最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

Winnyファイル共有ソフト刑事事件(上告審)

最高裁平成23.12.8平成21(あ)1900著作権法違反幇助被告事件PDF

裁判長裁判官 岡部喜代子
裁判官      那須弘平
裁判官      田原睦夫
裁判官      大谷剛彦
裁判官      寺田逸郎

*裁判所サイト公表 2011.12.21
*キーワード:Winny、P2P、幇助意思、公衆送信権

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■事案

「被告人がファイル共有ソフトであるWinnyをインターネットを通じて不特定多数の者に公開,提供し,正犯者がこれを利用して著作物の公衆送信権を侵害した事案につき,著作権法違反幇助罪に問われた被告人に幇助犯の故意が欠けるとされた事例」(裁判要旨)

被告人:研究者

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■結論

上告棄却

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■争点

条文 著作権法23条、119条、刑法62条1項

1 幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要か
2 幇助犯の故意の成否

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■事案の概要

『被告人が,ファイル共有ソフトであるWinnyを開発し,その改良を繰り返しながら順次ウェブサイト上で公開し,インターネットを通じて不特定多数の者に提供していたところ,正犯者2名が,これを利用して著作物であるゲームソフト等の情報をインターネット利用者に対し自動公衆送信し得る状態にして,著作権者の有する著作物の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害する著作権法違反の犯行を行ったことから,正犯者らの各犯行に先立つ被告人によるWinnyの最新版の公開,提供行為が正犯者らの著作権法違反罪の幇助犯に当たるとして起訴された事案』(1頁)

<経緯>

H14.4 被告人がWinny開発に着手
H14.12Winny1.00公開
H15.4 Winny1.14公開
H15.5 Winny2公開
H15.9 正犯者B、Cが公衆送信権侵害
H18.12.13 京都地裁 幇助犯の成立を認め、罰金150万円
H21.10.8  大阪高裁 一審破棄、無罪言い渡し

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■判決内容

<争点>

1 幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要か

原判決では、インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目して、「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると判断していました。

これに対して上告審は、当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わずに、提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く、刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない、と判断しています(5頁以下)。

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2 幇助犯の故意の成否

もっとも、Winnyの価値中立ソフトといった性格から、

『ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である』(6頁以下)

と説示。本件では、

(1)被告人が現に行われようとしている基本的な著作権侵害を認識、認容しながら本件Winnyの公開、提供を行ったものではないことは明らかであること
(2)客観的に見て例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開、提供行為であったことは否定できないこと
(3)被告人の主観面をみると、被告人は本件Winnyを公開、提供するに際して本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや、そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの、いまだ、被告人においてWinnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており、本件Winnyを公開、提供した場合に例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めるに足りる証拠はない

として、結論としては、著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠くとして、幇助犯の成立を否定しています。

なお、被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容が認められるとする反対意見(大谷剛彦裁判官)が付されています(11頁以下)。

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■コメント

原判決がインターネット社会における新しい幇助犯の類型の基準を提示したものの、上告審はその基準は採用せずに幇助犯の故意を問題として主観面で処理し、原判決と同じく無罪の判断を下しています。

幇助犯の故意については、正犯者の実行行為によって基本的構成要件が実現されることの表象を必要とする見解もありますが(木村亀二、平場安治ほか)、正犯者が実行行為を行うことを表象すれば足りるとの見解もあります(大塚仁、大谷實ほか)。後者の見解に立つ場合、幇助行為と構成要件的結果との因果関係の認識を必要とせず、幇助行為の結果として、正犯の実行が容易になることの認識があれば足りることとなります(川端後掲書参照)。
また、幇助犯の故意は、未必的な故意で足りると考えられています(川端・西田ほか後掲書参照)。

大谷剛彦裁判官の反対意見があるように、主観面での評価が分かれていて、微妙な判断であることが窺われます。
本判決について、詳しくは、企業法務戦士の雑感さんの後掲ブログ記事を、また原判決に関する文献一覧については、藤本後掲論文をご覧頂けたらと思います。

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■参考文献

壇 俊光、金子 勇「ウィニー刑事事件判決について」『著作権法の新論点』(2008)39頁以下
藤本孝之「ファイル共有ソフトの開発提供と著作権侵害罪の幇助犯の成否−Winny事件」『知的財産法政策学研究』(2010)26号167頁以下 論文PDF
桑野雄一郎「著作権侵害の罪の客観的構成要件」『島大法学』(2010)54巻1、2号117頁以下 論文PDF
川端 博『刑法総論講義第二版』(2006)572頁以下
川端 博、西田典之、原田國男、三浦 守編『裁判例コンメンタール刑法第一巻』(2006)588頁以下

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財]Winny無罪は必然か?それともクリスマスの奇跡か?

壇弁護士の事務室(2011/12/21)
Winny弁護団コメント
金子勇コメント

誠 Biz.ID:Winny裁判と向き合って:取締役・金子勇が考えるエンジニアの未来、経営の明日(1−3)(2011年08月26日)

寄稿:小倉秀夫弁護士Winny裁判を考える なぜ「幇助」が認められたか(1−3)ITmediaニュース(2006年12月19日)