最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「中国の世界遺産」DVD事件(控訴審)

知財高裁平成24.2.28平成23(ネ)10047損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      八木貴美子
裁判官      知野 明

*裁判所サイト公表 2012.3.1
*キーワード:原版供給契約、映像利用許諾代理店契約、出版社、過失、翻案、消滅時効、不当利得

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■事案

映像原版供給契約の前提となる利用許諾関係が欠けるとしてDVD制作販売に関して出版社の過失が肯定された事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審原告):中国中央電視台グループ映像制作会社(中国法人)
被控訴人兼控訴人(1審被告):出版社(日本法人)

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法27条、114条3項、民法709条、724条、703条

1 本件各原版の著作権の帰属
2 本件各原版の利用許諾の有無
3 被告の過失の有無
4 消滅時効の成否
5 原告の損害額
6 不当利得返還請求権の存否及び利得額


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■事案の概要

『中華人民共和国の国営放送であるCCTV(中国中央電視台)のグループ会社で,同国法人である原告は,CCTVの放送用として制作された「中国世界自然文化遺産」と題する記録映画(本件各原版)の著作権を有していること,被告の製作・販売に係る「中国の世界遺産」と題する被告各DVDが上記記録映画を複製又は翻案したものであること等を主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求した。これに対し,被告は,原告が本件各原版に係る著作権を有することを争うとともに,被告は原告から本件各原版の利用許諾を受けていたこと,損害賠償請求権の一部は時効消滅したことなどを主張した。
 原審は,(1)本件各原版に係る著作権は原告に帰属すると判断し,(2)被告各DVDは,本件各原版に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており本件各原版の翻案に当たると判断し,(3)被告は,本件各原版の利用許諾を受けていたとは認められないと判断し,(4)原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の一部については,時効消滅したと判断して,(5)原告の損害賠償請求のうち10万5000円(弁護士費用相当額1万円を含む)の限度で認容し,その余の請求を棄却した。
 これに対し,原告及び被告は,原判決のうち各敗訴部分の取消しを求めて,それぞれ控訴を提起した。また,原告は,当審において,新たに不当利得返還請求権に基づく請求原因を追加的に主張した(なお,請求の趣旨に変更はない。)。』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件各原版の著作権の帰属
2 本件各原版の利用許諾の有無
3 被告の過失の有無
4 消滅時効の成否
5 原告の損害額


準拠法の点を含め1から5の各争点について、原審の判断が基本的に維持されており、被告出版社の過失が肯定されています(9頁以下)。

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6 不当利得返還請求権の存否及び利得額

平成16年から平成17年にかけての販売分の不法行為に基づく損害賠償請求については、被告の消滅時効の抗弁が認められましたが、控訴審では当該販売分について被告が使用料相当額の利益を受け、原告に同額の損失を及ぼしていたと判断。被告各DVDの小売価格3800円(税抜)の25%に実販売本数を乗じた額(合計1054万5000円)を利得額として認定しています(14頁以下。なお、訴状送達を受けた日である平成21年7月13日から悪意となったと判断しています)。

結論として、平成18年の販売分に関する不法行為に基づく損害賠償請求(損害金9万5000円。なお、弁護士費用1万円。原審と同様)と不当利得返還請求の合計1065万円が認められています。

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■コメント

被告出版社の不当利得が認められて損害賠償額が増額の結論となりました。

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■過去のブログ記事

2011年09月24日 原審記事

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■参考文献

寒河江孝允監修、永野周志、矢野敏樹編『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)294頁以下