最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

吹きゴマ折り図事件

東京地裁平成23.5.20平成22(ワ)18968損害賠償等請求事件PDF
別紙1

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      上田真史

*裁判所サイト公表2011.5.24
*キーワード:著作物性、アイデア表現二分論、複製権、翻案権、公衆送信権、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

折り紙作家の「吹きゴマ」折り図を無断でTV局の番組ウェブサイトに改変掲載されたとして、折り図の著作物性や複製権、翻案権侵害性が争点となった事案

原告:創作折り紙作家
被告:株式会社TBSテレビ

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、23条、19条、20条、民法709条

1 本件折り図の著作物性
2 複製ないし翻案の成否
3 著作者人格権侵害の有無
4 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等

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■事案の概要

『折り紙作家である原告が,テレビドラマの番組ホームページに別紙2記載の「吹きゴマ」の折り図(説明文を含む。以下「被告折り図」という。)を掲載した被告に対し,主位的に,被告折り図は,「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」と題する書籍(著者・原告,発行日・平成20年2月20日,発行所・株式会社誠文堂新光社。以下「原告書籍」という。)に掲載された別紙1記載の「へんしんふきごま」の折り図(説明文を含む。以下「本件折り図」という。)を複製又は翻案したものであり,被告による被告折り図の作成及び番組ホームページへの掲載行為は原告の著作物である本件折り図についての著作権(複製権ないし翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害及び著作権人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び遅延損害金の支払と著作権法115条に基づき被告の運営するホームページに別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の掲載を求め,予備的に,仮に被告の上記行為が著作権侵害及び著作権人格権侵害に当たらないとしても,原告の有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し,上記利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償及び遅延損害金の支払と民法723条に基づき上記ホームページに別紙謝罪文目録2記載の謝罪文の掲載を求めた事案』
(2頁以下)

原告書籍:「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」

<経緯>

H20.2 原告書籍刊行
H21.6 被告制作ドラマ「ぼくの妹」の番組ホームページに被告折り図掲載
H21.7 原告が被告に削除要請、5日後に削除のうえ差し替え

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■判決内容

<争点>

1 本件折り図の著作物性

「吹きゴマ」折り紙の折り方を説明する折り図の著作物性について、まず裁判所は、折り図の一般的な特性として、

『折り方そのものは,紙に折り筋を付けるなどして,その折り筋や折り手順に従って折っていく定型的なものであり,紙の形,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向,折り手順は所与のものであること,折り図は,折り方を正確に分かりやすく伝達することを目的とするものであること,折り筋の表現方法としては,点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば,その作図における表現の幅は,必ずしも大きいものとはいい難い。また,折り図の著作物性を決するのは,あくまで作図における創作的表現の有無であり,折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない』(22頁)

として折り図が表現の幅が狭い著作物であることを説示。その上で本件折り図については、

(1)32の折り工程の説明について選択の幅があること
(2)読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文や写真を用いて補充説明している
(3)全体として説明図の選択・配置、矢印、点線等と説明文、写真の組合せ等によって見やすく、分かり易く表現している

といった点から、本件折り図の著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています。

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2 複製ないし翻案の成否

被告折り図が本件折り図を複製又は翻案したものかどうかについて、裁判所は、複製の意義(2条1項15号)及び翻案の意義(江差追分事件最高裁判例)に言及した上で被告折り図において、本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを比較検討(23頁以下)。

【共通点】
(1)10個の図面と完成形の図面で説明
(2)各説明図でまとめて選択した折り工程の内容
(3)各説明図は、折り筋を付ける箇所を点線で示す等している

【相違点】
(1)被告折り図には多くの説明文が付してある
(2)被告折り図は写真を用いず、色分けなどをしていない
(3)被告折り図では完成形に至ることができない

といった点などから、折り図としての見やすさの印象が大きく異なり、分かりやすさの程度においても差異があるものであって、本件折り図の本質的特徴を直接感得することはできないと判断。
複製あるいは翻案は否定されています。

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3 著作者人格権侵害の有無

被告によるホームページ掲載行為の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害性についても否定されています(30頁以下)。

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4 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等

原告は、予備的請求として被告のフリーライドなどを理由とした一般不法行為(民法709条)の成立を主張しましたが、裁判所は容れていません(31頁以下)。

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■コメント

原告折り図の著作物性(著作権法2条1項1号)は認められたものの、被告折り図の複製物性あるいは翻案物性は否定された事案です。

同じ「吹きゴマ」折り紙作品の32の工程を10の手順に構成、まとめているところまで類似しているわけですが、裁判所は、その点はアイデア部分での類似にすぎないと判断しています(27頁参照)。
整然と整理された対比表(別紙3)での類否判断ですと、価値判断的には翻案権侵害性を肯定しても良いのではないかとも思うものの、原告サイト(後掲)の「へんしんふきごまのおりかた(吹きゴマ)」を拝見すると、写真もあり大変見やすい構成・レイアウトになっていて、10の手順というのは、アイデア部分にすぎないことになってしまうかな、という印象も持った次第で、微妙な判断です。

5月24日現在で、TBSの「ぼくの妹」番組サイトにアクセスすると、『2009年7月9日 「へんしんふきごま」の折り方』のニュースリリースがあって、折り方について原告のサイトへのリンクがあります。

TBS「ぼくの妹」

今回の事案では、TBSが番組やウェブサイトでの作品や折り図の利用について、事前に作家さんに監修などを依頼したのかどうか判決文からは判然としませんでしたので、原告の方にメールで不躾ですが伺ってみました。作家さんや出版社とTBSとの間で事前のやりとりはなくて、作家さんはあとから気が付かれたそうです。
また、作家さんは、「折り鶴の折り図を十数点並べてみて、どれ一つとして同じ手順、同じ形状、同じ向きは無い、つまり表現の本質自体」である旨伝えられたそうですが、裁判所には容れられなかった結果となりました。

作家さんとしては、今回一番許せないのが、完成できない折り図をウェブサイトに掲載した点ということで、TBSも始めから作家さんから許諾を得て折り図を転載するなり、作家さんのサイトへリンクを貼るなりしていれば良かったと感じる事案です。

なお、日本折紙学会では、折り紙作品を使用する場合のガイドライン文書(第1版)を2005年に公表しています。

折り紙の知的財産権研究−折紙探偵団
知的財産としての折り紙について(PDF)

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■参考サイト

原告サイト
ぼくの妹・・・吹きゴマ へんしんふきごま折り方作り方 おりがみ畑
5月20日は折り紙著作権の日−創作折り紙の折り方・・・(2011年4月1日付)