最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パンドラTV事件控訴審

知財高裁平成22.9.8平成21(ネ)10078著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2010.9.10
*キーワード:侵害主体性、カラオケ法理、信義誠実の原則、プロバイダ責任制限法、損害論

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■事案

動画投稿・共有サイトの違法主体性が争われた事案の控訴審

原告(被控訴人):JASRAC
被告(控訴人) :株式会社パンドラTV(旧商号)
           代表取締役X

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、23条、114条の5、プロバイダ責任制限法3条、著作権等管理事業法16条、民法1条2項


1 侵害行為の主体性
2 控訴人会社の損害賠償責任の有無
3 控訴人Xについての不法行為の成否
4 損害額


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■事案の概要

「音楽著作物の著作権等管理事業者である被控訴人が,動画投稿・共有サイトを運営する控訴人会社(旧商号・株式会社パンドラTV)が,運営主体となって提供する本件サービスにおいて,控訴人会社が開設した本件サイトのサーバに,各ユーザが投稿した被控訴人の管理する本件管理著作物の複製物を含む動画ファイルを蔵置し,これを各ユーザに送信していることが,本件管理著作物の著作権(複製権及び公衆送信権(送信可能化を含む。)を侵害し,かつ,不法行為が成立すると主張して,(1)控訴人会社に対しては,著作権(複製権及び公衆送信権(送信可能化を含む。))に基づいて,本件管理著作物を,本件サーバの記憶媒体に複製し又は公衆送信することの差止めを求めるとともに,(2)控訴人会社及びその代表者である控訴人Xに対しては,不法行為(著作権侵害)に基づいて,過去の侵害に対する損害賠償金及びこれに対する遅延損害金並びに将来の侵害に対する損害賠償金の連帯支払を求める事案」(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 侵害行為の主体性

控訴人会社(代表取締役X)は、動画投稿・共有サイト「パンドラTV」(その後「TVブレイク」)を開設、動画配信サービスを運営していましたが、ユーザのアップロードした動画ファイルにジャスラック(日本音楽著作権協会)が管理する音楽著作物が多数含まれていたことから、管理著作物の複製権、公衆送信権侵害性が争点となりました。
外形的には複製又は送信可能化をユーザが行っていることから、控訴人会社が直接関与していないとして侵害行為の主体性が争点となりました(23頁以下)。

結論としては、原審同様、控訴人会社の著作権侵害主体性を認め、控訴人会社に対する複製又は公衆送信の差止請求を肯定しています。

なお、控訴人会社は、控訴審で新たな補充主張として『本件サービスと同様のサービスを提供している事業者に対しては,適法な事業と認めて許諾契約を締結しながら,控訴人会社に対しては,明らかに不当な条件を提示し,契約を拒んだ』などとして著作権等管理事業法16条(利用の許諾の拒否の制限)、民法1条2項の観点から反論を展開しましたが、裁判所に容れられていません(28頁以下)。

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2 控訴人会社の損害賠償責任の有無

原審同様、控訴人会社の著作権侵害主体性、発信者性(プロバイダ責任制限法3条1項)が肯定され損害賠償責任が肯定されています(32頁以下)。

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3 控訴人Xについての不法行為の成否

原審同様、控訴人会社代表取締役Xは著作権侵害行為の主体と評価されています(34頁)。

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4 損害額

原審同様、8993万円余りの損害額が認定されています(34頁以下)。

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■コメント

原判決維持の判断となっています。

ところで、ツイッターに被告側の意見が述べられていました(ジャストオンライン株式会社)。

「対JASRACの裁判も、2008年8月からなので、丸2年が経った。サービス始めた当初、国内には決まりが無かった。JASRACが包括契約を出したのは、1年後。契約を断った事もない。削除要求を断った事もない。他の動画サービスと違うのは、数千万円以上の上納金を納めなかった事だ。 」
「金払えば見逃してやる。というのがJASRACのやり方。こんなんで資金のない企業が新しいチャレンジできるか。「儲かったらよこせ」というのならば筋は通る。そりゃ、払いますよ。「金払えば見逃してやる」というのは強いものには弱く弱いものに強いだけだ。 」
(2010.9.9)

「対JASRAC裁判。上告するなら2週間以内。次は最高裁か。どうしよう。損害賠償金額によって印紙代が決まるんだけど、損害賠償金額が9,000万円ってバカ高い金額ゆえに、印紙代も高いわ。 」
「上告しないと、Webサイト運営会社が全責任を負うって事が確定する。個人の情報発信を提供するWebサービスが主流になっていく中で、全コンテンツについて掲載の良し悪しをWebサイトが判断できるものなのだろうか。アーティスト自身が音楽のプロモーションを行う事すら出来ないじゃないか。 」
「インディーズのアーティストや作品は、それが、どこの著作権に抵触しているのかさえ、Webサイト側は分からんよ。レコード会社がアップした所属インディーズアーティストのビデオとか。有名じゃないから配信したいのに、JASRACと契約しても投稿サイトに流せないのだからメリットない。 」
「JASRACと契約しても動画投稿サイトはオリジナル音源の配信は認められていない。 JASRACにまとまった金を払えば、包括契約が出来てオリジナル音源の配信も目をつぶってもらえる。やっぱり、これっておかしいよな。 」
(2010.9.10)

発言の趣旨が不明の部分もありますが、「新しいことをやっていきたかった」との思いは伝わってきます。
ただ、そうした新規ビジネスもジャスラックなど著作権管理団体との権利処理が前提であることは自明のことで、被告側も交渉や提案を重ねる努力を続けていましたが、折り合いが付きませんでした。

控訴審では著作権等管理事業法の観点からの反論も被告によりされましたが(4頁以下)、被告の動画投稿サイトでのジャスラック管理著作物の著作権侵害率が控えめに見積もっても5割(30頁、33頁)という事実を前にして、控訴審でも被告側有責の判断を覆すまでには至りませんでした。

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■過去のブログ記事

原審記事(2009.12.19)パンドラTV事件

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■参考サイト

ジャスラックプレスリリース(2010年9月8日)
動画投稿(共有)サイトにおける著作権侵害 控訴審においても侵害差止めと損害賠償請求を認容