2011年10月19日刊行の本書は、小川明子先生(早稲田大学グローバルCOE総合研究所知的財産法制研究センター助手)が博士論文を下敷きとして新たに新書版として書き起こされたもので著作権や著作者人格権、そして日本ではまだ導入されていない追及権(*)を平易に紹介する内容のものです(本文全176頁)。
追及権導入の是非については賛否の分かれるところですが、「追及権こそが芸術家を守ってくれる権利」だと知って欲しいという小川先生の思いが伝わる一冊となっています。

目次
第一章 芸術家は貧しいのか
第二章 芸術家と著作財産権
第三章 芸術家と著作者人格権
第四章 追及権の始まりと今
第五章 追及権と制限規定のバランス
第六章 追及権は芸術家を救えるのか?


(*)
「一般に追及権は,美術の作品,特にファインアートあるいは視覚芸術作品の著作者の持つ譲渡不能かつ放棄不能の経済的権利とみなされている。オリジナルの作品(原作品),あるいはオリジナルとみなされる作品が公開オークションあるいはディーラー経由で販売された際,この権利によって著作者は販売額の一部を与えられる。」(後掲小川論文六号222頁)

(内容紹介:ビーケーワンより)
ヨーロッパやアメリカの一部では、「追及(利益配当)権」という著作権の保護システムによって、芸術家の利益が保証されるシステムがある。著作権をわかりやすく解説しながら、追及権についてくわしく紹介する。

文化のための追及権 ─日本人の知らない著作権 (集英社新書)
文化のための追及権 ─日本人の知らない著作権 (集英社新書)
クチコミを見る アマゾン


現代アートの旗手村上隆氏が、オークションカタログに自己作品の画像掲載の対価として、販売価格の1%を受領する契約をオークションハウスと契約したというニュースが先日伝えられましたが(asahi.com(朝日新聞社):村上隆に作品落札額の1% カタログ掲載の対価 − 文化トピックス − 文化 2011年9月20日10時54分 赤田康和)、落札されなければ掲載料を支払わなくて良い契約内容となっており、あたかも追及権を部分的ながら契約で実現したような側面もあって美術作家保護の1つの取決めとして注目されます。

なお、最近の追及権の話題に触れたものとして、「大家重夫・福王寺一彦対談「著作権を巡る問題1」」『連盟ニュース』438号(2011年4月号 日本美術家連盟)1頁以下があります。

小川先生は、早稲田大学で開催されているジャスラック公開講座では、昨年2010年度には「追及権をめぐる課題」を担当されたりと精力的に研究発表活動をされておいでで、本年10月15日開催の第2回「著作者人格権をめぐる現代的諸問題」の会場には小川先生も見えられていて、講座の終わりには、高林龍先生が壇上から門下となる小川先生の本書の上梓をおしらせされておられました。

■小川先生の論文等(一部)

小川明子「日本における追及権保護の可能性―フランス,フィンランド,英国での聞き取り調査をもとに―」PDF(企業と法創造「特集・変容する企業社会と労働法」(2006年3月発刊)(通巻第六号))

小川明子「著作権法改正による美術の著作物への影響 ─47条の2と追及権─」PDF(企業と法創造「特集・知的財産法制研究V」(2010年3月発刊)(通巻第二十二号))

【早稲田大学グローバルCOE≪企業法制と法創造≫総合研究所 知的財産法制研究センター】RCLIPコラム 小川明子「追及権をご存じですか?」(2011/10/4 update)