2011年もあと僅かになりました。今年も読み残しの書籍がたくさんあって、どうしたものかという感じです。
11月には、福井健策先生の御著書「ビジネスパーソンのための契約の教科書 」(文春新書)が刊行されて、新書版で容易に手にすることができる契約実務書としてお勧めの一冊でした。

お正月休みにでもご一読をお勧めしたい書籍として、12月の新刊本のなかから3冊をご案内させていただけたらと思います。

■2011年12月9日刊行
堀田貢得、大亀哲郎「編集者の危機管理術 名誉・プライバシー・著作権・表現」(青弓社)

出版にかかわる法務の諸問題を網羅した一冊で、出版関係者のかたには必携の書籍ではないでしょうか。
著作権だけでなく、表現の問題(宗教や差別)や商標、名誉、プライバシー、景表法、薬事法、不競法などなど、小学館の法務においでになった著者ならではの実例がふんだんに盛り込まれています。

青弓社

【目 次】

まえがき
第1章 「名誉毀損」「プライバシー侵害」訴訟は編集者の宿命
 1 「名誉毀損」「プライバシー侵害」訴訟に強くなろう
 2 メディア規制・高額賠償支払い判決続発までの舞台裏
 3 書籍にも「名誉毀損」「プライバシー侵害」の裁判例はこんなにある
 4 「名誉毀損」「プライバシー侵害」が出版差し止めになる場合
 5 「名誉毀損」「プライバシー侵害」をいかに防ぐか
 6 肖像権の侵害とは何か
第2章 盗用か、引用か――著作権侵害の境界は微妙
 1 著作権、何も知らないと大ケガをする!
 2 著作権法の基本の基本「著作物の利用とアイデアの利用 どこが違う?」
 3 昔片隅、いま主流、ますます増える著作権トラブル
 4 「引用」は、許可を求める必要もなければ、当然、支払いも無用
 5 著作権トラブルを防ぐ「これだけは要注意!」
 6 訴訟で負けると、こんな責めを負う。著作権侵害には刑事罰もある!
 7 著作権侵害の責めを負わない手段はあるか?
 8 出版社、編集部には「著作権」はほとんどない!?
 9 肖像権には経済的な利用の側面もある。パブリシティー権も必須知識だ!
第3章 「商標権侵害」「不正競争防止法」トラブルって何だ?
 1 出版社での商標権侵害のトラブル事例を総覧してみよう!
 2 過去の商標問題事例から、編集者の留意点を探る
 3 編集長になったら気をつけろ! 「商標に関する基礎知識」
 4 ライバル商品に要注意! 不正競争防止法のトラブル事例
 5 たまには訴える側にまわってみよう。攻撃法を知り防御策を磨け!
 6 デジタル化に必要な、商標登録の対応
 7 「特許庁」「弁理士」について知っておこう
 8 商標の管理にはお金がかかるのだ(商標管理費用)
第4章 「景品表示法」「製造物責任法」「薬事法」の落とし穴
 1 雑誌編集者には必須、「景品表示法」のルールを完全マスターせよ!
 2 広告、懸賞、懸賞告知、プレゼント、全員サービスなど、これは絶対「NO!」10例
 3 「情報」に製造物責任はない、でも、知っておきたい「PL法」
 4 本当は怖い「薬事法」の中身、「甘い話」は要注意!
 5 あなたが一般誌の編集者ならば、ここに気をつけよう
第5章 コミックはトラブルの百貨店と覚悟せよ
 1 「ステレオタイプな絵」「職業蔑視」など最も多い差別表現トラブル
 2 歴史的事実を描くコミックでは「歴史認識」の有無がトラブルの元になる
 3 性表現、暴力表現など「倫理観」は一般企業の専売特許ではない
 4 モデルは人・もの・団体・会社などが「実在しないか」確認せよ
 5 コミックにも「名誉毀損」訴訟は起きるのだ
 6 イスラム、ユダヤなど「宗教のタブー」にふれていないか
 7 コミックは「背景描写」でトラブルになりやすい
 8 特定の企業、ブランド品などを描くときは商標権について細心の注意を払え
第6章 文庫とコミックは「差別・不適切表現」の宝庫だと思え!
 1 差別・不適切表現が発覚すると人権団体に「抗議・糾弾」をされる場合がある
 2 「絶版本」の復刻、親本の「文庫化」の際は特に注意が必要
 3 編集者泣かせでは終わらない「屠場差別」表現は文庫の独壇場
 4 日本の差別の源流は「部落差別」だ
 5 障害者差別はコミックが最大の発生源
第7章 最強の編集者は「指摘・抗議・クレーム」への対応がうまい
 1 これからは「危機管理」に弱い編集者は生き残れない!
 2 抗議への対応の基本は「誠実さ」。編集者の横柄さ・慇懃無礼は事態を悪化させるだけ
 3 メールによるクレーム・抗議への鉄則は「メールで回答するな」
 4 文書による抗議には、まず差出人に「回答する」ことを連絡する
 5 代理人(弁護士)選任・依頼の可否判断は慎重に
 6 差別表現などによって、人権団体との協議が糾弾会に発展した場合
 7 エセ同和行為(物品販売、対価要求)は断固拒否すること
 8 政治結社などからの抗議には、その団体の「背景」を警察を通して確認をすることが先決
 9 「謝罪広告」掲載要求を伴う抗議には、弁護士の判断に従え
参考文献一覧
あとがき

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■2011年12月1日刊行
 高林 龍編著「著作権ビジネスの理論と実践2」(成文堂)

早稲田大学ロースクールの著作権法特殊講義を内容とする3冊目の書籍となります。
JASRAC寄附講座として広く公開され聴講も可能な講演形式が採られていたりと、高林先生ほか門下の皆様の意欲的な取り組みが大変印象的です。

成文堂 出版部

【目 次】

はしがき
第1回 ガイダンス─著作権法概観─
講師:高林 龍
第2回 著作権行政の現状と課題
講師:渋谷達紀/ゲスト:永山裕二
第3回 著作権行政の現状と課題
講師:渋谷達紀/ゲスト:永山裕二
第4回 レコード製作者の権利とその適用範囲
講師:今村哲也/ゲスト:安藤和宏
第5回 Googleブック(サーチ)を巡る著作権法上の諸課題
講師:平嶋竜太/ゲスト:鳥澤孝之
第6回 憲法による著作権の保護と制約・パロデイーをめぐる諸問題
(2010年5月22日開催の日本著作権法学会への参加)
第7回 文藝著作物に関する著作権法上の諸問題
講師:富岡英次
第8回 ディジタルコンテントビジネスと著作権
講師:竹中俊子/ゲスト:伊藤ゆみ子
第9回 著作権ライセンス契約のポイント
講師:竹中俊子/ゲスト寺澤幸裕
第10回 著作権の侵害主体
講師:今村哲也/ゲスト:奥邨弘司
第11回 いわゆる写り込み問題について
講師:前田哲男/ゲスト:中川達也
第12回 最近の著作権侵害訴訟の動向と注目点
講師:高林 龍/ゲスト:岡本 岳
第13回 設計図面などの機能的著作物における創作性について
講師:前田哲男
第14回 文藝著作物の引用について
講師:富岡英次

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■2011年12月10日刊行
 高林 龍、三村量一、竹中俊子編「年報知的財産法2011」(日本評論社)

商事法務から毎年刊行されていた知財年報が、今年は日本評論社より出されています。
著作権法の2011年の学説の動向について、安藤和宏先生と今村哲也先生がご担当されておいでで、一年の学説動向がよく分かります(58頁以下)。
本号の特集としては、「電子書籍をめぐる著作権法上の課題」(206頁以下)が取り上げられています。

日本評論社

【目 次】

[巻頭座談会]
 知的財産法の今日的論点をめぐって
 出席者/高林 龍・三村量一・竹中俊子
 司会/駒田泰土 コメント/中山一郎・安藤和宏 
[2011年 判例の動向]
 判例の動き/三村量一
[2011年 学説の動向]
 1著作権法/安藤和宏・今村哲也
 2特許法/加藤 幹
 3不正競争・商標・意匠/志賀典之・五味飛鳥
[2011年 政策・産業界の動向]
 政策・産業界の動き/中山一郎
[2011年 諸外国の動向]
 1米国における知財の動き/竹中俊子
 2欧州における知財の動き/アインゼル・フェリックス=ラインハルト.河辺幸代
 3WIPOをめぐる国際動向/高木善幸
 4中国における知財の動き/兪 風雷
 5韓国における知財の動き/張 睿暎
[特集]電子出版をめぐる著作権法上の課題
 1総論/上野達弘
 2電子出版時代の出版社の保護/横山久芳
 3電子書籍と著作権−読書環境の変化を中心に/島並 良
 4電子出版契約と権利処理/福井健策