最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ロックバンドCOOLSライブビデオ事件

東京地裁平成23.10.31平成21(ワ)31190損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      菊池絵理
裁判官      小川雅敏

*裁判所サイト公表 2011.11.9
*キーワード:著作物性、公表権、複製権、頒布権

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■事案

ロックバンドのライブを収録したビデオ映像の著作物性などが争点となった事案

原告:ロックバンドリーダーX、Y
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、26条、18条、114条1項、3項

1 X:著作物1の著作権侵害の成否
2 X:故意・過失の有無
3 X:損害論
4 Y:著作物3の著作物性、著作権、著作者人格権の帰属性
5 Y:著作物3の著作権侵害の成否
6 Y:著作物3の著作者人格権(公表権)侵害の成否
7 Y:故意・過失の有無
8 Y:損害論

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■事案の概要

『ロックバンドのライブ等を収録したビデオ及びDVDの映画の著作物3点について,内2点の著作権を有する原告X(以下「X」という。)と,内1点の著作権及び著作者人格権を有すると主張する原告Y(以下「Y」という。)が,被告に対し,被告が各原告の許諾を得ずに上記著作物を複製・頒布し,もって各原告の著作権(複製権,頒布権,著作権法21条,26条)を侵害したと主張するとともに,Yについては,予備的に著作者人格権(公表権,同法18条)を侵害したと主張して,損害賠償請求(民法709条,710条,著作権法114条1項又は3項)として,Xについて94万9900円,Yについて197万0900円及び各金員に対する訴状送達日の翌日である平成21年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H19.1 被告がポマードの景品として著作物3を複製頒布
H19.3 被告が著作物2を複製販売
H20.6 被告が著作物1を複製販売
H20.7 被告がY関係者に「お詫び状」提出
H20.10被告が原告らに「お詫び状」提出
H21.9 本件訴訟を提起

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■判決内容

<争点>

1 X:著作物1の著作権侵害の成否

ライブハウスで開催されたロックバンドCOOLS(クールス)のクリスマスライブ映像を収録したビデオ(著作物1)を被告が著作権者である原告Xに無断で複製販売したとして、著作権侵害の成立が認められています(14頁以下)。

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2 X:故意・過失の有無

被告は故意過失の点を争いましたが、裁判所は被告に少なくとも過失があったと認定しています(15頁)。

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3 X:損害論

著作権侵害が認められた著作物1と当事者間で著作権侵害性について争いがない著作物2(Xのオートバイ走行映像とライブ映像等を収録したDVD)の複製権・頒布権侵害に関する損害論について、裁判所は、

著作物1:定価4000円−製造原価400円×販売数7本 2万5200円
著作物2:定価3500円−製造原価400円×販売数137本 42万4700円

として、合計44万9900円を損害額として認定しています(著作権法114条1項)。

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4 Y:著作物3の著作物性、著作権、著作者人格権の帰属性

原告YがバンドのリーダーであるロックグループTHE MACKSHOWの活動初期のライブ映像を収録したDVD(著作物3)の著作物性(2条1項1号)や著作権等の帰属が争点となっています(16頁以下)。

(1)ライブ映像の著作物性

ライブハウスに設置された固定カメラにより撮影されたライブ映像である著作物3について、被告は「カメラを複数台用意してターンさせて撮影し,編集する程度のことは,複数のライブハウスで行われており,著作物3は,ありふれた映像である」(10頁)としてその著作物性(創作性)を争点としました。

この点について、裁判所は、

1.設置されたカメラの状況
2.映像の内容
3.ライブの臨場感を損なわないために特段の編集作業を施していないこと

などから、著作物3はカメラワークや編集方針によりライブ全体の流れやその臨場感が忠実に表現されたものとなっており、著作者である原告Yの個性が表れていると判断。著作物3の著作物性を肯定しています。

(2)ライブ映像の著作権・著作者人格権の帰属

原告Yが映画(ライブ映像)の著作物の著作者であり(16条)、その著作権、著作者人格権はYに帰属すると認められています。

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5 Y:著作物3の著作権侵害の成否

被告が原告Yの許諾を得ること無く不特定人に対してポマードの景品として著作物の複製物を頒布し、著作権を侵害したことが認められています(17頁以下)。

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6 Y:著作物3の著作者人格権(公表権)侵害の成否

原告Yは、著作物3がライブハウス関係者のみに記念として配布する趣旨で提供され、ファン等の一般向けに提供されたものではないとして、未公表の著作物に該当し、被告によるDVDの公衆への提供はYの公表権(18条)を侵害すると主張しました(18頁以下)。
この点について裁判所は、映画の著作物については、その性質上、数量が少数であっても公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物の複製頒布といえるとして、本事案では著作権者(複製権者)Yによる発行により公表が認められ(3条1項、4条1項)、Yの公表権を侵害しないと判断しています。

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7 Y:故意過失の有無

被告には少なくとも過失が認められると判断されています(19頁)。

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8 Y:損害論

著作物3は販売商品ではなかったことから、裁判所は著作権法114条1項(譲渡等数量による損害額の請求)ではなく、3項(受けるべき著作物使用料の請求)により損害額を算定。
従前の販売DVDの平均価格4153円、使用料率13%、数量63枚として損害額合計3万4013円としています(19頁以下)。

なお、X、Yいずれについても精神的損害は認められていません。

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■コメント

歴史のあるロックバンド、クールス(COOLS)やザ・コルツが前身のTHE MACKSHOWのライブ映像の無断使用が問題となった事案で、ライブ映像の著作物性(著作権法2条1項1号)や公表権侵害性(18条)が争点となった事案として参考となります。

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■過去のブログ記事

矢沢永吉をメンバーとするロックバンド「キャロル」の解散コンサートの撮影映像を巡ってその著作権の帰属などが映像製作会社とレコード会社の間で争われた事案として、

キャロル解散コンサートDVD事件(2006年9月17日記事)