最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ロクラク2事件(差戻し審)

知財高裁平成24.1.31平成23(ネ)10011著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      八木貴美子
裁判官      知野 明

*裁判所サイト公表 2012.2.1
*キーワード:間接侵害論、カラオケ法理、損害論、権利の濫用

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■事案
国内放送番組を海外でもネットで視聴可能にするハウジングサービス(「ロクラク2ビデオデッキレンタル」)がテレビ局の番組の著作権、著作隣接権を侵害するかどうかが争われた事案の差戻し審

被控訴人(附帯控訴人):放送事業者
控訴人(附帯被控訴人):インターネットサービス事業会社

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■結論

控訴棄却、附帯控訴変更

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■争点

条文 著作権法21条、30条1項、98条、114条の5

1 被告は本件放送番組等の複製の主体か
2 原告らの損害の有無及びその金額
3 原告の請求は権利の濫用といえるか

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■事案の概要

『(1)第1審
原告らは放送事業者であり,脱退原告らは放送事業者であった者である。脱退前原告らは,被告が「ロクラク2ビデオデッキレンタル」との名称で,インターネット通信機能を有する2台1組のハードディスクレコーダー「ロクラク2」のうち,1台を日本国内に設置し,テレビ放送に係る放送波をその1台に入力するとともに,これに対応する1台を利用者に貸与又は譲渡することにより,当該利用者をして日本国内で放送されるテレビ番組の複製又は視聴を可能にするサービス(別紙サービス目録記載のサービス。以下「本件対象サービス」という。)を行うことは,原告NHK及び脱退前原告東京局各社が著作権を有する別紙著作物目録記載の各テレビ番組(以下,番号順に「本件番組1」などといい,これらを総称して「本件番組」という。なお,後記のとおり,当審において本件番組には,本件番組4−2,5−2及び7−2が付け加えられた。)及び脱退前原告らが著作隣接権を有する別紙放送目録記載の放送(以下,番号順に「本件放送1」などといい,これらを総称して「本件放送」と,本件番組と本件放送を併せて「本件放送番組等」という。なお,後記のとおり,当審において本件放送には,本件放送1−2,2−2,3−2,4−2,5−2,6−2,7−2,8−2,9−2,10−2及び11−2が付け加えられた。)に係る音又は影像の複製に当たり,上記著作権(著作権法21条)及び著作隣接権(著作権法98条)を侵害するとして,本件番組を複製の対象とすること及び本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止め,本件対象サービスに供されているロクラク2の親機の廃棄を求めるとともに,損害賠償の支払を求めた。これに対し,被告は,本件サービス(親子機能を有する2台のロクラク2をセットにして,双方を有償で貸与するか,子機ロクラクを販売し,親機ロクラクを有償で貸与する事業。以下同じ)において,本件放送番組等の複製行為の主体は被告でないなどとして争った。
 第1審は,被告が本件放送番組等の複製行為を行っていることを認め,被告に対し,著作権(著作権法21条)及び著作隣接権(著作権法98条)に基づき,本件番組を複製の対象とすること及び本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止め,本件対象サービスに供されているロクラク2の親機の廃棄,並びに損害賠償請求の一部について認容し,その余の脱退前原告らの請求を棄却した。
 これに対し,被告が,第1審判決の取消しと脱退前原告らの請求の全部棄却を求めて控訴し,脱退前原告らが,第1審判決の脱退前原告ら敗訴部分の取消しと損害賠償請求の全部認容を求めて附帯控訴をした。
(2)差戻前の第2審
 差戻前の第2審(知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10055号,第10069号事件)において,脱退原告フジテレビが脱退し,原告フジテレビが訴訟承継した。
 差戻前の第2審は,本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な私的使用のための複製行為の実施を容易にするための環境,条件等を提供しているにすぎないものであって,被告が本件放送番組等の複製行為を行っているものとは認められないとして,第1審判決中,被告敗訴部分を取り消し,脱退前原告ら(ただし,脱退原告フジテレビが脱退し,原告フジテレビが訴訟承継人となっている。)の請求(附帯控訴部分を含む。)をいずれも棄却した。
 これに対し,上記脱退前原告らが,差戻前の第2審判決の取消しを求めて,上告(最高裁判所平成21年(オ)第680号)及び上告受理申立て(最高裁判所平成21年(受)第788号)をした。
(3)上告審及び差戻後の当審
 最高裁判所は,平成22年10月28日,上記上告を棄却するとともに,上記上告受理申立てについて,これを受理する(ただし,原告NHKの上告受理申立て理由第4及び原告日本テレビ,原告静岡第一テレビ,原告SBS,原告フジテレビ,原告テレビ静岡,原告テレビ朝日,原告あさひテレビ及び脱退原告TBSの上告受理申立て理由第4ないし第6については排除する。)との決定をした。そして,最高裁判所は,平成23年1月20日,「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下『サービス提供者』という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する
機器(以下『複製機器』という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である」として,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,上記脱退前原告らの請求を棄却した差戻前の第2審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして,差戻前の第2審判決を破棄し,親機ロクラクの管理状況等について更に審理を尽くさせるため,本件を知的財産高等裁判所に差し戻した。
 差戻後の当審において,脱退原告TBSが脱退し,原告TBSが訴訟承継した。また,原告TBS,原告フジテレビ及び原告テレビ東京は,それぞれ本件番組4−2,5−2及び7−2を複製の差止請求の対象に追加した。さらに,原告らは,平成23年7月24日に地上波アナログ放送が停波したことに伴い,本件放送1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11(以下,これらを総称して「本件アナログ放送」という。)に係る音又は影像の録音又は録画の差止請求を取り下げ,地上波デジタル放送である本件放送1−2,2−2,3−2,4−2,5−2,6−2,7−2,8−2,9−2,10−2及び11−2に係る音又は影像の録音又は録画の差止請求を追加した。そして,原告NHK及び原告東京局各社は損害賠償請求額を拡張し,原告静岡局各社は損害賠償請求額を減縮した』事案(4頁以下)

サービス目録(別紙)

控訴人(附帯被控訴人)の製造に係るハードディスクレコーダー「ロクラク2」の親機を日本国内の保管場所に設置し,同所で受信するテレビジョン放送の放送波を同親機に入力するとともに,同親機に対応する子機を利用者に貸与又は譲渡することにより,当該利用者をして,日本国内で放送される放送番組の複製及び視聴を可能ならしめるサービス

*判決文のローマ数字を変更しています。

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■判決内容

<争点>

1 被告は本件放送番組等の複製の主体か

本件放送番組等の複製の主体性について、裁判所は、被告(第一審被告。控訴人・附帯被控訴人)の複製への関与の内容、程度等の諸要素を総合するならば、(1)被告は本件サービスを継続するに当たり、自ら若しくは取扱業者等又はハウジング業者を補助者とし、又はこれらと共同して本件サービスに係る親機ロクラクを設置、管理しており、また、(2)被告はその管理支配下において、テレビアンテナで受信した放送番組等を複製機器である親機ロクラクに入力していて、本件サービスの利用者が、その録画の指示をすると上記親機ロクラクにおいて、本件放送番組等の複製が自動的に行われる状態を継続的に作出しているということができると判断。
結論として、本件対象サービスの提供者である被告が本件放送番組等の複製の主体であると解すべきであるとしています(25頁以下)。

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2 原告らの損害の有無及びその金額

被告による本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為により原告ら及び脱退原告らに複製権(著作権法21条)ないし著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害が生じていることが認められるものの、本件放送番組等の複製の回数等の事実関係が立証されておらず、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとして、裁判所は、著作権法114条2項もしくは3項に基づく請求を認めず、114条の5により口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて損害額を認定するのが相当であると判断しています(38頁以下)。
結論として、逸失利益と弁護士費用相当の損害額として各放送事業者につき88万円から460万円が認定されています。

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3 原告の請求は権利の濫用といえるか

被告は、原告らの本件請求は権利の濫用に当たると主張しましたが、認められていません(44頁以下)。

結論として、損害賠償請求のほか本件番組等の複製の差止請求、親機ロクラクの廃棄請求が認められています。

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■コメント

ロクラク2事件の差戻し審の判断となります。本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等について更なる審理を尽くさせる必要があるとして最高裁は原審へ差し戻していました。
山門判事の後掲講演録では、最高裁判決の射程については判決設定事例(原審が親機ロクラク等の管理状況を認定しておらず、法律審である最高裁は、自ら管理状況を認定することはできず事例を設定した上で主体性を判断した)におけるものに限定されるとしています。
また、高部判事の後掲書でも、最高裁判決の位置付けについて、サービス提供者が複製の主体とされる場合の判決設定事例の下における場合判決であり、具体的事案でのあてはめの問題として主体の判断要素の明確化が望まれるとされています(同書79頁)。

間接侵害論については、法制問題小委司法救済ワーキングチームが膨大な時間と労力を掛けて立法論の提言を行っており(後掲報告書参照)、今後の立法化への動きが注目されます。

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■過去のブログ記事

2011.1.28記事 上告審

2009.1.29記事 控訴審

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■参考判例

最高裁平成23年1月20日平成21(受)788著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件判決

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■参考文献

高部眞規子『実務詳説 著作権訴訟』(2012)77頁以下
山門 優「最近の著作権裁判例について」『コピライト』(2012)610号8頁以下
文化審議会著作権分科会法制問題小委員会司法救済ワーキングチーム「「間接侵害」等に関する考え方の整理」
平成24年1月12日資料PDF

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■参考サイト

まねきTV事件とロクラク事件の両最高裁判決(2011年01月20日19:42インフォテック法律事務所 ブログ 永田玲子)