最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

コンバース並行輸入品事件(控訴審)

知財高裁平成22.4.27平成21(ネ)10058商標権侵害差止等,商標権侵害不存在確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      中平 健
裁判官      上田洋幸

*裁判所サイト公表 2010.6.8
*キーワード:並行輸入、商標権、出所表示機能、品質保証機能、共同マーケティング契約、フレッドペリー事件、権利濫用、商品等混同惹起行為性、営業誹謗行為性、

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■事案

コンバース社製シューズの並行輸入品の商標権侵害性や不正競争行為性が争点となった事案の控訴審

原告(被控訴人、附帯控訴人):商社、版権管理会社、靴製造販売会社ら
被告(控訴人、附帯被控訴人):カジュアルシューズ等製造販売会社

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■結論

控訴棄却、附帯控訴認容

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■争点

条文 商標法25条、不正競争防止法2条1項1号、14号、独禁法19条

1 並行輸入の抗弁
2 権利濫用の抗弁
3 商標権無効の抗弁
4 故意過失の有無
5 損害論
6 不正競争防止法2条1項1号の成否
7 不正競争防止法2条1項14号の成否
8 独禁法に基づく請求の成否
9 濫訴による不法行為の成否

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■事案の概要

原審第1事件
『原告伊藤忠は,被告に対し,被告が(1)靴及びその包装に被告標章を付したものを輸入し,販売し,又は販売のために展示すること,(2)靴及びその包装に被告標章を付すること,(3)靴の商品に関する広告に被告標章を付して展示し,頒布し,又はこれを内容とする情報に被告標章を付して電磁的方法により提供することが原告商標権を侵害するものであると主張して,原告商標権に基づき,被告の上記行為((1)ないし(3))の差止め,(4)被告が占有する被告標章を付した靴及びその包装並びに靴の商品に関する広告の廃棄,(5)インターネット上の原判決別紙ウェブサイト目録1ないし3の各ウェブサイトの表示画面からの被告標章の抹消を求め』るなどした事案

原審第2事件
『(ア) 被告は,原告らが新米国コンバース社の商品に付された標章と同一の原告商標を付した靴を販売し,販売のために展示し,宣伝広告している行為は,原告らが製造する靴を,周知性のある新米国コンバース社の靴と誤認混同させる行為であり,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たると主張して,原告らに対し,原告商標を付した靴の販売,販売のための展示,宣伝広告の差止めを求めた。
(イ) 被告は,原告らが,被告が米国コンバース社標章を付した靴及び包装を輸入し,販売し,販売のために展示し,宣伝広告をする権利を有していない旨の宣伝流布をすることは,不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告知又は流布による不正競争に当たると主張して,原告らに対し,上記の宣伝流布の差止めを求め』るなどした事案(6頁以下)

<経緯>

S39 旧米国コンバース社が日本で靴を販売開始(茶谷産業扱い)
S48 井上商事が輸入販売
S56 月星化成がライセンスを受けて国内で製造販売
H5  原告伊藤忠の子会社がライセンスを受けてタオル等を国内で製造販売
H11 原告伊藤忠が靴以外の商品の商標権を譲受け
H13 旧米国コンバース社が倒産
H13 新米国コンバース社と原告伊藤忠が株式取得・商標権契約・共同マーケティング契約
H13 新米国コンバース社が旧社から靴の商標権を取得、原告伊藤忠がこれらを譲受け
H14 原告伊藤忠が原告ビーエムアイに商標権独占的通常実施権付与
H15 被告が被告商品(新米国コンバース社製)を輸入、販売
H15 新米国コンバース社を米国ナイキ社が買収
H17 原告ビーエムアイが原告コンバースフットウェアに商標権独占的通常実施権付与

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■判決内容

<争点>

1 並行輸入の抗弁

形式的には真正商品の輸入行為が商標権侵害に該当するものの、実質的には違法性を阻却するかどうか(並行輸入の抗弁の成否)について、フレッドペリー事件最高裁判例の3要件を踏まえ同一人性の要件及び品質管理性の要件の点から原審同様、違法性を阻却しないと判断しています(43頁以下)。

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2 権利濫用の抗弁

従前の商標権者が培ってきた原告商標に化体したグッドウィルを積極的に便乗利用しつつ、かたや同一の信用の化体した被告標章を付した商品に対して原告商標権を行使することは矛盾する態度であるとした権利濫用の抗弁についても、原審同様、認められていません(60頁以下)。

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3 商標権無効の抗弁
4 故意過失の有無
5 損害論
6 不正競争防止法2条1項1号の成否
7 不正競争防止法2条1項14号の成否
8 独禁法に基づく請求の成否
9 濫訴による不法行為の成否

損害論については、請求の拡張があり損害額に変更がありましたが、それ以外は原審の判断を維持しています。

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■コメント

真正商品の並行輸入が商標権を侵害するかどうかについては、国内の商標権者の出所表示機能と品質保証機能が害されるかどうかといった実質的な観点から判断されます(後掲フレッドペリー事件最高裁判決参照)。
原審判決の意義については、同一人性の要件の詳細な検討を行い、解釈を加えている点にあるとされています(後掲泉論文参照)。
なお、並行輸入と著作権、特許権、商標権、また、不正競争防止法での考え方、さらに違法性阻却論とライセンス契約違反性の関係については、後掲「新商標法の論点」282頁以下参照。

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■参考判例

コンバース並行輸入品事件(原審)
東京地裁平成21.7.23平成19(ワ)15580商標権侵害不存在確認等請求事件PDF
原審の移送申立却下決定に関する抗告審決定
知財高裁平成19.4.11平成19年(ラ)10001移送申立却下決定に対する抗告事件PDF
最高裁平成15.2.27平成14(受)1100損害賠償、商標権侵害差止等請求事件判決
フレッドペリー事件PDF

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■参考文献

小松陽一郎「並行輸入と商標権の侵害」『新商標法の論点』(2007)281頁以下
小野昌延、三山峻司『新・商標法概説』(2009)313頁以下

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■参考サイト

原審
LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
伊藤忠商事プレスリリース(2010年5月7日)
知的財産高等裁判所「コンバース」訴訟について
泉 克幸「商標権侵害と並行輸入との抗弁-「同一人性の要件」および「品質管理性の要件」」
速報判例解説 TKCローライブラリー

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■追記2010.6.14

名古屋の商標亭(弁理士廣田先生 2010.6.14記事)
コンバース事件の控訴審