最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「シルバーヴィラ」商標権侵害事件

東京地裁平成22.7.16平成20(ワ)19774商標権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎

*裁判所サイト公表 2010.7.26
*キーワード:営業主体誤認混同行為、先使用権、慣用商標、権利濫用

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■事案

老人介護施設の名称を巡って標章の周知性、先使用、慣用商標(普通名称)性などが争点となった事案

原告:有料老人ホーム経営会社
被告:介護施設運営医療法人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、19条1項1号、3号、商標法32条、26条1項4号、民法1条3項

1 商標権侵害:原告登録商標と被告各標章の類否
2 商標権侵害:指定役務との類似性
3 商標権侵害:先使用(商標法32条)の成否
4 商標権侵害:原告登録商標が慣用商標といえるか
5 商標権侵害:被告の過失
6 不正競争防止法違反:原告標章の周知性
7 不正競争防止法:原告登録商標と被告各標章の類否
8 不正競争防止法:誤認混同のおそれの有無
9 不正競争防止法:営業上の利益の侵害の有無
10 不正競争防止法:先使用(19条1項3号)の成否
11 不正競争防止法:原告登録商標が慣用商標といえるか
12 原告の請求が権利の濫用にあたるか
13 差止請求について
14 損害賠償請求について

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■事案の概要

『登録商標を「シルバーヴィラ」とする商標権を有し,かつ,「シルバーヴィラ向山」との名称の老人ホームを運営する原告が,「シルバーヴィラ揖保川」及び「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」(以下,これらを併せて「被告各標章」という。)の名称で介護保険に係る施設を開設・運営する被告に対し,(1)被告各標章の使用は,原告の商標権を侵害し,又は侵害するとみなされる(商標法37条1号)として,商標法36条に基づく「シルバーヴィラ」の標章の使用の差止め並びに民法709条及び商標法38条3項に基づく損害賠償金1160万3280円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年8月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(2)被告各標章の使用は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号に該当するとして,不競法3条に基づく「シルバーヴィラ」の標章の使用差止め(商標権に基づく「シルバーヴィラ」の標章の使用差止めと選択的併合)を求める事案』(2頁)

<経緯>

S56 原告が有料老人ホーム「シルバーヴィラ向山」営業
H9  被告が介護老人保健施設「シルバーヴィラ揖保川」開設
H12 原告が「シルバーヴィラ」(標準文字)商標出願、登録(4921381号)

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■判決内容

<争点>

1 商標権侵害:原告登録商標と被告各標章の類否
2 商標権侵害:指定役務との類似性
3 商標権侵害:先使用(商標法32条)の成否
4 商標権侵害:原告登録商標が慣用商標といえるか
5 商標権侵害:被告の過失

商標権侵害の各論点について、結論としては、商標権侵害が肯定されています(24頁以下)。
なお、過失については、原告商標権に係る商標公報発行日である平成18年2月14日以降であると認定されています(35頁以下)。

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6 不正競争防止法違反:原告標章の周知性

不正競争防止法2条1項1号(営業主体誤認混同行為性)該当性について、まず周知性の成否が検討されています。
原告が昭和56年以降、東京都練馬区で原告施設を運営し、新聞記事、雑誌記事等に取り上げられ、都市型老人ホームの草分け的存在等として紹介されていることなどから、被告が「シルバーヴィラ揖保川」を開設決定した平成8年7月よりも前に全国の需要者の間に広く認識されていたと判断されています(36頁以下)。

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7 不正競争防止法:原告登録商標と被告各標章の類否

原告登録商標と被告各標章の類否について、日本ウーマン・パワー事件(最高裁昭和58年10月7日判決)に言及した上で、原告標章の要部を「シルバーヴィラ」と認め、被告各標章と対比。結論として類似性を肯定しています(42頁以下)。

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8 不正競争防止法:誤認混同のおそれの有無

両施設とも老人の養護に関する役務を提供していることから、両施設の運営主体に営業上の関係が存するものと誤信させるものと認められています(44頁以下)。

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9 不正競争防止法:営業上の利益の侵害の有無

営業上の利益の侵害性について、被告は入所者の居住地域の違いなどがあることを理由に侵害性がないと反論していました。しかし、原告施設が全国的に周知と認められ、東京近郊の居住者に入居者が限定されるということはできない等として侵害性(少なくともそのおそれ)が肯定されています(46頁以下)。

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10 不正競争防止法:先使用(19条1項3号)の成否

被告が被告各標章の使用を開始した時期は平成9年4月であり、それ以前から原告標章は周知性を獲得していたとして、先使用(19条1項3号)該当性が否定されています(47頁以下)。

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11 不正競争防止法:原告登録商標が慣用商標といえるか

「シルバーヴィラ」が使用された例が全国でも7件にすぎないこと、原告は「シルバーヴィラ」標章を使用している介護老人保険施設等に対してその使用の中止を求める等しており、自他役務識別標識としての機能が希釈化して、慣用商標化しているとは認めることはできないと判断しています(35頁、48頁)。

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12 原告の請求が権利の濫用にあたるか

被告は原告の主張を権利濫用であると反論していますが、裁判所に容れられていません(48頁以下)。

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13 差止請求について

商標法36条1項、不正競争防止法3条1項に基づく被告各標章の使用の差止請求が認められています(50頁以下)。

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14 損害賠償請求について

原告は、商標権侵害に限定して商標法38条3項の規定による使用料相当額の損害賠償を請求しています(52頁以下)。
結論としては、被告各施設の売上額の0.5%を原告登録商標の使用料相当額と認定しています(576万7557円)。

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■コメント

「シルバーヴィラ」というと、介護施設にありがちで、普通名称のような印象ですが、そうではないとの裁判所の判断がされています。