最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「冬のソナタ」主題歌著作権管理事件(控訴審)

知財高裁平成24.2.14平成22(ネ)10024損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      東海林保
裁判官      矢口俊哉

*裁判所サイト公表 2012.3.8
*キーワード:信託譲渡、信託契約、使用料規程、カラオケ、注意義務

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■事案

韓国楽曲の著作権管理に関して、著作権等管理事業法に基づく文化庁届出使用料規程の合理性やカラオケ事業者の注意義務違反性が争点となった事案の控訴審

A事件控訴人・B事件被控訴人(一審原告):音楽著作権管理団体
A事件被控訴人・B事件控訴人(一審被告):通信カラオケ事業者

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■結論

A事件:控訴棄却
B事件:原判決変更


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■争点

条文 著作権法21条、23条、114条3項、著作権等管理事業法13条、旧信託法63条

1 一審原告による本件著作権の管理権限の有無
2 損害論

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■事案の概要

『1 本件は,平成14年4月15日に設立され同年6月28日に文化庁長官から著作権等管理事業者の登録を受けた一審原告が,日本において通信カラオケ業を営む一審被告に対し,原著作権者(以下「原権利者」という。)である韓国内の作詞家・作曲家・音楽出版社等が権利を有する音楽著作物に関し,韓国法人である「株式会社ザ・ミュージックアジア」(日本語訳)・「The Music Asia」(英語訳)(以下「TMA社」という。ただし,平成18年10月4日に解散決議がなされ,平成19年3月28日に清算結了登記済み)を通じ又は原権利者から直接に,著作権の信託譲渡を受けた等として,平成14年6月28日から平成16年7月31日までの著作権(複製権,公衆送信権)侵害に基づく損害賠償金又は不当利得金9億7578万6000円及びこれに対する平成16年9月9日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 これに対し一審被告は,一審原告が譲り受けた楽曲の範囲を争うほか,韓国法人で原権利者から信託譲渡を受けて更に一審原告に上記信託譲渡をしたTMA社は本件訴訟係属中の平成18年7月に一審原告に対する信託譲渡契約を解除し,平成18年10月4日に解散決議をして平成19年3月28日に清算結了登記もしているから,一審原告は本件訴訟を追行する権限を有しない等と,争った。
2 平成22年2月10日になされた原判決(一審判決)は,原権利者らが一審原告に対し信託の清算事務として訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合に限って一審原告の原告適格が認められる等として,その表明をしない原権利者に係る請求部分につき訴えを却下し,本件訴訟係属中の平成19年4月から6月にかけて書面(確認書B)によりその表明がなされた部分及び直接契約に係る部分に関しては,JASRAC規程の個別課金方式によって一審原告の損害額を算定して,一審被告に対し2300万5495円及び遅延損害金の支払を命じたものである(詳細は原判決のとおり)。
3 当事者双方は,上記一審判決にいずれも不服であったため,本件各控訴(A事件,B事件)を提起した。ただし,一審原告のなした控訴は,本訴請求の一部である2億2500万5495円と遅延損害金の支払を求める限度でなした一部控訴である。
 なお,一審原告は,当審係属中の平成22年7月6日に至り,前記確認書Bと同様の趣旨で別の原権利者からの確認書D(甲145の1の1等)を提出した。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 一審原告による本件著作権の管理権限の有無

一審原告の本訴請求は、(1)韓国内の原権利者から韓国法人であるTMA社を通じて信託譲渡を受けた著作権及び(2)原権利者から直接に信託譲渡を受けた著作権に基づき、日本法人である一審原告が同じく日本法人である一審被告に対して著作権侵害に基づく損害賠償金9億7578万6000円と平成16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求めるものでした。
控訴審裁判所は、原判決同様、上記(2)は概ね理由があるものの、原判決と異なり、上記(1)のTMA・原告契約によるものは、本件著作権の管理権限について本件訴訟の対象たる損害賠償請求権も含め、一審原告はこれを一切有しないとして理由がないものと判断しています(101頁以下)。

2 損害論

一審原告が著作権の管理権限を有すると認められる直接契約に関する楽曲は、作詩37楽曲、作曲123楽曲と判断した上で日本の法律(民法、著作権法)に基づき損害額を算定。
通信カラオケ事業に関しては、JASRAC規程が合理性も担保されているとして、個別課金方式よる損害額算定が行われています。
1楽曲当たり作詩、作曲それぞれにつき、基本使用料は月額各100円、利用単位使用料を各20円として作詩37曲、作曲123曲。アクセス回数を勘案した上で基本使用料相当損害金、利用単位使用料相当損害金の合計として642万6464円と認定しています(112頁以下)。

結論として、一審原告の本訴請求のうち、直接契約に係る部分については、直接契約の締結が認められた部分につき請求を認容し、TMA社を介した部分については、一審原告が対象楽曲の著作権の管理権限を失ったものと認められるため、この部分に関する請求を棄却しています。

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■コメント

TMA社を介した部分について一審原告が対象楽曲の著作権の管理権限を失ったものと認められたため、原審と比べると損害額が減少する結果となっています。

一審原告は、本件では、残存信託財産中に未収財産のある原信託の受益者が帰属権利者に該当するから訴訟係属中か否かを問わず、本件での各信託契約が終了した後の法定信託は「復帰信託」ではなく「原信託の延長」となり、その場合、受託者の職務権限は、通常の信託契約とほぼ同様である旨主張しましたが、控訴審裁判所は、一審原告は、契約が終了した平成19年3月31日以降、TMA・原告契約に基づく本件著作権と一審被告に対する損害賠償債権(請求権)の管理権限を全て失ったと認めるのが相当であり、信託契約が終了した後の法定信託の性質をどのように解するかによって、上記結論に直ちに影響が及ぶものとは解されないと判断しています。

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■過去のブログ記事

2010年03月17日
 原審記事