最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「入門漢方医学」書籍表紙デザイン翻案事件

東京地裁平成22.7.8平成21(ワ)23051著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2010.7.26
*キーワード:創作性、応用美術、複製権、翻案権、同一性保持権、出版社の責任

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■事案

医学書の表紙デザインの翻案や同一性保持権侵害の成否が争点となった事案

原告:医学専門図書出版社
被告:医学専門図書出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、20条、114条3項、115条、118条1項

1 原告図版は著作権法上の著作物か
2 被告図版は原告図版を複製又は翻案したものか
3 著作者人格権侵害の成否
4 被告の故意・過失の有無
5 差止請求の可否
6 損害論
7 謝罪広告の要否

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■事案の概要

『原告が,被告書籍の表紙に用いられた被告図版は原告図版のデザインを無断で複製又は翻案,改変したものであるなどと主張して,被告に対し,(1)著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)に基づき,被告図版を表紙に用いて被告書籍を印刷,出版,販売,頒布することの差止め,(2)著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償として,760万1134円(著作権侵害について460万1134円,著作者人格権侵害について300万円)及びこれに対する不法行為の後である平成21年7月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(3)著作権法115条又は民法723条に基づき,名誉又は声望を回復するための適当な措置として別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H14.12 原告書籍発行
H20.12 被告書籍発行
H21.2  原告が被告に内容証明書通知、被告が回答
H21.5  原告が仮処分申立て、差止め仮処分決定
        原告が間接強制申立て、申立て認容
H21.6  被告が在庫50冊の表紙を廃棄

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■判決内容

<争点>

1 原告図版は著作権法上の著作物か

まず、原告書籍表紙デザインの著作物性(著作権法2条1項1号)が争点となっています(19条)。
この点について裁判所は、

原告図版は,単に,正方形と線(縦棒,横棒)を漫然と並べたにすぎないものではなく,(1)大小の正方形及び太さの異なる縦横の棒の配置ないし配色,(2)書名,編者名及び出版社名の配置,字体ないし文字の大きさ,(3)小さな正方形に描かれた木の葉や木の実等のイラスト,そこにちりばめられた丸い粒など,の具体的な表現方法において,制作者であるaの思想又は感情が創作的に表現されたものであると認められる』(21頁)

として、その著作物性を肯定しています。
なお、被告は、原告図版が書籍の表紙デザインとして用いられることから、応用美術であるとして反論していましたが、裁判所は純粋美術に当たるとして、被告の反論を容れていません。

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2 被告図版は原告図版を複製又は翻案したものか

次に、原告図版と被告図版の対比からその相違点、類否を検討しています(21頁以下)。
裁判所は、被告図版は原告図版の表現上の本質的な特徴といえる図形等の選択ないし配置の同一性を維持しながら、具体的な図形の形等の表記に変更を加えて、新たに被告図版の制作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり、これに接する者が原告図版の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると判断。
結論として、被告図版の原告図版への依拠性を前提に翻案権(27条)侵害性を肯定しています。

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3 著作者人格権侵害の成否

原告図版は外注会社によって制作されていましたが(原告図版の制作者の名前は公表されていない)、原告はその後外注先から図版に関する著作権の譲渡を受けていました。原告図版の著作者人格権に関する侵害の点については、原告が書籍の発行者として118条1項(無名又は変名の著作物に係る権利の保全)に基づいて主張しています(25頁以下)。
結論として、外注先の著作者人格権(20条1項 同一性保持権)を侵害していると判断されています。

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4 被告の故意・過失の有無

原告からの内容証明郵便による警告後の被告の書籍販売について、少なくとも被告に過失があると判断されています(26頁以下)。
また、内容証明郵便到達以前の被告の販売行為等についても、表紙のデザインについて被告は組版業者に外注していたところ、図版作成経緯等について調査を行うことなく販売等をしているとして、少なくとも過失があると判断されています。

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5 差止請求の可否

被告図版の表紙のままでの被告書籍の印刷、出版、販売、頒布の差止めの必要が認められています(28頁以下)。

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6 損害論

財産的損害として、15万円(114条3項 使用料相当額)、著作者人格権侵害に関する慰謝料として30万円、弁護士費用として5万円が損害として認定されています(29頁以下)。

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7 謝罪広告の要否

謝罪広告の要否について、被告の侵害行為により図版外注先及び原告の名誉、声望・信用が毀損されたと認めることはできないとして、謝罪広告の必要性は否定されています(32頁以下)。

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■コメント

原告サイトに問題となった書籍図版が掲載されています。

nyumonkanpou

nyumonnshika

(上が原告書籍、下が被告書籍 後掲原告サイトより)

被告出版社は、書籍表紙のデザインを外注していましたが、図版作成の経緯等を調査していなかったとして出版社としての注意義務違反を問われる結果となっています。

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■参考サイト

株式会社南江堂プレスリリース(平成21年6月1日)
ブレーン出版の「入門歯科東洋医学」に出版差止の仮処分命令が発令

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■最近の出版社の過失を巡る事案

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