最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「サーキットの狼」DVD事件

東京地裁平成22.7.16平成21(ワ)3188損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2010.7.20
*キーワード:ライセンス契約、ワンチャンス主義、製作請負契約

   --------------------

■事案

テレビ番組のDVD商品化許諾を巡って下請製作会社と著作権管理会社との間で争われた事案

原告:テレビ番組製作下請会社、ナレーション実演家
被告:映像製作会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 民法415条、709条、著作権法91条2項

1 原告会社の請求(請負代金の追加請求)
2 原告Xの請求(出演料の追加請求等)
3 口頭弁論終結後の準備書面について

   --------------------

■事案の概要

『漫画「サーキットの狼」を題材にしたテレビ番組の製作業務の下請をした原告株式会社てんこもり(以下「原告会社」という。)及び同テレビ番組でナレーションの実演を行った原告X(以下「原告X」という。)が,同テレビ番組がDVD化されることについての承諾をしていないのに,同テレビ番組製作の発注者である株式会社ジャパンイメージコミュニケーションズ(以下「JIC」という。)から同テレビ番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利(サブライセンス権)の設定(許諾)を受けた被告が,株式会社交通タイムス社(以下「交通タイムス社」という。)に同テレビ番組のDVD化を許諾するライセンス契約を締結し,交通タイムス社を通じて同番組のDVDを製作販売したなどと主張し,被告に対し,原告会社においては同テレビ番組の製作業務に関する追加の請負代金として105万円の支払を,原告Xにおいては同テレビ番組の追加の出演料として315万円及び上記実演に係る実演家の録音権(著作権法91条1項)侵害の不法行為による損害賠償として315万円の合計630万円の支払を求めた事案』(1頁以下)

<経緯>

H18.4 JICとソニアがテレビ番組製作請負契約締結
       ソニアとディハウスボスが番組製作請負契約締結
       ディハウスボスと原告会社が番組製作請負契約締結
       原告会社が納品
H18.11JICと被告がDVDライセンス契約締結
       被告と交通タイムス社がDVD付録販売ライセンス契約締結
H19.3 交通タイムス社が書籍12冊に付録DVDを添付して販売

池沢早人師(漫画家)
 ↓
被告会社(版権管理)→交通タイムス社(DVD付録販売ライセンス)
 ↓ ↑
(番組利用ライセンス、DVD利用ライセンス)
 ↓ ↑
JIC(ケーブルTV番組運営会社)
 ↓
(番組製作下請け)
 ↓
ソニア→ディハウスボス→原告会社

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告会社の請求(請負代金の追加請求)

原告会社は、被告に対してDVD製造販売に関して請負代金の追加請求を主張しましたが、原被告間に番組製作請負契約など債務負担の原因となり得る特段の事実が認められず、原告の主張は容れられていません(10頁以下)。

   ------------------------------------

2 原告Xの請求(出演料の追加請求等)

番組のナレーションを担当した原告Xは、DVD製造販売に関して追加の出演料を請求しましたが、Xと被告の間に出演契約など債務負担の原因となる特段の事実が認められず、Xの主張は容れられていません(11頁以下)。
また、実演家の録音権(著作権法91条1項)の侵害による損害賠償請求についても、DVDの録音行為、製作、販売をしたのは、被告ではなく交通タイムス社であるとして、Xの主張は認められていません。

   ------------------------------------

3 口頭弁論終結後の準備書面について

原告らが口頭弁論終結後に提出した準備書面記載の内容について、原告Xの録音権や人格権の侵害、また原告会社に対する被告会社の下請け会社らとの共同不法行為が主張されましたが、いずれも裁判所に容れられていません(14頁以下)。

   --------------------

■コメント

原告が口頭弁論終結後に訴訟代理人弁護士を選任して新たに準備書面が提出されるといった経緯もありますが、契約関係などについて十分な検討が加えられた原告側の争点内容となっておらず残念な事案です。

なお、テレビ番組のナレーションを担当した実演家(原告X)については、ワンチャンス主義(著作権法91条2項)が適用されれば収録されたテレビ番組のDVD化については、後から文句が言える立場ではないことになります。もっとも、劇場用映画以外にテレビ放送番組もワンチャンス主義の適用範囲に含まれるか解釈論的に争点となり得るところです(後掲コンメンタール14頁以下)。

余談ですが、私が小学生の頃はスーパーカーブームで、池沢さとしさんの「サーキットの狼」は愛読した漫画。読売ランドで開催された「サーキットの狼」関連イベントでスーパーカー試乗抽選があって、私はハズれて一緒に行った友達がポルシェ911カレラに同乗できて、悔しい思いをした懐かしい記憶があります。

   --------------------

■参考文献

半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール3』(2009)12頁以下
田村善之『著作権法概説第2版』(2001)483頁

   --------------------

■参考サイト

(音が出るので注意)
サーキットの狼 池沢早人師(池沢さとし) オフィシャルウェブサイト

   --------------------

■追記2011.1.8

控訴審
2011年1月8日記事