最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

健康飲料営業誹謗事件

東京地裁平成22.7.2平成21(ワ)5988求償金等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      坂本康博

*裁判所サイト公表 2010.7.7
*キーワード:営業誹謗行為、競業禁止特約

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■事案

「原告らに会社を乗っ取られた」などの虚偽の事実を告知又は流布して原告らの営業上の信用を害したかどうかが争点となった事案

原告:栄養飲料製造販売会社ら
被告:栄養飲料製造販売会社ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号、会社法21条1項

1 本件覚書の趣旨、効力
2 原告らによる譲渡代金及び被告会社の債務の弁済
3 原告Xによる本件商標権移転登録手続請求の当否
4 被告会社による製品ヤングの製造、販売等の差止め
5 被告会社による営業誹謗行為の差止め及び謝罪広告の必要性
6 被告Y1、Y2、Y3の責任
7 被告会社の競業、営業誹謗による原告らの損害

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■事案の概要

「(1) 被告ヤング株式会社(以下「被告会社」という。)の事業全部の譲渡を受けたと主張する原告X(以下「原告X」という。)が,事業譲渡契約の約定(被告会社の負債の整理に関しては被告会社が責任をもって処理し,原告Xには何ら関係させないとする約定)にもかかわらず,被告会社の債務の弁済(第三者弁済)を余儀なくされたとして,被告会社に対しては,(1)民法650条1項若しくは702条1項の規定に基づく償還請求(一部請求)として,又は(2)債務不履行若しくは不法行為による損害賠償請求(一部請求)として,7617万9729円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息の支払を求め,被告Y1(被告会社の代表取締役。以下「被告Y1」という。),被告Y2(被告会社の取締役。以下「被告Y2」という。)及び被告Y3(被告会社の取締役。以下「被告Y3」という。)に対しては,会社法429条1項,430条の規定に基づき,被告会社と連帯(不真正連帯)して同額の損害の賠償を求め(上記第1,1),
(2) 原告Xが,被告会社に対し,上記事業譲渡契約(平成19年12月28日付け)に基づき,別紙商標目録記載1,2の商標権について,移転登録手続をすることを求め(上記第1,2),
(3) 上記事業譲渡契約には競業禁止特約(会社法21条2項)が含まれているにもかかわらず,被告会社が同契約後も別紙製品目録記載の製品(以下「製品ヤング」という。)を製造,販売,頒布するなどして原告らと競業したほか,「原告らに会社を乗っ取られた」などの虚偽の事実を告知又は流布して原告らの営業上の信用を害したとして,原告らが,被告会社に対し,(1)上記競業禁止特約に基づき,製品ヤングの製造,販売,頒布の差止め(上記第1,3),(2)不正競争防止法2条1項14号,3条に基づき,原告らに対する営業誹謗行為の差止め(上記第1,4),(3)不正競争防止法2条1項14号,14条に基づく信用回復措置として,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載(上記第1,5)をそれぞれ求め,
(4) 原告らが,被告会社に対しては,債務不履行,不法行為又は不正競争防止法4条に基づき,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対しては,会社法429条1項,430条に基づき,連帯(不真正連帯)して,被告会社の上記(3)の競業及び営業誹謗行為によって原告らが受けた損害の賠償として,原告Xについては220万円(慰謝料200万円,弁護士費用20万円),原告ヤングブレイン株式会社(以下「原告会社」という。)については550万円(信用毀損による損害500万円,弁護士費用50万円)及びこれらに対する平成21年3月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め(上記第1,6及び7)る事案」(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件覚書の趣旨、効力
2 原告らによる譲渡代金及び被告会社の債務の弁済
3 原告Xによる本件商標権移転登録手続請求の当否
4 被告会社による製品ヤングの製造、販売等の差止め

栄養飲料に関する事業譲渡について原被告間で覚書が締結されており、その趣旨が単なる株式譲渡契約なのか、債務を承継させずに事業再生を図る趣旨の事業譲渡契約なのかが争点となりました(26頁以下)。
結論としては、原告の主張の通り、事業譲渡契約と認定されています。
そのうえで、原告会社らの支出した被告会社の債務に関する費用について、その償還請求を裁判所は肯定しています(民法702条1項)。また、本件商標権移転登録手続請求についても、本件商標が譲渡の対象になっているとして、これを肯定しています。
もっとも、譲渡会社の競業禁止規定(会社法21条1項)の趣旨を含む本件事業譲渡契約に基づく差止についてはその必要性が認められていません。

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5 被告会社による営業誹謗行為の差止め及び謝罪広告の必要性

被告会社が複数の顧客に対して、「悪徳人間がピラミッド工場(判決注:別紙物件目録記載の工場・事務所をいうものと認められる。)に不法侵入し,被告Y1が出入りできないように警備会社をだまして鍵を変更して,立てこもっている。」、「原告会社や原告Xが行っていることは,詐欺であり,製品ヤングの窃盗であり,売上金の横領であり,近く刑事処罰,民事処罰される。」などの事実を記載した文書を配布した行為について、営業誹謗行為性(不正競争防止法2条1項14号)が肯定されています(31頁以下)。
そのうえで、営業誹謗行為について差止請求(3条)は認めたものの、信用回復措置(14条)としての謝罪広告の必要は認めていません。

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6 被告Y1、Y2、Y3の責任

被告Y1については、被告会社の代表者として、会社法429条1項により原告に生じた損害に関して賠償する責任があると認められています(32頁以下)。

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7 被告会社の競業、営業誹謗による原告らの損害

被告会社の営業誹謗行為により原告Xに対する慰謝料として100万円、原告会社の信用毀損による損害額として250万円が認定されています。また弁護士費用として合計35万円が認めれています(34頁以下)。

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■コメント

栄養飲料の製造販売事業の譲渡契約を巡って生じた紛争です。
この栄養飲料は、20種類の乳酸菌と酵母菌で製造された濃縮液(製品紹介|ヤングブレイン株式会社【健康はピラミッド】)となります。