最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

小型USBフラッシュメモリ形態模倣事件

東京地裁平成23.3.2平成19(ワ)31965損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      岩崎 慎
裁判官      坂本三郎

*裁判所サイト公表 2011.6.1
*キーワード:著作物性、複製、翻案、準拠法、商品形態模倣、営業秘密

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■事案

小型USBフラッシュメモリの商品形態模倣性や設計図の著作物性が争点となった事案

原告:電子機器製造販売会社(台湾法人)
被告:電子器具製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、不正競争防止法2条1項3号、7号、民法709条、通則法17条、22条

1 原告と積智科技との同一性
2 不競法2条1項3号該当性
3 不競法2条1項7号該当性
4 著作権侵害性
5 一般法行為の成否

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■事案の概要

『台湾法人である原告が,小型USBフラッシュメモリを台湾の会社に製造委託してこれを輸入・販売する被告に対し,(1)当該小型USBフラッシュメモリは,原告が製造する商品の形態を模倣したものであって,被告による当該小型USBフラッシュメモリの輸入・販売は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当すること,(2)当該小型USBフラッシュメモリは,被告が原告から示された営業秘密を不正に使用して製造されたものであり,不競法2条1項7号の不正競争行為に該当すること,(3)被告による当該小型USBフラッシュメモリの製造は,台湾の著作権法上,原告の著作物である小型USBフラッシュメモリの設計図の著作権(翻案権)を侵害すること,(4)被告による当該小型USBフラッシュメモリの製造・販売は,原告の技術情報を使用して行われたものであり,不法行為(民法709条)に該当すること((1)ないし(4)につき選択的併合)を理由として,原告に生じた損害541億8000万円(逸失利益540億円及び弁護士費用1億8000万円)の一部である20億円(逸失利益19億円及び弁護士費用1億円)の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(1頁以下)

<経緯>

H16.11 被告とインベンテック社が実用新案出願
H17.3  被告社員らが積智科技らを訪問
H18.12 被告各商品を製造、輸入、販売

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■判決内容

<争点>

1 原告と積智科技との同一性

原告と積智科技との同一性について、会社名を変更したものであって、同一の会社であるとみとめられています(46頁)。

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2 不競法2条1項3号該当性

原告が開発した小型USBフラッシュメモリ(原告商品)について、USBフラッシュメモリである被告各商品における被告による商品形態模倣行為性(不正競争防止法2条1項3号)が争点とされています(46頁以下)。

結論としては、

・本件協議前に原告商品が開発済みであったとは認められない
・本件協議前に原告設計図1及び2が存在したとは認められない
・被告から原告に対して小型USBフラッシュメモリの形態及び寸法を記載したインベンテック社の設計図の送信があった

といった諸点から、原告商品について「他人の商品」要件を満たさないとして不正競争防止法2条1項3号該当性が否定されています。

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3 不競法2条1項7号該当性

原告から被告に提供された技術情報の内容や営業秘密不正使用行為性(不正競争防止法2条1項7号)についてさらに争点とされています(64頁以下)。

(1)営業秘密該当性

裁判所は、本件技術情報の特定の有無及び営業秘密該当性(2条6項)について、モックアップ、PCBAサンプル、別紙データ目録の情報、付随情報、補足情報その他の個別の情報に関し、特定性を欠いていたり、公知の情報であったり、有用性を欠くといった理由などから原告保有の営業秘密該当性を否定しています。

(2)不正使用行為性

裁判所はさらに、仮に本件技術情報に原告の保有する営業秘密が含まれており、被告が営業秘密に該当する技術情報を使用していたとしても、被告がこれを使用することは本件技術情報が被告の委託を受け、被告が提供した情報・条件を基礎として検討されたものであって、その使用は被告に対して提供された趣旨に合致するものであって、「不正の利益を得る目的」又は「損害を加える目的」が認められないとして不正使用行為性を否定しています。

結論として、2条1項7号該当性が否定されています。

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4 著作権侵害性

次に小型USBフラッシュメモリの斜視図、平面図、側面図といった内容の設計図の著作物性や設計図から工業製品を製造する行為の複製行為性や翻案行為性が争点となっています(79頁以下)。

(1)準拠法について

台湾法人である原告が著作者である著作物がTRIPS協定9条1項、ベルヌ条約3条(1)a、著作権法6条3号により日本の著作権法の保護を受けること、また、著作権侵害に基づく損害賠償請求権についての準拠法は、法性決定により不法行為として法例11条(不法行為地法)又は通則法17条(加害行為結果発生地法)により台湾法となると裁判所は判断。
そして、原告設計図1及び2から被告各商品を製造する行為が台湾法及び日本法上においても不法であるといえるかどうかを判断しています(法例11条2項、通則法22条1項)。

(2)原告が原告設計図1及び2につき著作権を有するか

インベンテック社製作の設計図と原告設計図1及び2との実質的同一性、インベンテック設計図への依拠性から、原告設計図1及び2はインベンテック設計図を複製したものであると認められ、「原告の」著作物性が否定されています。

(3)設計図から工業製品を製造する行為と複製、翻案

さらに、設計図から工業製品を製造する行為についても、台湾の著作権法上、複製や翻案などに該当せず、また、日本の著作権法上においても複製や翻案などに該当しないとして、著作権侵害性が否定されています。

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5 一般法行為の成否

原告は被告が「原告の技術力,開発に要した時間・費用・労力の結晶である技術情報を,被告が,その社会的地位・信用を不当に利用して,何らの対価なく取得し,取得した技術情報等を使用して同様の商品を製造・販売し,ただ乗り的にその販売利益を得ている」として、フリーライドを理由として一般不法行為の成立を主張しましたが、裁判所は認めていません(85頁)。

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■コメント

台湾の電子機器製造メーカーがソニーを訴えた事案です。
原被告間で3センチほどの小型USBフラッシュメモリの製造委託の協議の際に技術情報のやりとりがあって、この情報の取扱を巡って紛争になりました。なお、秘密保持契約は締結されていませんでした(78頁)。
ところで、2001年11月のWTO理事会において中国、台湾の加盟が承認され、12月に中国に対して、また、2002年1月に台湾に対して、TRIPS協定が効力を生じています。