最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「データSOS」事件
東京地裁平成22.12.10平成20(ワ)27432損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 坂本康博
裁判官 寺田利彦
*裁判所サイト公表 2011.2.10
*キーワード:創作性、アイデア、複製権、翻案権、著作者人格権、一般不法行為論
--------------------
■事案
ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となった事案
原告:PCデータ復旧請負会社
被告:コンピュータ機器開発販売会社
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法2条1項1号、19条、21条、27条、民法709条
1 著作権侵害の成否
2 著作者人格権侵害の成否
3 一般不法行為の成否
--------------------
■事案の概要
『原告が,インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被告の行為は,主位的に,(1)原告が創作し,そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって,原告の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権,二次的著作物に係る利用権)及び著作者人格権(氏名表示権,著作権法113条6項のみなし侵害)を侵害する不法行為に当たると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,710条,著作権法114条2項,3項)に基づき損害賠償金1650万3562円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求め,予備的に,(2)一般不法行為に当たると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,710条)に基づき上記(1)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条に基づき謝罪広告の掲載を求める事案』
(1頁以下)
--------------------
■判決内容
<争点>
1 著作権侵害の成否
(1)本件コンテンツの著作権侵害性
まず、原告のウェブサイトに表示されたデータ復旧サービスに関するコンテンツ全体(本件コンテンツ)の著作権侵害性について、裁判所は、被告がどの部分の著作権を侵害したかを原告は具体的に主張していないとして、原告のこの点の主張を退けています。
なお、付言として、仮に「サービスメニュー」ボタンの配置、分類及び表現が本件コンテンツに含まれるとしても、これらは『ごくありふれたものであり,作成者の個性が現れているとはいえないから,これらを著作物と認めることはできない』(17頁)として、「サービスメニュー」ボタンの配置、分類及び表現の創作性について否定しています。
(2)原告文章の著作権侵害性
本件コンテンツのうち、言語による説明の部分(原告文章)の著作権侵害性について、裁判所は、複製、翻案、創作性の意義について言及した上で、原告文章と被告文章を対比・検討しています(18頁以下)。
1. 構成や記述順序
『一般消費者向けの広告用文章においては,広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用いることや,各項目ごとに端的な小見出しを付すること,説明の対象となるサービスとはどのようなものか,どのような場合に利用するものなのか,異なる商品やサービスとの相違点は何かをこのような構成,順序で記載することなどは,広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法といえ,原告主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているということはできない』(19頁)
2. 別紙文章対比表No.1等
「データ復旧って何?」と「データ復旧技術サービスとは?」等は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない(20頁以下)。
3. 別紙文章対比表No.3(1)等
「修理と何が違うの」と「データ復旧と修理サービスとの違いは?」等は、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎない(20頁以下)。
結論として、原告の著作権侵害の不法行為に基づく請求は容れられていません。
------------------------------------
2 著作者人格権侵害の成否
被告文章の複製権又は翻案権侵害が認められず、著作者人格権(氏名表示権)も認められていません(26頁)。
------------------------------------
3 一般不法行為の成否
一般不法行為の成否(民法709条)について、裁判所は、
『別紙文章対比表の原告文章欄及び被告文章欄記載の各下線部分の表現は,記載順序や構成,用語や言い回しなどがほぼ共通していること,被告文章の作成担当者であるAは,被告文章を作成するに当たりデータ復旧サービスを行っている100〜200社のウェブサイトを閲覧し参考にしており(乙11,18,証人A),原告文章が掲載された原告のウェブサイトを閲覧しこれを参考にした可能性があること,Aが被告文章における表現をどのように推敲し,どのような理由から採用したのかなど被告文章の具体的な作成経緯が主張,立証されていないことなどからすると,被告文章は,原告文章に依拠して作成されたことがうかがわれる』(27頁)
として、被告の原告文章への依拠性を認めつつも、
(1)同表の被告文章欄記載の文章のうち、原告文章の表現と類似しているのは下線が付されている部分のみであり、全体の2分の1以上を占めるその他の部分は原告文章の表現と類似していない
(2)原告文章と被告文章の表現が類似している部分は、データ復旧サービスの内容を一般消費者向けに説明する際に広く用いられている一般的なもので普通に考えられる工夫である
(3)被告文章は広告用の文章であって被告は被告文章の出版、ウェブサイトへの掲載等により直接利益を得ているわけではない
(4)広告用文章を閲覧した者が当該サービスを利用するか否かは、その広告用文章の表現内容のみではなく、当該サービス自体の内容や価格、その実績等によるところが大きい
などの点から、
『被告文章が原告文章に依拠して作成されたものであったとしても,被告が被告文章を被告ウェブサイトへ掲載した行為が,公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱した不正な競争行為として不法行為を構成すると認めることはできない』
として、一般不法行為の成立も否定しています。
--------------------
■コメント
PCがクラッシュした際のデータ復旧サービスなどを行っている会社のウェブページ上のコンテンツの盗用が争点となった事案です。
原告サイトにある「データSOSとは」から「サービスの流れ」といったメニューボタンの構成や文章の著作権侵害性が争点となりましたが(「SOSサービス」サイト参照)、いずれについても著作権侵害性が否定されています。
今回のウェブサイト上のタブボタンの配置や構成、広告用文章の創作性についての裁判所の判断は参考になるものと思われます。
なお、被告サイトの説明文を見る限り、被告が原告の文章を安易に参考にしたことが伺われますが、一般不法行為の成立を認めるほどの違法性は認められませんでした。
--------------------
■参考判例
ウェブサイト上の著作物の著作物性について、
遮熱断熱材写真事件判決文PDF
東京地裁平成20年6月26日平成19(ワ)17832不正競争行為差止等請求事件
スメルゲット事件判決文PDF
知財高裁平成18年3月29日平成17年(ネ)第10094号請負代金請求控訴事件
ヨミウリオンライン事件判決文PDF
知財高裁平成17年10月6日平成17(ネ)10049著作権侵害差止等請求控訴事件
転職情報事件判決文PDF
東京地裁平成15年10月22日平成15(ワ)3188著作権侵害差止等請求事件
ホテルジャンキーズ事件判決文PDF
東京高裁平成14年10月29日平成14(ネ)2887著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件
--------------------
■参考サイト
原告サービス
データ復旧の【データSOS】HDD・ハードディスク・RAID復旧・修復サービス−東京・秋葉原
「データSOS」事件
東京地裁平成22.12.10平成20(ワ)27432損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 坂本康博
裁判官 寺田利彦
*裁判所サイト公表 2011.2.10
*キーワード:創作性、アイデア、複製権、翻案権、著作者人格権、一般不法行為論
--------------------
■事案
ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となった事案
原告:PCデータ復旧請負会社
被告:コンピュータ機器開発販売会社
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法2条1項1号、19条、21条、27条、民法709条
1 著作権侵害の成否
2 著作者人格権侵害の成否
3 一般不法行為の成否
--------------------
■事案の概要
『原告が,インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被告の行為は,主位的に,(1)原告が創作し,そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって,原告の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権,二次的著作物に係る利用権)及び著作者人格権(氏名表示権,著作権法113条6項のみなし侵害)を侵害する不法行為に当たると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,710条,著作権法114条2項,3項)に基づき損害賠償金1650万3562円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求め,予備的に,(2)一般不法行為に当たると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,710条)に基づき上記(1)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条に基づき謝罪広告の掲載を求める事案』
(1頁以下)
--------------------
■判決内容
<争点>
1 著作権侵害の成否
(1)本件コンテンツの著作権侵害性
まず、原告のウェブサイトに表示されたデータ復旧サービスに関するコンテンツ全体(本件コンテンツ)の著作権侵害性について、裁判所は、被告がどの部分の著作権を侵害したかを原告は具体的に主張していないとして、原告のこの点の主張を退けています。
なお、付言として、仮に「サービスメニュー」ボタンの配置、分類及び表現が本件コンテンツに含まれるとしても、これらは『ごくありふれたものであり,作成者の個性が現れているとはいえないから,これらを著作物と認めることはできない』(17頁)として、「サービスメニュー」ボタンの配置、分類及び表現の創作性について否定しています。
(2)原告文章の著作権侵害性
本件コンテンツのうち、言語による説明の部分(原告文章)の著作権侵害性について、裁判所は、複製、翻案、創作性の意義について言及した上で、原告文章と被告文章を対比・検討しています(18頁以下)。
1. 構成や記述順序
『一般消費者向けの広告用文章においては,広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用いることや,各項目ごとに端的な小見出しを付すること,説明の対象となるサービスとはどのようなものか,どのような場合に利用するものなのか,異なる商品やサービスとの相違点は何かをこのような構成,順序で記載することなどは,広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法といえ,原告主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているということはできない』(19頁)
2. 別紙文章対比表No.1等
「データ復旧って何?」と「データ復旧技術サービスとは?」等は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない(20頁以下)。
3. 別紙文章対比表No.3(1)等
「修理と何が違うの」と「データ復旧と修理サービスとの違いは?」等は、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎない(20頁以下)。
結論として、原告の著作権侵害の不法行為に基づく請求は容れられていません。
------------------------------------
2 著作者人格権侵害の成否
被告文章の複製権又は翻案権侵害が認められず、著作者人格権(氏名表示権)も認められていません(26頁)。
------------------------------------
3 一般不法行為の成否
一般不法行為の成否(民法709条)について、裁判所は、
『別紙文章対比表の原告文章欄及び被告文章欄記載の各下線部分の表現は,記載順序や構成,用語や言い回しなどがほぼ共通していること,被告文章の作成担当者であるAは,被告文章を作成するに当たりデータ復旧サービスを行っている100〜200社のウェブサイトを閲覧し参考にしており(乙11,18,証人A),原告文章が掲載された原告のウェブサイトを閲覧しこれを参考にした可能性があること,Aが被告文章における表現をどのように推敲し,どのような理由から採用したのかなど被告文章の具体的な作成経緯が主張,立証されていないことなどからすると,被告文章は,原告文章に依拠して作成されたことがうかがわれる』(27頁)
として、被告の原告文章への依拠性を認めつつも、
(1)同表の被告文章欄記載の文章のうち、原告文章の表現と類似しているのは下線が付されている部分のみであり、全体の2分の1以上を占めるその他の部分は原告文章の表現と類似していない
(2)原告文章と被告文章の表現が類似している部分は、データ復旧サービスの内容を一般消費者向けに説明する際に広く用いられている一般的なもので普通に考えられる工夫である
(3)被告文章は広告用の文章であって被告は被告文章の出版、ウェブサイトへの掲載等により直接利益を得ているわけではない
(4)広告用文章を閲覧した者が当該サービスを利用するか否かは、その広告用文章の表現内容のみではなく、当該サービス自体の内容や価格、その実績等によるところが大きい
などの点から、
『被告文章が原告文章に依拠して作成されたものであったとしても,被告が被告文章を被告ウェブサイトへ掲載した行為が,公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱した不正な競争行為として不法行為を構成すると認めることはできない』
として、一般不法行為の成立も否定しています。
--------------------
■コメント
PCがクラッシュした際のデータ復旧サービスなどを行っている会社のウェブページ上のコンテンツの盗用が争点となった事案です。
原告サイトにある「データSOSとは」から「サービスの流れ」といったメニューボタンの構成や文章の著作権侵害性が争点となりましたが(「SOSサービス」サイト参照)、いずれについても著作権侵害性が否定されています。
今回のウェブサイト上のタブボタンの配置や構成、広告用文章の創作性についての裁判所の判断は参考になるものと思われます。
なお、被告サイトの説明文を見る限り、被告が原告の文章を安易に参考にしたことが伺われますが、一般不法行為の成立を認めるほどの違法性は認められませんでした。
--------------------
■参考判例
ウェブサイト上の著作物の著作物性について、
遮熱断熱材写真事件判決文PDF
東京地裁平成20年6月26日平成19(ワ)17832不正競争行為差止等請求事件
スメルゲット事件判決文PDF
知財高裁平成18年3月29日平成17年(ネ)第10094号請負代金請求控訴事件
ヨミウリオンライン事件判決文PDF
知財高裁平成17年10月6日平成17(ネ)10049著作権侵害差止等請求控訴事件
転職情報事件判決文PDF
東京地裁平成15年10月22日平成15(ワ)3188著作権侵害差止等請求事件
ホテルジャンキーズ事件判決文PDF
東京高裁平成14年10月29日平成14(ネ)2887著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件
--------------------
■参考サイト
原告サービス
データ復旧の【データSOS】HDD・ハードディスク・RAID復旧・修復サービス−東京・秋葉原