最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

北見工業大学共同研究報告書職務著作事件(控訴審)

知財高裁平成22.8.4平成22(ネ)10029著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

*裁判所サイト公表 2010.8.6
*キーワード:職務著作、創作性、一般不法行為性

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■事案

環境調査に関する産学共同研究報告書の職務著作(法人著作)性、一般不法行為性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :北見工業大学 准教授
被告(被控訴人):北見工業大学

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、2条1項1号、民法709条

1 著作権及び著作者人格権に基づく請求
2 不法行為に基づく請求

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■事案の概要

『被控訴人が,原判決別紙研究報告書目録記載4ないし6の本件各平成16年度報告書及び同目録記載7ないし9の本件各平成17年度報告書を作成させ,「国立大学法人北見工業大学」の名義で印刷発行し,北見市等へ頒布した行為について,控訴人が,(1)控訴人が同目録記載1ないし3の本件各平成15年度報告書に関する著作権及び著作者人格権を有し,被控訴人の上記行為が控訴人の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する行為である旨主張して,被控訴人に対し,著作権法112条1項,2項に基づき,同目録記載4ないし9の各研究報告書の発行又は頒布の差止め並びに廃棄を求め,併せて,民法709条に基づき,著作者人格権(同一性保持権)侵害による損害賠償として1100万円(慰謝料1000万円及び弁護士費用相当損害金100万円)の支払を求め,(2)予備的に,本件各平成15年度報告書に著作物性が認められないとしても,被控訴人の上記行為は著しく反社会的な行為であり,不法行為を構成すると主張して,民法709条に基づき,損害賠償として1100万円の支払を求める事案』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 著作権及び著作者人格権に基づく請求

原審同様、本件各平成15年度報告書について被告大学側に法人著作(著作権法15条1項)の成立が肯定されており、原告の著作権及び著作者人格権に基づく請求は認められていません(21頁以下)。

なお、「付言」として、本件各平成15年度報告書の原判決別紙研究報告書対照表(1)ないし(3)記載の各部分の対比に関して、事象や用語等についての説明などであって、ありふれた説明にすぎない(2条1項1号)として、この点からも複製権侵害や同一性保持権侵害の対象とはならないと判断しています(29頁)。

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2 不法行為に基づく請求

原審同様、被告の報告書の作成頒布行為について、一般不法行為(民法709条)を基礎付ける違法性があるとは認められていません(29頁)。

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■コメント

原審同様、研究報告書の作成頒布行為の著作権侵害、一般不法行為の成立が否定された結果となっています。
原告研究者側は、大学の研究者が有する学問の自由の保障の観点から職務著作の適用についてより慎重かつ厳格な検討が要請されると原審と同じく主張しましたが、控訴審裁判所でも容れられていません。

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■過去のブログ記事

原審の記事(2010年2月26日)
北見工業大学共同研究報告書職務著作事件

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■追記2010.8.17

企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財]大学における研究活動と職務著作(上)(2010.8.12付)
[企業法務][知財]大学における研究活動と職務著作(下)(2010.8.14付)