最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
SARVH対東芝私的録画補償金事件
東京地裁平成22年12月27日判決平成21(ワ)40387損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 石神有吾
*裁判所サイト公表 2011.1.7
*キーワード:私的録画補償金、特定機器、協力義務、法律の委任、コピーコントロール
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■事案
私的録画補償金徴収の対象となる機器の特定と製造業者の協力義務の内容が争点となった事案
原告:社団法人私的録画補償金管理協会(SARVH)
被告:株式会社東芝
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法30条2項、施行令1条2項3号、104条の5、民法709条
1 被告各製品の特定機器該当性
2 法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無
3 被告による不法行為の成否
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■事案の概要
『本件は,著作権法30条2項の補償金(以下「私的録音録画補償金」という。)のうち私的使用を目的として行われる「録画」に係るもの(以下「私的録画補償金」という。)を受ける権利をその権利者のために行使することを目的とする指定管理団体である原告が,別紙製品目録1ないし5記載の各DVD録画機器(以下,それぞれを「被告製品1」,「被告製品2」などといい,これらを総称して「被告各製品」という。)を製造,販売する被告に対し,被告各製品は同法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(以下「特定機器」という。)に該当するため,被告は,同法104条の5の規定する製造業者等の協力義務として,被告各製品を販売するに当たって,その購入者から被告各製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して原告に支払うべき法律上の義務があるのにこれを履行していないなどと主張し,上記協力義務の履行として,又は上記協力義務違反等の不法行為による損害賠償として,被告各製品に係る私的録画補償金相当額1億4688万5550円及び遅延損害金の支払を求めた事案』(判決文PDF1頁以下)
<経緯>
2006年1月 著作権分科会報告書 補償金制度の抜本的な検討答申
2007年12月 私的録音録画小委員会で文化庁が「20XX年モデル」提案
2008年6月 文科省、経産省「ダビング10」両省合意
2009年2月 ブルーレイ課金検討開始
2009年5月 改正著作権法施行令、施行規則施行
2009年9月 SARVHが文化庁へ照会
JEITAが文化庁へ照会
2009年11月 本件提訴
被告製品
製品名:VARDIA(ヴァルディア)RD−E303等
DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
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■判決内容
<争点>
1 被告各製品の特定機器該当性
被告のDVDハイビジョン録画機器(アナログ放送対応チューナーなし)5点について、録画補償金の対象となる特定機器かどうかがまず争点となっています(60頁以下)。
この点について、裁判所は、著作権法30条2項が具体的な機器の指定を政令への委任事項とした趣旨(客観的、一義的な技術的事項による特定の必要)から政令の文言の文理解釈を重視。施行令1条2項柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義について、「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと判断。
その上で、被告製品5点について、いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当すると判断しています。
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2 法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無
著作権法104条の5に規定される私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力義務について、被告側はこの協力規定は訓示規定であって製造業者等に具体的な法的義務を課したものではないと反論しました(77頁以下)。
裁判所は、「協力」の用語例や文理解釈、立法者意思などから法律上の具体的な義務ではなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務であると判断。結論として被告が原告に対して104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額の金銭の支払義務を負うものと認めることはできないと判断しています。
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3 被告による不法行為の成否
(1)協力義務違反による原告の利用者に対する補償金請求権の侵害性、(2)被告各製品の販売による原告の補償金請求権の侵害性について、いずれも不法行為は成立しないと判断されています(89頁以下)。
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■コメント
行政の交渉や議論の場で決着が付かない事象については、司法の場で決着を付けるという流れの著作権法制での一つの表れとして記憶される事案かと思います。
判決内容の詳しくは、企業法務戦士の雑感さんの記事「予想を超えた判決〜東芝録画補償金支払請求事件」をご覧戴けたらと思います。
前編
後編
以下、少し長めの参考文献からの引用になりますが、協力義務に関する争点は、補償金を業者が負担するのか、利用者が負担するのかという補償金の制度設計に関わるもので、根が深い問題です。
利用者負担を前提とするとしても、ダビング10導入と著作権者等の許諾の有無といった問題についてどう考えるべきか、検討すべき課題は残されます。
「これらの業者は複製を行っているわけではないため,業者に直接支払義務を課すことはせず,協力義務を課しているだけであるが,現実には業者が商品に補償金額を上乗せして販売し,その金額を指定管理団体に支払うことになる。・・・ただ,製造業者等には協力義務があるだけであり,違反に対するサンクションはないため(間接侵害については別論である),事実上全業者が拒否をしないという前提あるいは合意の上に成立しており,極めてもろいガラス細工のような制度である。」
中山信弘『著作権法』(2007)249頁
「仮に製造業者に支払義務を課したとしても,コストを消費者に転嫁すれば同じことと捉えられがちであるが,著作物の複製利用に対して,誰がどのような理由により法的責任を負うべきであるのかという制度の理念に関わる問題を孕んでいると言える。」
作花文雄『詳細著作権法第四版』(2010)319頁
ところで、インターネットユーザー協会(MIAU)から声を掛けて頂いて1月23日、ニコ生放送【MIAU Presentsネットの羅針盤】「徹底解説!私的録画補償金」(【出演】津田大介(メディアジャーナリスト・MIAU代表理事)西田宗千佳(家電ジャーナリスト)小寺信良(コラムニスト・MIAU代表理事)の各氏)に参加させていただきましたが、AV機器の識者である小寺さんほか皆さんからDRM開発のコストがどれだけ重いものであるのか、コピーコントロールの意味合いについてお話しが伺えたのが印象に残りました。こういう点は、判決文を読んだだけでは感銘力が低く、伝わって来難いものとなります(被告側の「二重の負担」論)。
生放送中にアンケートが行われましたが、「(無料番組には)DRMを掛けない代わりに応分の補償金を負担するようにすべき」との意見が実に8割に及びました。視聴数2万5千を超える中での結果で、ユーザーがこの見解に賛成しているというのはもはや明確で、行政や権利者、関係企業、団体は今後どう対応していくか、事は東芝だけの話ではなく、補償金制度のあり方を含めより良いデジタルコンテンツ利用環境の整備に向けて早期の決断が迫られています。
アンケート:補償金制度とDRM、これからどうすれば?
1.現状のまま2.5%
2.補償金廃止DRM残す16.6%
3.DRM廃止補償金残す80.9%
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■参考文献
加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(2006)612頁
小寺信良『徹底解説!私的録画補償金』資料(2011)
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■参考サイト
SARVH 社団法人私的録画補償金管理協会
東芝プレスリリース(2009年11月11日)
私的録画補償金に関する当社の対応について
Togetter−MIAU Presentsネットの羅針盤「徹底解説!私的録画補償金
SARVH対東芝私的録画補償金事件
東京地裁平成22年12月27日判決平成21(ワ)40387損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 石神有吾
*裁判所サイト公表 2011.1.7
*キーワード:私的録画補償金、特定機器、協力義務、法律の委任、コピーコントロール
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■事案
私的録画補償金徴収の対象となる機器の特定と製造業者の協力義務の内容が争点となった事案
原告:社団法人私的録画補償金管理協会(SARVH)
被告:株式会社東芝
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法30条2項、施行令1条2項3号、104条の5、民法709条
1 被告各製品の特定機器該当性
2 法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無
3 被告による不法行為の成否
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■事案の概要
『本件は,著作権法30条2項の補償金(以下「私的録音録画補償金」という。)のうち私的使用を目的として行われる「録画」に係るもの(以下「私的録画補償金」という。)を受ける権利をその権利者のために行使することを目的とする指定管理団体である原告が,別紙製品目録1ないし5記載の各DVD録画機器(以下,それぞれを「被告製品1」,「被告製品2」などといい,これらを総称して「被告各製品」という。)を製造,販売する被告に対し,被告各製品は同法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(以下「特定機器」という。)に該当するため,被告は,同法104条の5の規定する製造業者等の協力義務として,被告各製品を販売するに当たって,その購入者から被告各製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して原告に支払うべき法律上の義務があるのにこれを履行していないなどと主張し,上記協力義務の履行として,又は上記協力義務違反等の不法行為による損害賠償として,被告各製品に係る私的録画補償金相当額1億4688万5550円及び遅延損害金の支払を求めた事案』(判決文PDF1頁以下)
<経緯>
2006年1月 著作権分科会報告書 補償金制度の抜本的な検討答申
2007年12月 私的録音録画小委員会で文化庁が「20XX年モデル」提案
2008年6月 文科省、経産省「ダビング10」両省合意
2009年2月 ブルーレイ課金検討開始
2009年5月 改正著作権法施行令、施行規則施行
2009年9月 SARVHが文化庁へ照会
JEITAが文化庁へ照会
2009年11月 本件提訴
被告製品
製品名:VARDIA(ヴァルディア)RD−E303等
DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
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■判決内容
<争点>
1 被告各製品の特定機器該当性
被告のDVDハイビジョン録画機器(アナログ放送対応チューナーなし)5点について、録画補償金の対象となる特定機器かどうかがまず争点となっています(60頁以下)。
この点について、裁判所は、著作権法30条2項が具体的な機器の指定を政令への委任事項とした趣旨(客観的、一義的な技術的事項による特定の必要)から政令の文言の文理解釈を重視。施行令1条2項柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義について、「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと判断。
その上で、被告製品5点について、いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当すると判断しています。
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2 法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無
著作権法104条の5に規定される私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力義務について、被告側はこの協力規定は訓示規定であって製造業者等に具体的な法的義務を課したものではないと反論しました(77頁以下)。
裁判所は、「協力」の用語例や文理解釈、立法者意思などから法律上の具体的な義務ではなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務であると判断。結論として被告が原告に対して104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額の金銭の支払義務を負うものと認めることはできないと判断しています。
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3 被告による不法行為の成否
(1)協力義務違反による原告の利用者に対する補償金請求権の侵害性、(2)被告各製品の販売による原告の補償金請求権の侵害性について、いずれも不法行為は成立しないと判断されています(89頁以下)。
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■コメント
行政の交渉や議論の場で決着が付かない事象については、司法の場で決着を付けるという流れの著作権法制での一つの表れとして記憶される事案かと思います。
判決内容の詳しくは、企業法務戦士の雑感さんの記事「予想を超えた判決〜東芝録画補償金支払請求事件」をご覧戴けたらと思います。
前編
後編
以下、少し長めの参考文献からの引用になりますが、協力義務に関する争点は、補償金を業者が負担するのか、利用者が負担するのかという補償金の制度設計に関わるもので、根が深い問題です。
利用者負担を前提とするとしても、ダビング10導入と著作権者等の許諾の有無といった問題についてどう考えるべきか、検討すべき課題は残されます。
「これらの業者は複製を行っているわけではないため,業者に直接支払義務を課すことはせず,協力義務を課しているだけであるが,現実には業者が商品に補償金額を上乗せして販売し,その金額を指定管理団体に支払うことになる。・・・ただ,製造業者等には協力義務があるだけであり,違反に対するサンクションはないため(間接侵害については別論である),事実上全業者が拒否をしないという前提あるいは合意の上に成立しており,極めてもろいガラス細工のような制度である。」
中山信弘『著作権法』(2007)249頁
「仮に製造業者に支払義務を課したとしても,コストを消費者に転嫁すれば同じことと捉えられがちであるが,著作物の複製利用に対して,誰がどのような理由により法的責任を負うべきであるのかという制度の理念に関わる問題を孕んでいると言える。」
作花文雄『詳細著作権法第四版』(2010)319頁
ところで、インターネットユーザー協会(MIAU)から声を掛けて頂いて1月23日、ニコ生放送【MIAU Presentsネットの羅針盤】「徹底解説!私的録画補償金」(【出演】津田大介(メディアジャーナリスト・MIAU代表理事)西田宗千佳(家電ジャーナリスト)小寺信良(コラムニスト・MIAU代表理事)の各氏)に参加させていただきましたが、AV機器の識者である小寺さんほか皆さんからDRM開発のコストがどれだけ重いものであるのか、コピーコントロールの意味合いについてお話しが伺えたのが印象に残りました。こういう点は、判決文を読んだだけでは感銘力が低く、伝わって来難いものとなります(被告側の「二重の負担」論)。
生放送中にアンケートが行われましたが、「(無料番組には)DRMを掛けない代わりに応分の補償金を負担するようにすべき」との意見が実に8割に及びました。視聴数2万5千を超える中での結果で、ユーザーがこの見解に賛成しているというのはもはや明確で、行政や権利者、関係企業、団体は今後どう対応していくか、事は東芝だけの話ではなく、補償金制度のあり方を含めより良いデジタルコンテンツ利用環境の整備に向けて早期の決断が迫られています。
アンケート:補償金制度とDRM、これからどうすれば?
1.現状のまま2.5%
2.補償金廃止DRM残す16.6%
3.DRM廃止補償金残す80.9%
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■参考文献
加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(2006)612頁
小寺信良『徹底解説!私的録画補償金』資料(2011)
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■参考サイト
SARVH 社団法人私的録画補償金管理協会
東芝プレスリリース(2009年11月11日)
私的録画補償金に関する当社の対応について
Togetter−MIAU Presentsネットの羅針盤「徹底解説!私的録画補償金