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2011年06月03日

データSOS事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

データSOS事件(控訴審)

知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      高部眞規子
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2011.6.1
*キーワード:創作性、アイデア、複製権、翻案権、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :PCデータ復旧請負会社
被告(被控訴人):コンピュータ機器開発販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、21条、27条、民法709条

1 著作権侵害の成否
2 著作者人格権侵害の成否
3 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『控訴人が,インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被控訴人の行為は,主位的に,(1)控訴人が創作し,そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって,控訴人の著作権(複製権,翻案権,二次的著作物に係る公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し,又は,著作権法113条6項のみなし侵害に当たると主張して,被控訴人に対し,当該不法行為に基づき,著作権法114条2項,3項の規定による損害賠償金1650万3562円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づく謝罪広告の掲載を求め,予備的に,(2)被控訴人の上記行為は,著作権侵害の不法行為に当たらないとしても,一般不法行為に当たると主張して,被控訴人に対し,当該不法行為に基づき,上記(1)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条に基づく謝罪広告の掲載を求める事案である。
 原判決は,控訴人は,ウェブサイト掲載の本件コンテンツに係る著作権の侵害を主張するが,同コンテンツに係るどの部分の著作権を侵害したのかを具体的に主張しないから,同コンテンツに係る著作権侵害の成否を判断することはできず,また,ウェブサイト掲載の広告である控訴人文章と被控訴人文章とは,表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから,共通点が存することをもって,複製又は翻案に該当するということはできない等として,著作権及び著作者人格権侵害を否定して,主位的請求を棄却し,一般不法行為についても,被控訴人文章が控訴人文章に依拠して作成されたものであったとしても,被控訴人が被控訴人文章をそのウェブサイトへ掲載した行為が,公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱して不法行為を構成すると認めることはできないとして,予備的請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴に及んだ。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

複製権又は翻案権侵害の成否について、裁判所は複製と翻案の意義(著作権法21条、2条1項15号、27条)について言及した上で以下の各部分についての創作性(2条1項1号)について検討。

(1)本件コンテンツ

原告のウェブサイト全体(甲の1の3枚目から5枚目。さらに1枚目及び2枚目)をコンテンツ(本件コンテンツ)として見た場合について、創作性を否定しています(14頁以下)。

(2)原告文章全体の構成及び記述順序

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控訴人・被控訴人各文章対比表より(28頁以下)

No.1
控訴人文章
■ データ復旧って何?
被控訴人文章
■ データ復旧技術サービスとは?

No.2
(1)
控訴人文章
■ どんな時に利用されるの?
被控訴人文章
■ どのようなときに利用するサービスなのか?

(2)
控訴人文章
・バックアップを取っていない
・バックアップを戻せない
被控訴人文章
・バックアップを取っていない
・バックアップからシステムを復帰できない

(3)
控訴人文章
このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして,データ復旧サービスの利用を検討します。
被控訴人文章
このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして,データ復旧技術サービスの利用をご検討ください。

No.3
(1)
控訴人文章
■ 修理と何が違うの
被控訴人文章
■ データ復旧と修理サービスとの違いは?

(2)
控訴人文章
パソコン修理=パソコンの機能を取り戻すことに主眼を置きます。
たとえばハードディスクが故障した場合,新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。
しかし,新しいものに交換すれば当然データは戻りません。
データは消えてもパソコンは直る。これが修理の基本的なスタンスです。
被控訴人文章
1.パソコン・機器等の修理
パソコンの動作的な機能を取り戻すことに主眼を置きます。
例えばハードディスクが故障した場合,新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。
しかし,新しいものに交換すれば当然データは戻りません。
データは消えてもパソコン・機器は元に戻ります。これが修理サービスの基本的な考え方です。

(3)
控訴人文章
データ復旧
=データを取り戻すことに主眼を置きます。
データを取り戻すためなら,分解や破壊といった修理とはむしろ逆になることも行います。
たとえるなら
被控訴人文章
2.データ復旧技術サービスの場合
データを取り戻すことに主眼を置きます。
データを取り戻すためなら,分解や破壊といった修理とは逆行為になることも行います。
例えば,

(4)
控訴人文章
パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし,パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増しています。
パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切です。
被控訴人文章
パソコン・機器そのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし,パソコンに保存されているデータは文書のデジタル化や利便性を追求していく現代では,一段と重要性を増しています。
パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切です。

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上記対比表記載部分について、原告は1つのまとまりとした全体的な構成、記載順序、配列、小見出し等の具体的な表現について、被告文章は原告文章と同一性を有し複製に当たると主張しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、
『確かに,控訴人文章と被控訴人文章とは,データ復旧サービスの概要について,その概念,利用が検討される状況,修理との相違,データ復旧の重要性の順序に従って,いわゆるQ&A方式で解説を加えるもので,その全体的な構成,記載の順序,小見出しを有する点について共通する。』
『しかしながら,控訴人文章は,データ復旧サービスについての一般消費者向けの広告用文章として,データ復旧サービスの基本的な内容を説明するものであるから,このような一般消費者向けの広告用文章においては,広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用いること,各項目ごとに端的な小見出しを付すこと,説明の対象となるサービスとはどのようなものか,どのような場合に利用するものなのか,異なる商品やサービスとの相違点は何かについて,上記各構成,順序で記載することなどは,広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法にとどまり,控訴人主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているとまでいうことはできない。』

として、原告文章全体の構成及び記述順序についての創作性を否定。複製又は翻案に当たらないと判断しています。

(3)個別の文章について

上記対比表記載の各文章について、それぞれ対応する各文章の複製又は翻案の成否が問題となっています(16頁以下)。
結論としては、平凡かつありふれた表現であったり、事実といった表現それ自体でない部分において共通性を有するにすぎないとして、複製又は翻案に当たるものではないと判断しています。

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2 著作者人格権侵害の成否

争点1で著作権侵害の成立が否定されており、著作者人格権侵害(氏名表示権 19条)、侵害みなし行為(113条)についても否定されています(23頁以下)。

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3 一般不法行為の成否

原告は、『先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社のオリジナル広告文につき,同一サービスに新規参入する業務経験のない大手ライバル企業によって盗用されない利益は法的保護に値するものであるから,先行競合企業である控訴人の広告文言を盗用した被控訴人の行為は,社会的相当性を逸脱し控訴人の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成する』(24頁)と主張しました。
裁判所は、被告文章の原告文章への依拠を推認し、原告が被告の行為を強く非難すること自体について「無理からぬこと」と原告側に理解を示しつつも、原告文章が著作権法によって保護される表現では無く、著作権以外に原告の具体的な権利ないし利益が侵害されたと認められない以上、不法行為が成立する余地はない、と判断しています。

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■コメント

控訴審でも原審同様、棄却の判断となっています。
ウェブサイトの広告文章や構成の創作性判断として知財高裁レベルでの重要な判断となります。一般不法行為論の部分についての知財高裁の説示部分は、通勤大学法律コース事件控訴審判決と比較すると、フリーライドがあった場合における法的保護に値する利益の侵害性について、違法性の有無の判断をするまでもなく原則論(著作権法で保護されない表現物は原則として自由に利用が可能)で形式的に切っており(26頁以下)、一般不法行為論否定の方向での判断であれば、原審と同様に違法性の有無の判断まで言及すべきではなかったか、検討の余地が残るものとなりました。

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■過去のブログ記事

2011年2月14日記事
データSOS事件(原審)

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■参考判例

一般不法行為論について
北朝鮮映画事件(対フジテレビ)控訴審
知財高裁平成20.12.24平成20(ネ)10011判決
通勤大学法律コース事件控訴審
知財高裁平成18.3.15平成17(ネ)10095等判決
ヨミウリオンライン事件控訴審
知財高裁平成17.10.6平成17(ネ)10049判決
木目化粧紙事件控訴審
東京高裁平成3.12.17平成2(ネ)2733判決

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■参考文献

田村善之編著「新世代知的財産法政策学の創成」(2008)3頁以下
中吉徹郎「著作物性のない情報と不法行為法」『著作権判例百選第四版』(2009)58頁以下


written by ootsukahoumu at 15:36│TrackBack(0)知財判決速報2011 

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