2010年7月23日刊行の本書は、グラフィックデザイナー鈴木成一さんが制作されたブックデザインについて作品毎(120冊分)にコメントを付したものです(本文237頁)。2008年に首都大学東京で行われた講演の内容(「人を惹きつける本−鈴木成一、「装丁」を語る」)を加筆、再構成されたものとなっています。

装丁を語る。
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ブックデザインを作品毎に解説していて、制作者の意図がとても分かり易く伝わる構成です。まるで美術展覧会のカタログのようで観て眺めても楽しい作りとなっています。
もっとも、ブックデザインをする編プロさんともつきあいがありますが、編集の、しかもカバーデザインの予算枠には厳しいものがあると聞いていますので、鈴木さんのような手の込んだデザイン制作は、部数の出ない書籍にはちょっと無理かもしれません。

「装丁には正解がある」(3頁)と明解に語る鈴木さん。書店に置かれたときに手に取って購入してもらうという意味では、まさしくその通りで「売れるためのブックデザイン」ということはあるかもしれません。

ただ、装丁の世界も広くて、横尾忠則さんの装丁もかなり飛んでましたし(笑)、特装本ともなれば、書籍の著者そっちのけですので、正解はない世界になります。

わたしの伯父は、戦後からプレスビブリオマーヌを主催して特装本を制作していましたが、見せて貰う箱入り総革製での装丁の書籍は、それだけで1個の独立した美術品でした。

たとえば、最近のものでは、佐々木桔梗「日本の肉筆絵入り本・北園克衛を中心に」(書肆ひやね 装丁:大家利夫)限定30部 天金 カーフ革製 裏表紙リトグラフ入り 布+ベルベット製箱付(写真のもの)があります。
kitazono
わたしの手元にあるのは、限定300部のほうです(天金 表紙用紙ヴァンヌーボー135Kg 色付トレシングペーパー(薄黄色)付)。

電子出版元年と位置付けてもおかしくない2010年ですが、紙媒体が残る限り装丁の価値は電子書籍全盛の時代でも生き続けることでしょう。


いずれにしても、「装丁を語る。」手元に置いておきたい1冊です。