最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「月刊ネット販売」編集著作物事件(対著者)(控訴審)

知財高裁平成23.3.22平成22(ネ)10059損害賠償請求控訴事件PDF

裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      真辺朋子
裁判官      田邉 実


*裁判所サイト公表 2011.3.29
*キーワード: 編集著作物性、一般不法行為、信用毀損

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■事案

月刊誌に掲載された図表の編集著作物性や複製行為の一般不法行為性の成否が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :出版社
被告(被控訴人):執筆者

原告雑誌:月刊誌「月刊ネット販売」2007年9月号
被告執筆書籍:「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、21条

1 各原告図表の著作物性について
2 被告が本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用したこと等が、原告の名誉・信用を毀損する不法行為であるといえるか

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■事案の概要

『 (1) 本件書籍中に掲載された各被告図表は各原告図表の複製物に当たり,被控訴人が本件書籍中に各被告図表を掲載した行為は,各原告図表に係る控訴人の著作権(複製権)を侵害する行為であるか,仮に,各原告図表が著作物であると認められないとしても,原告の財産権を侵害する行為であり,被控訴人には不法行為に基づく損害賠償として250万円の支払義務がある。
 (2) 被控訴人が,本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用し,かつ,その著者の肩書きとして「株式会社通販新聞社,通販新聞・執行役編集長,月刊ネット販売・編集人」と,その経歴として「通販新聞社に入社し,記者を経て3年前から現職」と表記したことにより,控訴人の名誉・信用が毀損されたものであり,被控訴人には不法行為による損害賠償として250万円の支払義務がある。』(2頁)とする著作権侵害及び名誉・信用毀損等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟

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■判決内容

<争点>

1 各原告図表の著作物性について

各原告図表が編集著作物(著作権法12条1項)に該当するかどうかについて、例えば、原告図表1については、原告がパソコン及び携帯とに限定した項目を中心として、横列(「増減率(%)」、「携帯売上高(百万円)」、「月刊アクセス数(PV:万)」、「累積会員数」、「決算期」、「主要商材」)を有機的に結び付けた図表は類例がなく、原告の創作性の表れであると主張した点に関して、控訴審は、売上高は基本的な営業情報であり、『項目を図表の中心として選定することは,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきであって,創作性があるとは認めがたい』と判断しています(8頁以下)。

結論として、原告各図表はいずれも特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものであり、創作性(著作物性)があるとは認められていません。

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2 被告が本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用したこと等が、原告の名誉・信用を毀損する不法行為であるといえるか

本件書籍での「カラクリ」という言葉の使用について、控訴審は『表題を含め書籍の表紙の記述の意味内容が他人の客観的な信用や社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該記述についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断すべきである。』(10頁)としたうえで、『通信販売業界の業者らに不快と感じたり不適切であると考える者がいるとしても,それは,自身だけが不快と感じている実態を踏まえてのうがった印象にすぎず,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断した場合には,本件書籍の表題が控訴人の主張するような悪印象を与えるものと認められない』などとして、原告の主張を認めていません。

結論として、名誉・信用毀損の点を含めすべての不法行為の成立が否定されています。

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■コメント

原審と同様、控訴審でも各原告図表の編集著作物性(著作権法12条1項)が否定され、不法行為の成立も否定されています。

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■過去のブログ記事

2010年6月30日記事 原審

・関連訴訟
2010年2月12日記事 「月刊ネット販売」編集著作物事件(対出版社)
2010年3月15日記事 「週刊通販新聞」編集著作物事件