2205万円支払い
H22.04 工事着手
H22.04 9350万円支払い
H22.11 4185万5971円支払い
H23.02 原告が解除の意思表示
H23.09 請負代金請求事件(東京地裁平成23(ワ)5172)で原告敗訴

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■判決内容

<争点>

1 不法行為の成否

原告は、マンション建設工事請負契約において設計・監理相当の報酬額が支払われておらず、請負契約を解除したとして、解除の効果が生じた後の被告による本件建物の設計図書・完成予想パースを複製する行為などの著作権侵害性等の不法行為性を争点としました。
しかし、裁判所は、別訴となる請負代金請求事件訴訟で請負契約における3億2550万円の報酬に設計・監理料等の代金が含まれるとの判断が確定しており、後訴となる本件訴訟で設計・監理料の請負代金請求権を有している旨再度原告が主張することは確定判決の既判力(民事訴訟法114条1項)に抵触する上、前訴での請求及び主張を実質的に蒸し返すものであり許されないと判断。設計・監理料の未払いがあることを前提とする原告の主張を容れていません(6頁以下)。

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■コメント

マンション工事請負契約の際の報酬内容の判断で終わってしまっており、設計図書や完成予想パースの著作物性(著作権法2条1項1号)などが争点となるまでに至っておらず残念です。

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■参考文献

高部眞規子『実務詳説著作権訴訟』(2012)317頁以下
三山裕三『著作権法詳説第8版』(2010)81頁以下